冒険者ギルド
「アルト君、起きて下さい。」
スターチスの声で目を覚ますとそこは既に街中だった。
「全然起きないので、先に移動しておきました。」
二度寝してからの記憶が全くない...やはりスカウト系の気配感知を取っておくべきか...
「先ずは服、それから消耗品を買って...」
ブツブツと言いながら店を物色するスターチス。
あれよあれよという間に僕の着せ替えが始まり、いくつかの服を購入。
基本的に無頓着なスターチスは子供服なんてすぐ着られなくなるのだから、何でもいいと思ってるに違いない。
店員が進めるままに買っていた。
次に消耗品の補充を手際良く行い、最後に防具屋に行く。
「ちょっとお願いがあるのだけれど。」
革防具を作成していた職人に話しかけ、二人で僕を見る。
「戦闘中に落ちないようにって、こんな小さい子を連れてどこに行こうって言うんだい?」
首を傾げて考え「ダンジョンとか?」と答えるスターチス。
「馬鹿言ってんじゃないよ、背負ってて泣かれでもしたらモンスターがこぞって集まって来ちまうぞ?」
「大丈夫、泣かないから。」
グッと親指を立てる。
やれやれとため息をつきつつ僕の採寸を始めた。
一通り測って「夕方また取りに来い、それまでには完成しといてやらぁ。」
スターチスは了解し店を後にした。
待ち時間が生まれたので、僕達は冒険者ギルドへ行く事になった。
冒険者ギルド!!??っと興奮して目を煌めかせると「むさいおっさんのたまり場です。」と余り乗り気じゃ無さそうだ。
「私はこの見た目なので毎回必ず子供扱いされたり、臭い息を近くで吐かれたりします。」普段のスターチスからは想像出来ない目付きで話す。
「しかも今回は貴方が居ますからね、確実に絡まれます。」はぁと小さくため息をつく。そんなに嫌なら行かなきゃいいのに?と聞くと「そろそろ仕事をしておかないと、二人で山暮らしになりますよ?」
「おぁねない?」
「まだ暫くは大丈夫ですが、昨日の様にお湯を使ったりは無理ですね。」
異世界でもお金は変わらぬ存在感があるなぁ。
――冒険者ギルド
基本的に何でも屋で、護衛や討伐はもちろん、お使いから近所のドブ掃除までなんでも依頼できるらしい。
ため息を一つつき、意を決して扉を開ける。ガヤガヤと騒がしくほぼ全体が食堂件酒場になっている様だ。
僕達二人はフードを被り気配を消して受付カウンターを目指す。
(あと3歩)と言うところで前から大柄の男達が道を塞ぎながら歩いてきた。
これぶつかったら難癖付けられるヤツ!
スターチス、面舵面舵いっぱーい!
目の前をすっと避ける様に横切ろうとしたスターチスを大男の1人が呼び止めた。
「なんだぁ?ちっせぇガキ連れてこんなとこに何の用だ?」
無視して行こうとしたスターチスの肩を掴もうとしてスターチスに払い除けられる。
「触るな、昨日いい宿で風呂に入ったばかりなんだ。その汚い手を明日まで磨き続けてから土下座しろ。そうしたら床が汚れずに済む。」
...スターチスさん??
「何だとてめぇ!」
「ね?絡まれたでしょう?」とため息をつくスターチス。
いや、スターチスさん???
そこからは酷かった。
スターチスに馬鹿にされた大男は、怒りに任せた大振りパンチに綺麗なカウンターハイキックを顎に受け一撃で沈んだ。
ギルド中が盛り上がり、大男の連れが面子の為にスターチスに殴り掛かる。
華麗に交わし3人をあっという間に打ち倒してしまった。
動いた勢いでフードが落ち、彼女の美しい金髪が顕になった。
「やべぇ!スターチスじゃねぇか!」店中の男達の顔から血の気が引いていく。
その中をコツ、コツと足音を立てながら受付カウンターに向かう。
ギルド中が緊張感につつまれ、誰もが固唾を呑んで見守っていた。
そんな中先程倒された大男が意識を取り戻し腰に付けたナイフに手をかけたのが見え、大男と僕の目が合った。
咄嗟に「ぉいちゃん、めっ!!!」と叫ぶと場の空気が和んだ。
大男も顎をさすりつつナイフから手を離していた。
流石幼児パワー、荒くれ者もイチコロである。
スターチスを見ると笑うのを必死に我慢してワナワナと震えているのが分かった。
ペチペチとスターチスの首を叩き「たーちぇも、めっ!」と叱っておく。
ポカンとした顔で小さく「はい、ごめんなさい。」と素直に謝るスターチスに、ギルド中が「ええええええ!!」となっていた。
耳まで真っ赤にしたスターチスがズカズカと受付に行き受付嬢に仕事の依頼リストを頼んでいた。
顔を隠すように依頼表を読み漁る彼女にホッコリしたのは言うまでも無い。
雰囲気が良くなったギルド食堂では先程の騒ぎもおさまり皆楽しそうに騒いでいた。
中には僕に対し手を振る人や、拳を突き出す人、ウインクしてくるお姉さんも居た。
受付嬢のお姉さんがスターチスと僕にジュースを持って来てくれたが、コップが重くて自分では持てない。
お姉さんが持ってくれようとしたが、片手で依頼表を持って顔を隠したままのスターチスが横からスっとコップを持ってくれた。
ゴクゴクと飲んで「あぃがとぉ」と言うと受付嬢のお姉さんが悶え死にそうになっていた。
まだこっちを見てくれないが、スターチスの口元も笑っていた。
受付嬢のお姉さんが言うにはスターチスは高ランクの冒険者で、滅多にパーティを組まない頑固者で、誇り高きエルフだからさっきみたいな事がしょっちゅうあるんだと。
でも本当は優しくていっつも割に合わない様な辺境の依頼なんかをあえて選んでくれるそうだ。
それで僕が生まれ育った辺境の開拓村に来てくれたんだと思うと嬉しくなった。
スターチスは依頼表の中から一枚を選び受付嬢に渡す。これ以上恥ずかしい思いをするもんかと言う威圧感がある。
依頼を受けてギルドを出る時、「坊主、またその怖い姉ちゃんと一緒に来いよ」と皆が声をかけてくれた。
僕はスターチスの肩口から顔を覗かせ皆に手を振った。