第18話 兄への説明
剣の稽古のあと、しばらく兄は黙り込んだ。そして俺に質問してきた。その眼差しは鋭かった。いつもの優しい兄ではなく、当主としての顔だった。俺の中に緊張が走る。
「正直に答えろ、レオン。どうして急にそんなに強くなれた? お前が使ったのは、肉体強化魔法なのか?」
真面目な兄らしく、まっすぐに質問してきた。兄は誠実な人間だ。律儀で、厳しい正義感を持っている。この国の規律に反する者は容赦なく裁く。肉体強化魔法――それは魔族の専売特許であり、人間が使えば、魔族と何らかの繋がりがあると疑われても仕方がない。下手に答えれば、俺は処罰されかねない。
兄に対して嘘をつくことはできない。だが、本物のレオンはすでに死んでいて、黒崎剛志の魂がレオンの肉体に乗り移ったという話をしても、信じて貰えるとは思えない。俺は慎重に言葉を選びながら、こう答えた。
「…正直、俺自身もよく分かってないんだ、兄さん。先日の戦場で、オーガに殴られた時…何かが俺の中に入ってきたような感じがした。それからだ、さっきの戦い方ができるようになったのは…」
言葉を絞り出すように伝える俺。
兄は少しの間黙り込んだ。冷たい風が庭を吹き抜け、木々の葉がさわさわと音を立てる。その沈黙は俺を不安にさせたが、次の瞬間、兄はつぶやくように納得した様子で言った。
「…人は臨死体験をすると、不思議なことが起こると聞いたことがある。もしかすると、お前はオーガに殴られたことで、その力を手に入れたのかもしれないな…」
兄のその言葉に、俺は少し安堵した。だが、安心するのはまだ早かった。
「レオン…俺も、オーガに殴られたら、同じ力を手に入れられるのだろうか?」
兄のその言葉に、俺は一瞬呆然とした。兄は本気で言っている。彼の真剣な眼差しから、それが冗談ではないことが分かる。困ったことになった。兄はどうやら、この力が欲しいと思っているらしい。
しかし、マズい。オーガが殴れば、人間は確実に死ぬ。兄にオーガに殴らせるなんて、正気の沙汰ではない。俺は兄を死なせたくない。オーガの一撃がどれだけの破壊力を持つか、俺自身が最もよく知っているからだ。
「それは…勘弁してくれ、兄さん。オーガの一撃を受けて生き延びるのは、運が良かっただけだ。それに、兄さんには他のやり方がある。俺が新しく覚えた剣技を教えるから、まずはそれからやってみないか」
兄に死なれては元も子もない。だから俺は苦肉の策として、兄に剣道を教えることにした。もちろん、これが剣道だとは言わず、『オーガに殴られた後に自然にできるようになった剣技』という形で。
「それで肉体強化魔法が使えるようになるなら良いが……」
兄はしぶしぶ承知してくれた。こうして、俺と兄の新たな稽古が始まった。
そして兄は、すぐに肉体強化魔法が使えるようになる。




