第14話 堕落したものたち
国王と高官たちの無関心な態度に、俺は衝撃を受けた。彼らは魔王軍と戦争中であるヒルトハイム王国の中心にいる者たちのはずだ。国を率いる者が、戦争を前にしてこれではいけない。彼らがこの調子では、遅かれ早かれこの国は滅びる。背筋が寒くなる思いがした。
もちろん、戦争というのは本来、為政者として避けるべき行為だ。戦争では多くの命が失われ、国は疲弊する。
しかし、避けられない戦争というものもある。そのときは、必ず勝たなくてはならない。負けてしまえば、さらに多くのものを失い、立ち直れなくなるからだ。また、戦争をうまく利用すれば、国民を団結させる力にもなるし、戦後の復興への足がかりにもなる。
そしてこの国はいま、戦争の真っ最中だ。ならば、為政者として最優先すべきは、この戦争に勝つことだ。それにも関わらず、国王や高官たちは、その最も重要なことを軽視している。まるでどこか遠い国で起こっている出来事のように。もしこれが続けば、兵士たちがどれだけ頑張っても、この国はいずれ魔王軍に滅ぼされてしまうだろう。
この国を存続させ、多くの国民の命を守るためには、早急にこの国のトップを変更し、政治を立て直す必要がある。腐った政治を立て直すことが最も重要であり、最優先で取り組むべきこの国の課題だ。そう思いながら、兄が国王に戦果を報告するのを横で聞いていた。
そういえば、兄の戦果報告を聞きながら、もう一つ気づいたことがあった。それは、王子が兄を見つめる目が、妙に輝いていたのだ。王子はまだ10歳ぐらい。小柄で、幼さの残る少年だったが、彼の目は兄に向けられたまま、ずっとキラキラと光っていた。どうやら、王子は兄のファンらしい。報告の間も、誰よりも真剣に兄の言葉を聞いていた。あの年頃の男の子は、強い戦士に憧れるものだ。
ともあれ、無事に戦果報告は終わり、俺たちは城を出ることになった。長い廊下を歩きながら、豪華すぎる装飾に苛立ちを覚える。どれだけの血が流れ、この贅沢が成り立っているのかを考えると、腸が煮えくりかえる。
その時、後ろから声がかかった。
「ルイス君、少しいいかな?」
振り返ると、そこに立っていたのは、一人のエルフだった。彼は落ち着いた雰囲気をしていて、ただそこにいるだけで知性と品性が感じられる。長い銀髪を背中に垂らし、年齢不詳の顔には深い思慮の跡が伺える。
彼の名はマルセル・アヴェール。エルフ族の出身でありながら、人間の国であるヒルトハイム王国で高級文官にまで上り詰めた男。そして、この頃の最悪のヒルトハイム王国を作り上げた元凶でもある。




