第30話 星辰縛鎖の陣
戦場に行く王子を護衛することになった俺たち。最初から不安はあった。だが、王子を護衛しろと言われれば、それに従うしかない。俺たちは、王子の馬車を囲んで行軍を開始した。
行軍はゆっくりとしたものだった。馬車は2台。王子と側近、それにヴォルフガングが乗る豪華な馬車と、もう一台は王子の荷物や家来、そして俺が乗る馬車だ。そして、その2台の馬車を守るために、近衛兵たちが前と左右を固めて歩き、後ろには元ミュラー兵がついていく。
問題は装備だ。俺たちも近衛兵の正式装備を着させられた。フルアーマープレートに近い全身鎧をまとわされたんだ。これが重い。動きにくい。走ることはおろか、馬車を護衛しながら歩くのが精一杯だ。また視界も狭い。まるで鉄の牢獄に閉じ込められた気分だった。
王子の馬車も、とにかく揺れを抑えるように慎重に進む。馬車が揺れたら、王子が酔ってしまうらしい。そのため、進みは遅い。ミュラー兵だけなら3日で着く距離だが、今回は一週間かかった。
初めての護衛。しかも慣れない装備。俺はやや緊張していた。呼吸が浅くなるのが分かる。汗が背中を伝い、体はじっとりと湿っていった。本当にこんな状態で、何かあった時に俺たちは活躍できるのか。
だから自分に言い聞かせたんだ。戦場に行くまでは国内を移動するだけだ。魔物に出くわすこともないだろう。ってね。
だが、その安易な考えは、すぐに裏切られてしまった。
「敵襲!」
前方の近衛兵が声を上げた。周囲を見渡すと、いつの間にか野盗が俺たちを包囲し、襲いかかってきた。
野盗の人数は、50人程度だったか。こちらの1.5倍ほどだったと思う。しかし装備はバラバラ。剣だったり斧だったり、木の棒を持っているだけのヤツもいる。粗末ながら革の鎧を着てるヤツもいた。全員が素人に毛が生えた程度に見えた。この不景気のせいで、まともな仕事を無くした奴らが手を染めたのだろう。しかし、こんな連中でも、数で押されれば普通の兵士なら負けてしまう。
だが、相手がその程度なら、俺たちミュラー兵が5人もいれば十分に片づけられるだろう。そう思っていた、その時だ。ヴォルフガングが鋭い声で号令を飛ばした。
「総員、馬車を守れ! 星辰縛鎖の陣だ!」
次の瞬間、近衛兵たちが一糸乱れぬ動きですばやく陣形を整え、2台の馬車を守るように周囲に鉄壁の陣形を作り上げる。星辰鉄鎖の陣だ。これは近衛兵団が王族を守るために編み出した独自の防御陣形の1つ。その名が示す通り、天の星々が絡み合って網を張るかのように、襲いかかる敵を、兵士たちが連携して受け流し、絡め取る。芸術的とも言えるその連携を初めてみた俺は、思わず感嘆の息を漏らした。
野盗は人数で勝っていた。だが、星辰縛鎖の陣はそれを補って余りある。近衛兵団は、野盗の猛攻を受け止め、そしてじわじわと押し返し始めた。陣は少しずつ、しかし確実に動き、やがて俺たちの前に抜け道ができた。
その瞬間だ。
「行け!」
ヴォルフガングの声が響く。王子の馬車は、馬に鞭を入れ、全速力でその抜け道を駆け抜けた。俺たちの馬車も後に続いた。ひたすら王子の馬車を追いかけた。蹄の音が鳴り響き、揺れる馬車に必死にしがみつきながら、俺は近衛兵を侮っていた自分を恥じていた。




