第28話 兄の優しさ
ヴォルフガングとの一対一の試合に勝った。それなのに、ミュラー流剣術は近衛兵団に受け入れられなかった。俺の剣がヴォルフガングの喉元寸前まで差し込まれ勝利を収めた瞬間、これで全てが変わると思った。だが、現実は違った。
「その剣では、王は守れぬ」
ヴォルフガングの言葉が、まだ耳にこびりついて離れない。勝利してなお、俺たちの剣術は拒否された。理由が分からなかった。どうして俺の剣ではダメなのか。負け惜しみか?それとも、ただの偏見か?頭に血が上ったが、同時に悔しさが心に渦巻いた。
その後、俺たちは引き続き近衛兵団と別々に練習を続けることになった。変わった点といえば、稽古場が広く使えるようになったことと、近衛兵たちが時折こちらをチラリと見るようになったこと。好奇心だろうか、あるいは多少の興味関心があるのだろうか。どちらにせよ、俺の悔しさが解消されることはなかった。
そんな中、兄から手紙が届いた。封を開くと、そこには今のミュラー軍の状況が書かれていた。戦力を大幅に減らして困っていること、もし俺たちが戻れば大いに助かるだろうという内容が書かれていた。さらに、兄は王子に頼めば、もしかすると戻ることができるかもしれないという提案もしてくれた。兄は王子のお気に入りだから、お願いすればきっと聞き入れてくれるはずだ、と。
だが、その真意は違う。兄は気遣ってくれていたのだ。『近衛兵団で苦労しているなら、いつでも戻ってきてもいいんだぞ』と兄は俺を心配していた。
その優しさが、胸に刺さる。俺はすこし迷った。近衛兵団での生活は厳しいし、成果も出ていない。俺たちの剣術は受け入れられないままだ。この状況から逃げ出しても、誰も俺を責めることはないだろう。
だが、それでも俺はここに残ることを選んだ。まだ、希望がある。俺たちの剣が、近衛兵を強くするかもしれない。その可能性を捨てるわけにはいかなかった。
俺は兄への返事を書いた。今はまだこの場所で挑戦を続けたい、と。そして一緒に配属された仲間たちにも話した。「兄から帰ってこないかと言われたが、もう少し頑張ろうと思う」と伝えると、彼らも納得してくれた。まだ俺たちにはやるべきことがある。
だが、その決断が予期せぬ方向に転がる。俺が戦場に戻ることを兄から誘われた話が、なぜか王子の耳に入ってしまった。そして、王子がこう言い出したのだ。
「ぼくも戦場に行きたい」と。




