第16話 駆け引き
マルセルから俺の戦場での戦い方について質問を受け、返答に困る兄。マルセルは続けて俺にも質問してきた。君は優秀だから、マルセル兵団に入らないか、と。
俺はマルセルの申し出を断ることにした。これ以上兄が困っている姿を見ていられなかったからだ。兄は俺をマルセル兵団に入団させたくないようだった。しかし、兄は真面目だから、自分より身分が上のマルセルに断りをいれることなんてできない。兄はこれまでずっとレオンを助けてくれた。そんな兄を捨ててマルセル兵団に入るわけにはいかない。だから、マルセルの申し出を俺から断ろうとした。
俺はできるだけ遠回しに、そして形式張った言い方でマルセルに伝えた。
「私の剣技は、魔族より弱い人間が戦場で生き延びるために編み出した独自の技術です。たとえ私より身分が上の方の申し出であっても、その技術を流出させるようなマネはできません。この技術は私たちだけのものです」
嘘は言っていない。しかし言葉の響きは少し硬く、威圧的に感じられたかもしれない。通常ならば、身分の高い者に対して質問に素直に答えないのは規律違反だ。しかし、ここは謁見の間ではなく、廊下だった。幸運なことに、他に人はいない。この状況では、規律違反をしても証拠が残らない。もしここでマルセルの機嫌を損ねても、命を奪われることはない。彼の心証が悪くなるだけ。
すると、マルセルは意外にも柔らかな笑みを浮かべ、こう返答してきた。
「君を困らせるつもりはないんだ。ただ、君の戦い方はまるで上級魔族が使う肉体強化魔法を使ったかのようだと聞いたので、とても気になっていただけだよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺たちは驚いた。兄が先程の報告の際、俺の戦い方の詳細には触れなかった。どうやらマルセルには別の情報源があるようだった。そして俺の戦い方が、上級魔族しか使えないはずの肉体強化魔法に似ていると知ったのも、このときが最初だ。
最後に、マルセルは微笑みながら、「今後何か困ったことがあれば、いつでも頼ってくれて構わないよ」と言って、その場を離れた。彼の笑顔は終始胡散臭いもので、何か裏がありそうだと感じたが、何も言わず見送るしかなかった。
こうして、俺は初めての城訪問を終え、兄と一緒に家への帰路に着いた。家へ向かう馬車の中、兄はずっと無言だった。どうやら、俺の戦い方が魔族の肉体強化魔法を使ったようだと言われたことを気にしている様子だった。兄としては、俺がそのような魔法を使うことに不安を抱いているのだろう。
実際、俺もマルセルの言葉は引っかかっていた。確かにあの戦い方をすると、自分の筋力だけでは到底できないような動きが可能だった。肉体強化魔法だと言われると、しっくりくる。ここで問題なのは、その魔法が、魔族特有のものだということ。




