第32話 バカ王子、夜中に冒険する
野盗に襲われた夜。俺たちは、念のために火を焚かずに野営をした。もしかすると、まだ野盗の残党が近くにいるかもしれなかったからな。
静かな夜だった。だが、その静けさの中で、何かが動いていた。王子だ。あいつは、こっそりテントを抜け出した。興奮していたのだろう。初めて戦場を目の当たりにし、命を奪い取らんとする者たちと直面したから。男だったら興奮しないほうが不自然だ。
だから夜中に外へ出てみたくなったんだろう。どこの世界でもやんちゃなガキってのは同じだ。理由なんてない。特に何をするわけでもない。興奮して眠れない夜は、ただ外の空気を吸い、暗闇をウロウロする。それだけで楽しいんだ。
しかし、王子がいないとわかった時の俺たちの慌てようと言ったらなかった。真っ青になって、すぐさま大騒ぎさ。昼間の野盗の残党が、まだ近くに潜んでいるかもしれない。もし王子が襲われでもしたら、俺たち全員死刑だ。それはわかりきっている。
俺と元ミュラー兵たちは、急いで鎧を脱いだ。あんな重たい鎧を着たままじゃ走れない。そして全速力で王子を探しに行った。草むらを抜け、木々を飛び越え、王子がどこにいるのか必死で探した。
そして、ついに見つけた。だがその時、彼はすでに危険な目に遭っていた。まさに昼間の野盗の残党に襲われかけていた。
その野盗は、王族に恨みを持っているようだった。そいつは、王族が優雅な生活をしていることに腹を立てていた。自分たちが惨めな生活を送る中、王族だけが贅沢をしているのが許せなかったそうだ。昼間は、金持ちの馬車を襲ったつもりが、実は王族の馬車だったことを知って、仲間の仇討ちも兼ねて、一矢報いようとしていた。
「本当に面倒な護衛対象だ」
俺は心の中で舌打ちしながら、すぐに野盗に向かって駆け出した。元ミュラー兵たちも俺に続いて、一気に距離を詰める。王子は、その男に襲われ、命を取られそうになっていた。俺たちは到着するや否や、その男を一気に始末する。
そして無事に王子を野営地まで連れ戻した。
「レオン、よくやった」
ヴォルフガングが俺に歩み寄り、感謝の言葉をかけてきた。しかし、俺はただ無言でうなずくばかりだった。王子を守れたことは良かったが、あのバカ王子が夜中にうろついている時点で、今後が心配だ。
その夜、俺とヴォルフガングはこっそりと話し合った。近衛兵団の戦い方についてだ。王族を守るための戦い方は理にかなっている。しかし、あの王子を守るには、それだけでは足りない。あの王子の無邪気な好奇心と無限の行動力を抑えるためには、機動力のある見張りが必要だ。王子の無茶な行動を阻止できる力と、王子相手にモノを言える胆力もね。
「近衛兵団の戦い方は本当に素晴らしい。これまで王族を守ってきた歴史と伝統が育んだ戦い方なのだろう。心から敬意を表するよ。だが、あの王子の見張り役だけは、俺たちの方が向いているようだ」
俺が言うと、ヴォルフガングも頷いた。同じように考えていたらしい。さらに、王子の戦場視察が終わって王都に戻ったら、ミュラー流剣術を近衛兵団に教えてほしいとまで言ってきた。
ヴォルフガングの言葉に、俺は少し驚いた。だが、同時に誇りを感じた。ミュラー流剣術が、王族を守るための力になれる。
こうして俺とヴォルフガングの間に、少しずつ信頼の絆が生まれ始めた。




