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第3話 目覚め

 目を開けた瞬間、違和感が全身を襲った。目の前には見慣れない天井、石造りの暗い部屋。まるで中世の城の中のような空間だった。俺が寝ていたのは粗末な木のベッドで、体を起こそうとすると、全身に激痛が走った。


「……っ!?」


 激痛に思わず息を呑む。体中が打撲のように痛み、何かが体中を締め付けている感覚がした。目をやると、ところどころボロボロの包帯で雑な治療が施されていた。だが、それが効いているかどうかも怪しいほど、俺の体はひどい状態だった。


「ここは……どこだ?」


 自分の声が妙に低く響く。状況が全く理解できない俺は、自分の体を見つめたまま、しばらく動けずにいた。体の痛みだけでなく、頭の中もぐちゃぐちゃだった。さっきまで鬼島と揉み合っていたはずだ。爆弾の光を浴びたのも覚えている。だが、次に目を開けたら、これは一体どういうことだ?


 何もかもが理解できなかった。目を閉じ、もう一度状況を整理しようとしたその瞬間、横から声がかかった。


「おい、レオン。大丈夫か?」


 その瞬間、心臓が跳ね上がった。俺は、声の方向へゆっくりと顔を向けた。そこには、俺の木のベッドの横に立ち、俺を心配そうに見ている男がいた。男は短めの黒髪に、端正な顔立ち。そして、鋭いが優しさを秘めた目をしていた。


(…誰だ?)


 口を開きかけたが、言葉は出てこない。というよりも、俺自身がその問いの答えを知っていた。だからその時の俺は、驚きで言葉を飲み込んでしまったのだ。横にいたのは、俺の兄――ルイス・ミュラーだ。


「なんだ、レオン。顔が青ざめてるぞ。あんまり無理はするなよ、まだ傷が治ってないんだからさ」


 レオン?俺のことをそう呼んだ。いや、俺は黒崎剛志だ。さっきまで鬼島と揉み合っていたはず。なぜこんなところに?混乱が頭の中を占めていく。

 だが、さらに驚いたのは、ルイスが話している言葉だ。まったく聞いたことのない言語で話しかけてくる。俺が知っているどの言葉とも違う、不思議な響きを持った言語だった。にもかかわらず、俺はその言葉を理解できた。

 そして次の瞬間、俺の脳内に突如として信じられないものが押し寄せてきた。


 ――レオン・ミュラーの17年間の記憶。


 それは、まるで洪水のように一気に流れ込んできた。目の前の光景がぐるぐると回り、頭が割れるような痛みに襲われる。知らない男の記憶、見たことのない景色、感じたことのない感情。それらが全て、俺の脳内に侵入してきた。


「ぐ…っ、ああ…!」


 思わず俺は声を上げた。吐きそうになるほどの頭痛に襲われ、頭を抱えた。まるで俺自身が、17年間を一瞬で生きたような感覚だった。無理矢理にレオンの記憶を脳内に詰め込まれながら、言葉にしがたい恐怖と混乱が交錯していた。

 だが、その混乱の中で、ひとつだけ確かなことがあった。

 ――俺はもう黒崎剛志じゃない。

 目の前の現実はすべて、別の世界のものだった。そして、俺の意識も、肉体も、すでに黒崎剛志ではなくなっていた。俺は死んで、この世界のレオン・ミュラーという少年に転生していた。

 一体どういうことなのかはわからないが、何故かひとつだけはっきりと分かった。俺は二度と、あの世界に戻ることはできない。この世界でレオンとして生きていくしかないのだ。


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