第20話 兵士への指導
ミュラー家の兵士たちにも剣道を教えることになった。ミュラー家の兵士は、半分農民で半分兵士みたいな身分。有事の際は武器を取るが、普段は畑を耕す農民同然の生活を送っている。兵士としての訓練といっても、週に一度ミュラー家の裏庭で木剣を振り回すだけ。素振りや型の稽古なんて一切やらない。相手と向き合い、いきなり打ち合う。それだけ。実戦的と言えば聞こえは良いが、ただの乱雑な殴り合いだ。まるで子供のチャンバラ遊び。
これはミュラー家の兵士に限った話ではなく、ほとんどの地方貴族の兵士が同じような状態だった。半分農民のような連中が、わずかに稽古をつけられるだけ。まともな戦士には程遠い。
だから俺はミュラー家の兵士たちに、剣道の基礎中の基礎から丁寧に教えることにした。剣道においては、基礎が一番大事だ。剣を握る角度、足の運び、気を高めて一気に踏み込む。そのすべてが戦いにおいて重要な要素になる。兄のような剣の才能を持たない兵士たちにとっては、地道な鍛錬が何より大事だ。彼らの動きは鈍く、最初の数ヶ月間は思うように進まなかった。それでも、根気よく基礎を徹底的に教えた。何度も何度も繰り返し教え込んだ。最初は戸惑っていた兵士たちも、次第に俺の教えに慣れ始め、少しずつ形になっていった。
半年が過ぎたころ、ようやく兵士の中に肉体強化魔法を使える者が現れ始めた。もちろん、兄や俺ほどの強力な魔法ではない。それでも剣道の上達に伴って、確実に魔法が習得されていく様子が見て取れた。俺の仮説は正しかった。剣道の修練を積むことで、誰でも肉体強化魔法が使えるようになる。
そしてそのころ、兄はというと剣道と肉体強化魔法を完全に使いこなせるようになっていた。兄の動きはすでに俺よりも速く、力強い。もちろん、他のミュラー兵に、兄ほどの急成長を遂げる者は皆無。兄は別格であり、彼の成長速度は他の兵士たちとは比べ物にならない。あの才能が俺にもあれば、他のミュラー兵に剣道を教えなくても、俺と兄の2人だけで魔王軍を殲滅できるんじゃないだろうか。俺は胸の内でそう笑いながらも、そんな兄の存在に誇りを感じていた。
ひとつだけ確かなこと。それはこの時点で俺たちミュラー家は、かつてない強さを手に入れていたってこと。




