第15話 マルセル・アヴェール
王への戦果報告を終え、俺は兄とともに城を後にしようとしていた。その時、後ろからかけられた上品な声に、俺たちは足を止めた。
「ルイス君、少しいいかな?」
振り返ると、そこに立っていたのは、マルセル・アヴェールだった。王の謁見の間で、他の高級文官たちと一緒に立っていたエルフ。文官どもの中では、彼だけが唯一、兄の戦果報告を真剣に聞いていた。
マルセルは、俺の戦場での様子について詳しく聞きたがっていた。どんな戦い方をしたのか、どんな活躍をしたのか、非常に興味を持っている様子だった。兄は少し困惑しながらも、なんとか答えようとするが、明らかに言葉に詰まっていた。
兄はマルセルの目的に気づいていた。マルセルは以前から、国内の優秀な兵士を、法外な報酬や強引な手法を使って集め、自分の兵団を強化していた。この頃、国内の魔法銃兵のほとんどがマルセルの兵団に所属していた。キルンの砦に魔法銃兵が極端に少なかったのはそのためだ。
マルセルは俺をマルセル兵団に勧誘しようとしていた。
俺もマルセルの名前だけは知っていた。レオンの記憶の中にあったからな。国内でもかなり評判の男だ。エルフ族であるマルセルは、国外からの移民として人間の国であるヒルトハイム王国にやってきた。そこでその才覚を認められ高級文官の座まで上り詰めた。この頃はもうすでに、王やその周りの文官たちが何も考えず贅沢な暮らしを楽しむ一方で、実質的に政治はマルセルが牛耳っていた。
「それにしても…弟君はなかなか素晴らしい動きをするようですね。我が兵団にも、弟君のような優秀な人材がいればなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、兄の目がかすかに揺れた。
マルセルの言葉は、決して強要ではなかったが、拒絶も許されない。兄は唇を引き結び、俺を守ろうとしているのがわかった。だが、そこにはどうしようもない身分の差がある。
(俺はどうするべきだ…?)
マルセルの誘いに乗るべきか、兄の意思を尊重するべきか。自分の中で葛藤が生じた。しかし、俺の人生は俺のものだ。誰にも操られることはない。
(俺の答えは…)
そう決意を固めた瞬間、マルセルの冷徹な笑顔が俺を捉えた。
「弟君、君自身の考えも聞いてみたいものだ」
マルセルのその言葉に、俺は覚悟を決めた。




