第31話 近衛兵の真価
野盗の襲撃を受けた。だが、俺たちは無事に逃げることができた。俺は馬車の中から、その光景をただ見ていた。近衛兵団が作った「星辰縛鎖の陣」が、俺たちの周りに見事な壁を築き、野盗の猛攻を受け止めていた。
近衛兵団は俺たちを逃がすため、あの場所に置き去りになった。それで良かったのだ。星辰縛鎖の陣は、王族を守るために敵を引き止める陣形だ。近衛兵団は、王族のために命を投げ出す部隊なのだ。それを俺は、身をもって体感した。
襲撃から少し離れた場所で、俺たちの馬車は一度止まった。出発前に決めていた、もし何かあった時の集合場所だった。まだ予定より早かったが、その日はそこで一泊することになった。
このときの問題は、護衛が俺とヴォルフガングの2人だけになってしまったことだ。俺たちが守るべきは、王子とその側近4人、そして馬車の運転手2人だ。若干の心細さが胸をよぎる。
近衛兵団を置き去りにしてしまったが、元ミュラー兵がいれば野盗には勝てる。だが、慣れない装備を身につけている上に、敵の数は多い。時間がかかるだろう。あの場所からここまで徒歩で来るなら、明日になってしまうかもしれない。そんな不安が頭をよぎった。
せめて王子だけでも守れるように護衛体制を整えなければ、と思っていたその時。
「む、来たか」
ヴォルフガングが向いている方に目をやると、遠くに近衛兵団が見えた。人間の壁となっていた近衛兵たちと元ミュラー兵らが、全員戻ってきたのだ。傷を負っている者もいたが、誰一人として欠けることなく、合流してくれた。まさかこんなに早く戻ってくるとは思わなかった。
俺が驚いた顔をしていると「レオン、近衛兵団をなめるなよ」とヴォルフガングが言った。確かに、俺は少し甘く見ていたのかもしれない。防御だけの連中だと思っていた。俺は近衛兵団の実力を完全に侮っていた。
「近衛兵団は、王族を守るための部隊だ。敵に勝つことなんて二の次。実力的に勝てそうだと思っても、まず敵を倒すことが最初じゃない。王族を守ること、王族が逃げる時間を稼ぐこと、それが何よりも最優先なんだ」
ヴォルフガングの言葉は、鋭い刃のように俺の心に突き刺さった。確かに、俺は剣を振るって敵を倒すことが目標だと思っていた。しかし、近衛兵団にとっては、倒すべき敵の前に、守るべきものがある。王族だ。
「分かったか?」
ヴォルフガングの目が、俺の目をじっと見据えていた。その瞳に込められた覚悟を感じながら、俺はただ頷くことしかできなかった。
「分かってくれたならいい。逆に俺からも礼を言いたい。近衛兵の戻りが俺の予想より早かった。お前たち元ミュラー兵のおかげだ。感謝する」
ヴォルフガングも俺たちの実力を甘く見ていたようだ。彼は感謝の意を表し、俺たちのおかげで王子の護衛体制が早めに整ったと認めた。
俺は、その言葉に少しだけ誇りを感じたが、同時に、自分がまだまだ理解していないことが多いとも感じた。近衛兵団とミュラー兵。俺たちは共に戦う仲間として、もっと理解し合わなければならない。そんなことを、この時の俺は思っていた。




