僕の物語
エルフの少女の話はこうだった。
「この子はお二人のお子さんですか?」
唐突な質問に戸惑う両親。
意を決した様に話し出す。
「いいえ、私達には子供が出来ず教会で祈りに行く日々でした。」
「ある日神父さんが教会の前に捨てられていたこの子を引き取らないか?とお話頂いたのです。」
ガーン、両親じゃなかった。
それで母乳が出ないからずっと離乳食だったのか、納得。
「この子は普通の子供ではありません。実に特殊な生まれであり、もしかしたら人間では無いかもしれない。」
そんな馬鹿なっとステータスボードを開き種族を見る。
種族 *******
あー、確かに人間とも書いてない
両親の俺を抱きしめる腕に力がこもる。
「この子を人として育ててはダメでしょうか?」
こんな血も繋がらない、光ったりする不気味な俺をそれでも育てようと思ってくれるのか...
目頭が熱くなり、鼻先がツンとする。
「残念ですが、私が居なくなった後また今回の様な事が起きないとは言えません」
確かに、俺の目指す先を考えるならこの両親には荷が重いだろう...
それでも抱き締める力を緩めない。
「私が連れて行くのが、お互いの為だと思います。」
ああ、もっと慎重にやっていればこんな事にはならなかっただろう。
ゲームの様なシステムについ心踊って、ここでも両親に何もしてあげられなかった。
思えば話せる様になって来ていたのに、一度も話しかけてすらいなかった。
また独りよがりになってた訳か...
成長しないったらないな。
俺は、いや僕は抱き締める母の腕の中で顔を上げ母と父の顔をじっと見る。
僕と目が合った二人の瞳に涙がボロボロと浮かび上がった。
「おかぁーしゃ、おとーしゃ、ごめなさい」初めてかける言葉が謝罪とは我ながら情けない。涙が頬を伝う。
僕の言葉を皮切りに二人は声を上げて泣き出した。
痛い程抱き締められ、ただただ後悔した。
僅か数ヶ月、僕は彼らをどこか他人として接し全く子供らしくしてあげられなかった。
スキルの事だけを考え、成長する為に食事を取った。
この両親に対して全くと言っていい程、興味を示さなかったのだ。
僕にアルトと名付けてくれた、この二人に僕はずっと前世の俺のままだった。
僕はここで僕として生きなきゃいけない。
俺の知識や経験を利用しても、生きていくのはアルトという僕であるべきだ。
俺の両親の顔を思い出した。
この両親と同じく俺の事を思い、心配してくれていたはずだ。
情けない情けない情けない!
エルフの少女が僕の前に来て片膝をつく。
「私と共にいきますか?」
迷いはある。
やっと僕として両親に報いたいと思う気持ちがあるけども。
「ぁい」
僕はエルフの少女の手を取った。
両親の腕から力がフッと抜けたのが分かった。上手く力の入らない足でヨチヨチと歩く。ふらついた僕を支えようと前のめりになる二人に振り返り顔をじっと見た。
「ありあとぉ。」ああ、噛まずに言いたかったな。
僕を抱き抱えたエルフの少女の頬に一筋の涙が見えた。
何だ、他の持ち方も知ってるんじゃん。
両親が最後まで泣いているのを背に、僕はエルフの少女と旅立った。