第23話 王への説明
呼び出しを受けたからには、兄と共に謁見の間へと足を運ばなければならない。俺たちは再び、王の前に立つことになる。兄は何度か戦果報告のために謁見の間に足を運んでいたが、俺はキルン砦の戦果報告以来だった。兄が俺をここに連れてこなかったのは、マルセルの存在を警戒してのことだろう。あのエルフの文官、俺を引き抜こうとする動きが見え透いていた。だから、兄は俺を王都に近寄らせないようにしていた。
それでも、今回は逃げられない。この国では、王の命令は絶対。謁見の間に入ると、国王は玉座の上で悠然と座っていた。玉座の周りには、国を動かす高級文官たちがずらりと並んでいる。もちろんマルセルもいた。彼らの目は一様に鋭い。俺たちを見下ろすその視線に、何とも言えない圧力があった。空気は重く、まるで体に纏わりつくようだ。特にマルセルは、笑顔と疑念の入り混じった顔で俺たちを見ている。何も言わないが、その顔からは期待感のようなものを感じ取れた。俺がどう出るか、確かめようとでもしているのだろうか。
国王が口を開く前に、周囲の文官たちが先に口を挟んだ。彼らの目はまっすぐ兄に向けられ、鋭い声が飛び交った。
「ミュラー兵が急に強くなった理由を、王に説明せよ」と。
言われた通り、兄が口を開く。
「ミュラー兵が急に強くなった理由、それはミュラー流剣術のおかげです。」
兄が、落ち着いて言葉を続ける。
「この剣術は、弟がつくったものです。弟は魔族に勝つ方法を必死に研究してきました。その過程で、生身で魔族の攻撃を食らうことさえあった。そうして生まれたのが、この剣術です。この剣術を習得すれば、誰でも肉体強化魔法を使えるようになります。」
ここで王と文官たちの顔に驚きが広がるのが見て取れる。兄が続ける。
「肉体強化魔法に必要なのは、イメージです。この魔法には魔力は必要ありません。実際、魔力がない弟でも使えるのです。練習すれば、誰でも使えるようになります。」
王と文官たちは、驚きのあまり言葉を発することができない。その目は大きく見開かれ、言葉を失っている。彼らにとって、これは信じがたいことだろう。なぜなら、この世界において魔法は特別なものだとから。魔法を使うためには、膨大な魔力と長年の修行や研究が必要。そしてもちろん、魔力がなければ、魔法を使うことは不可能というのが常識。そんな中で、魔力を持たない者が、イメージだけで短期間で肉体強化魔法を使えるようになる、などという話をにわかに信じることができなかったのだ。
特に、エルフであるマルセルが一番驚いているように見えた。この世界で、エルフは魔法に対するこだわりが強い種族だ。魔力量で種族の優劣を考えている節もある。だから、エルフの常識では、魔力を持たない人間でも簡単に魔法を使えるなどという現実を、簡単に受け入れることはできない。
「…それは、一体どういうことだ?」
マルセルがようやく声を絞り出す。
文官たちは言葉を交わし、思考を巡らせている。しかし、誰もがその考えを追いつかせることができていない様子だ。どこかで、何かが崩れ去る音が聞こえてきそうだった。
その時、国王が突然、あっけらかんとした声で信じられない言葉を口にした。
「ミュラー流剣術、すばらしいじゃないか! よし、それを王の近衛兵に教えてくれ」
国王の声は、まるで何事もなかったかのような軽い口調だった。
「いや、お前を近衛兵にした方が早いな」
その言葉に、俺は一瞬、耳を疑った。兄に視線を向けると、兄もまた、驚きの表情を浮かべていた。
こうして俺は、近衛兵になった。




