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初めてのヘッドショット

あー、泣いた泣いた。

泣き過ぎて顔がむくれて前がよく見えない。

僕を抱き抱えて旅するこのエルフの少女も目が赤く腫れていた。

人のいいエルフだなぁと顔をじっと見ていると「何です?私の顔に何かついてますか?」と聞いてきた。

むくんで何処を見てるか分からないと思ったのに、よく気がついた。

「ううん」と短く答え細くなった目を閉じた。


彼女の名前は「神代の森の深くに連ねし古の民、千年万年を揺らぐ枯れぬ花」らしい。

いや、長いし名前じゃないし覚えらんないし!!

「むり」と答えたら「スターチス」と呼べとの事。

まあ、今の僕の言語能力ではそれでも「たーちぇ」になっちゃうんだけどね。

何度もそう呼んでいたら正すのを諦めて返事する様になった。

継続は力なり。


今僕達は僕が住んでいた辺境の名も無き開拓村から商業都市リュージュを目指して移動中だ。

そこで僕に必要なモノを買い揃えこれからの旅に備えるらしい。

何で僕を連れていってくれるのか?と聞くと彼女は呪文を唱え精霊を召喚した。

召喚された精霊は光の精霊ウィル・オ・ウィスプ。下級精霊ではあるけど旅人の足元を照らしてくれたりと優しい精霊だ。

初めての精霊に大いに興奮した僕はとても喜んだ。

精霊も僕の周りを飛び回ったり、近くで瞬いたりしている。

「普通はどちらも怖がるものなんですけどね」

と微笑みながら話すスターチス。

「精霊達が貴方を気に入っている様なので、旅に連れて行く事にしました。」


彼女は精霊使い(エレメンタラーとかシャーマン)と呼ばれる職業(クラス)だった。

小さめの弓とレイピアを装備し、何とも古き良きエルフらしいエルフだ。

ハイエルフなのかと聞いたら、そんな種族は居ないそうだ。

彼女は僕がどうやって転生したかや、ステータスボードについてなど興味がある様で旅の合間に色々聞いてきていた。

まあ、秘密を全部話すのもどうかと思ったけれど、あの時涙を流してくれたこの人になら教えてもいいと思えた。


彼女の話によるとこの世界にステータスボードやスキルツリーなる物は存在しないらしい。

目の前でステータスボードを開いても彼女には見えないそうだ。

となればスキルポイントを増やす方法も当然分からなかった。

一種のユニークスキルなのだろうと言うのが彼女の見解だった。


そこで僕は彼女がどうやって覚えたいスキルを覚えているか聞いてみた。

彼女はキョトンとした顔で、「それって異世界だと変わるものなんです?」と言われてそりゃそうかと納得した。

覚えたい事があったら当然練習して覚えるに決まってる。

我ながらゲーム脳だなぁと思う。


当面はスキルポイントも無い事だし身体強化と魔力操作を育てて行く事になる。

練習方法としてスターチスが魔力を吸収するばかりじゃなく消費もした方がいいという事で操作した魔力に属性を付ける練習も開始した。


属性変化はスキルツリーにも有るのだがスキルポイントが無いので取れていなかったものだ。

属性変化が出来るようになると、魔法の基礎として事象干渉が可能になるらしい。


例えば火属性に属性変化させて火を灯すトーチの魔法にしたり、光属性変化をして物体に光る要素を与えたりする事が出来るようになる。


魔法名の決まった魔法は原理と属性変化が揃えば発動出来るそうだ。

最も必要量の属性変化させた魔力を用意出来ればの話だが。


逆に言うと発想力さえ有れば新たな魔法を構築する事も可能らしいが、大抵は既存の魔法の方が優秀で意味を成さないらしい。


それでも自分の発想で魔法が作れるというのはロマンがある。


そんな訳で最近は魔力を集める(吸収する)、魔力変化させる、また魔力を集めるを繰り返している。


スターチスはそんな僕を見て、そこまで熱心な練習をする人を見たことがないそうだ。流石ゲーマーの魂、異世界転生しても健在の様だ。


結果2週間足らずで属性変化のLv1をスキルポイント無しで習得出来た。

属性変化を手に入れた事で次は簡単な魔法を使ってみる事を進められた。

彼女がお手本で見せてくれたのはファイアボルトだった。

赤ん坊に攻撃魔法を覚えさせるのは、危ないだろうと思ったが「貴方はただの赤ん坊じゃないでしょう?」と流されてしまった。

まあ、攻撃手段を持った赤ん坊と言うのも何かの役に立つかもしれない。


こうしてある意味良い師匠となってくれたスターチスのお陰で僕のスキルはスキルポイントを使わずに伸びていき、存在力が11まで増えていた。


リュージュまでの距離はだいたい1ヶ月程度かかるそうだが、今ちょうど半分を超えたくらいだそうだ。

途中荷馬車に乗せて貰ったり、乗り合い馬車に乗ってリンゴを貰ったりとそれなりに楽しんで旅をしてきたが、とうとう問題が発生した。


乗り合い馬車で移動中暗くなったのでキャンプする事になったのだが、そこに数匹のゴブリンが現れたのだ。

ゴブリンたちは馬車の周囲を取り囲み、威嚇するようにギャアギャアと声を上げていた。旅人たちは慌てて武器を手に取り、身を守る体勢を整える。スターチスもすぐに弓を構え、冷静にゴブリンたちの動きを観察していた。


「彼らは群れると厄介です。数が増える前に対処しましょう。」

彼女の声には緊張感が漂っていたが、恐れは感じられない。僕もその雰囲気に引っ張られるように、冷静になろうとした。


「ウィル・オ・ウィスプ!」

スターチスが召喚の呪文を唱えると、前にも見た光の精霊が再び姿を現し、周囲を柔らかい光で照らし始める。その光にゴブリンたちが一瞬怯んだ。


「大丈夫、ここからは私がやります。」

そう言うと、スターチスは素早く弓を引き、放たれた矢が正確にゴブリンの一匹に命中した。ゴブリンは悲鳴を上げて倒れ込む。残ったゴブリンたちが怒り狂い、一斉に襲いかかってくる。


僕は無力なまま彼女を見守るしかないと思っていたが、ふと先日の練習を思い出した。属性変化の魔法を使えば、何かできるかもしれない。僕は魔力を手の中に集め始めた。


「ファイアボルト……できるかな?」

魔力を火属性に変化させるイメージを強く持ちながら、魔法の形を整える。今一つイメージが纏まらず形にならない。ファイアボルトの原理が理解できてないのだ。


それならと左手で火の属性変化を留め、右手で土の属性変化を構築する。ミリタリーマニアの知識であまり大きくない弾丸をイメージする。9mmパラベラム弾をイメージし銃をイメージして土と火の属性を混合する。その瞬間、何かが身体の中で弾けるような感覚が走る。


「やるなら今です!」スターチスが叫ぶ。


僕は勇気を振り絞り、弾丸をゴブリンの群れに向かって放った。弾丸は勢いよく飛び、見事にゴブリンの頭に命中した。銃声と共に倒れたゴブリンに、数匹のゴブリンが怯んで後退する。


「やちゃ!」思わず声を上げたが、喜ぶ暇もなく、スターチスがすぐさま次の矢を放ち、さらに敵の数を減らしていく。


残ったゴブリンは明らかに怖じ気づき、仲間の死体を見て逃げ出した。スターチスは深呼吸をしながら、ようやく弓を下ろす。


「よくやりましたね、アルト。初めてにしては上出来です。」

彼女は微笑みながら僕の頭を軽く撫でた。


「うん、ありぁと。でもちょとちゅかれちゃ……」

魔力を使い切ったせいか、急に身体が重く感じる。僕はその場にペタリと座り込んだ。


「魔力の使いすぎですね。属性混合なんていきなりやるからです。これからは少しずつ慣れていきましょう。」

そう言って、スターチスは僕に優しく水を飲ませてくれた。

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