第21話 兄の覚悟と俺の決意
俺が兄やミュラー家の兵士たちに剣道を教え始めてから、およそ一年が経過した。その間に、兄は俺よりも強くなった。才能があるのはもちろんだが、兄の努力は常人離れしていた。
毎日、日が暮れるまで木剣を振り続けた兄。その結果、彼の手には無数のマメができ、木剣の柄は誰よりもボロボロになっていた。彼が寝食を忘れてまで修練に打ち込む姿を見て、俺は尊敬とともに畏怖の念を抱かざるを得なかった。
そんなある日、兄は剣道を『ミュラー流剣術』と名付けた。その名前には、兄の覚悟が込められていた。彼はこの剣術を使って、戦場で活躍し、ミュラー家の地位を向上させるつもりだった。具体的には、ミュラー家の貴族としての階級を上げるために、武官として名を馳せようと考えていたのだ。ミュラー家は地方貴族としての地位に甘んじていたが、兄はそれに満足していなかった。
「ミュラー家を、より高みへ引き上げる。それが俺の役目だ。」
兄はそう言って、その日も木剣を振るっていた。彼の目は炎のように燃え、決意に満ちていた。
俺はその言葉を聞いて、自然とこう答えていた。
「兄さんがそのつもりなら、俺も手伝おう。全力でサポートするよ。」
すると、兄の手が止まった。彼は木剣を下ろし、まっすぐに俺を見つめた。その目は、まるで俺の心を見透かすかのような鋭さを帯びていた。
「お前が俺を手伝ってくれるのは嬉しい。だが本当にそれはお前の本心か?」
兄の目は、まるで俺の心の中を見透かすように、真っ直ぐに俺を見つめていた。その目は、ただの問いかけではなかった。兄の目には、俺の本心を見抜こうとする強い意志が込められていた。
その一瞬、俺は何も言えなかった。俺は軽く笑いながら言葉を濁そうかとも考えたが、兄のまっすぐな視線はそれを許さなかった。逃げられない。
心の中で、答えを導き出す。少しの間、沈黙が続いた。その後、俺は深く考えた末に、こう答えた。
「本当は…俺は、政治家になりたい。国の政治に携わりたいんだ」
それが本心だった。俺は尊敬する兄の応援がしたい。それも本心だ。だが、それだけでは満足できない。俺が本当に目指しているのは、国の政治を任される立場だ。より良い国を作るために、国民のために何かを成し遂げたい。戦場で剣を振るうことよりも、国全体を見渡し、人々の生活を良くする方法を考える――それが俺が本当にやりたいことだった。
兄はその言葉を聞いて、しばらく無言で俺を見つめていた。そして、ふと微笑んでこう言った。
「そうか…それが、お前の本心か。」
俺が頷くと、兄は笑みを深めた。
「それならば、俺は武官として出世するから、お前は文官として出世しろ。そして、2人でミュラー家をもりたてよう。魔王軍から国を守るのは俺の役目、政治で国を豊かにするのはお前の役目だ。」
俺は、兄の言葉に胸が熱くなった。彼は俺の夢を否定することなく、それを全力で応援してくれた。兄は、男ならば自分のやりたいことを貫いて、立身出世するべきだという信念を持っていた。そして、その信念に基づき、俺の夢をも受け入れてくれたのだ。
思えば、自分のやりたいことを真剣に他人から聞かれたのは、この時が初めてだったかもしれない。黒崎剛志として生きてきた34年間を含めてもね。
「ありがとう、兄さん。」
俺は素直に感謝の言葉を口にした。兄の言葉は、俺にとって大きな励みとなった。
これからの道は決して平坦ではないだろう。だが、兄と共に進むなら、どんな困難も乗り越えられる気がした。ミュラー流剣術と俺の知恵――この二つを武器に、俺たちはミュラー家を、いや、この国をもっと良くしていく。
兄の背中を見つめながら、俺はそう心に誓った。




