巨人の王国(後編)
13階層、通常ここから先は下がらない理由があった。
12階層までの出現モンスターに対し、この13階層からは出現モンスターが大きく変わるのだ。
12階層がオーク5、トロール3、ミノタウロス2の割合に対しトロール亜種3、ミノタウロス5、ミノタウロス亜種2の割合で出る為危険度が一気に跳ね上がる。
亜種と呼ばれるモンスターは通常種より特徴が変化しており、大抵厄介なスペックを有している。
トロール亜種は回復力に優れ、高い火力で一気に倒さないと倒しきれず長期戦になりやすい。
結果他のモンスターが合流してしまうケースが多く、火力不足だと危険度が酷く高い訳だ。
ミノタウロス亜種は攻撃性が高くなっており、筋力が2割近く通常種より高くなっている。
この亜種の組み合わせは冒険者に高い防御力と高い瞬間火力を求める事となり、その条件をクリア出来ていなければ敗北は確定していると言っていい。
見極めが甘いと死に直結するのが13階層以降なのだ。
先頭を行くシルヴィとエヌはこれまでより一層警戒心が高くなっていた。
降りて直ぐはワンダリングに当たる事も無く一本道になっていた為そのまま進む。
10分程進み正面にT字路が見えた時、シルヴィがハンドシグナルで止まれを指示してきた。
グー、2、右、中指から3、左。
グーは止まれ。2体右から、3体左、左の方が遠のいて行っている。
全員の目がスターチスに集まる。
スターチスは右を示し全員が頷く。
先ずはシルヴィが音も無く通路に出て右手を確認と共にミノタウロスの意識を一瞬引く。脇を抜けてエヌがミノタウロス2体に対し突撃する。
スターチスは通路に出たがルーチェは今来た通路内に待機。ディディはT字路を左寄りに出て警戒。僕はスターチスのやや後方に出て通路左側と今来た道に居るルーチェの後方に方陣魔法でトラップを轢いた。
ミノタウロスは2体、1体目はエヌの強烈な一撃を受けスタン状態になっている。
エヌはそのミノタウロスをシルヴィとスターチスに任せ自分は無傷のミノタウロスに対峙している。
先の闘技場での経験がいい感じに彼女を成長させたと感じる。
僕は呪文を詠唱、スタンボルトを遅延発動に回しストーンバレットの改造版螺旋穿孔弾を詠唱する。某アニメの記憶から作り出したドリル弾を複数または大型を一つ飛ばす魔法だ。
今回は複数を選択しエヌが対峙しているミノタウロスに撃ち込む。
エヌも慣れたもので、僕の詠唱音に反応して敵に一撃を入れつつ射線を通す。
「いい動きだ」心の中でエヌを褒めつつ、ドリルバレットを撃ち込んだ。
エヌに気を取られたミノタウロスは、不意打ちでドリルバレットを頭部、右肩、右腕、胸等に喰らい大きくよろめいた。
その隙を見逃すエヌではない、下がった頭部を狙い大剣を振り下ろす。
この一撃で絶命したミノタウロスがどさりと音を立てて倒れた。
続け様もう一体のミノタウロスに振り向いたエヌだったが、丁度そのタイミングでスターチスの操られた風の矢がミノタウロスの眉間を貫きこちらも絶命する。
戦いの音を聞きつけたトロール亜種が3匹向かって来ていたが僕が設置した方陣魔法によって大地から無数の岩槍が突き出しその足を貫き足止めされている。
僕は遅延させていたスタンボルトを発動し完全に動きを止めさせる。
同時にディディが凄まじい速さで連撃を加え一番手前に居たトロール亜種はボロボロになるが、未だトドメに至っていない。
僕は咄嗟にファイアボルトを詠唱開始するが、これは次のトロール亜種の為のものでトドメ用ではない。
なぜならスターチスが既に火の精霊サラマンダーを召喚し自分の放った無数の矢に火属性を付加して攻撃したからだ。
ガトリングアローと言う連続して矢を放つ技に火属性付加したフレイムガトリングとでも言う技だ。
無数矢に貫かれ絶命するトロール亜種。
一瞬にして味方が絶命したのを見た他の2匹はその動きに迷いが出た。
このタイミングでエヌがシールドを前にチャージを決め僕達とトロールの間に割り込んだ。
僕はミノタウロスの死体の方へ下がりつつ、そちらのルートに方陣魔法で保険をかけておく。
これで前衛にエヌとディディ、やや下がってシルヴィ、スターチスと続き僕が殿になった。現状で一番火力が高いフォーメーションだ。
ここからは波状攻撃で削り倒し、大きな問題も無く倒しきった。
「すごい...皆本当に凄いね!」ブルっと軽く武者震いしたルーチェが僕達の戦いを間近で見た感想を述べて来た。
エヌはニヤッと笑いつつミノタウロスの素材を剥ぎ取り、僕とシルヴィは各方向へ警戒をしつつ微笑んだ。
「これでルーチェさんが成長したら回復力もついて更に安定しますね。」とディディがルーチェを励ます。
スターチスもルーチェの隣に立ち、「回復だけじゃなくて、何ができるか考えながら見ているといいですよ。それが今後の指針になりますから。」と付け加えた。
ルーチェは鼻息を荒くしつつ、今の戦闘を脳内で反復している様だ。
「皆凄いけど、やっぱりアルトお兄ちゃんって凄いんだね。」唐突に褒められてびっくりした僕だが、スターチスが何故そう思ったのか聞いている。
「お兄ちゃんの方陣魔法と詠唱魔法は攻撃にも防御にも起点になる事が多いし、汎用性が凄く高い。エヌやスターチスさんは長年一緒に戦ってるから、詠唱と言うデメリットを合図にして次の動きを考えてる。」
この反応には皆目を丸くした。
僅か10歳の10級冒険者な彼女が、ここまで正確に状況を理解しているのは驚きだ。
「将来が楽しみだね。」僕の言葉に皆は微笑んだ。
この子は贔屓目なしに頭がいい。
今はまだ出来ることが少ないから選択肢が少ないが、選択肢を持った時この知性はきっと武器になるだろう。
義妹の成長を喜ぶのも束の間、何方に進むべきか。
この入口付近でワンダリングに会ったという事は他パーティはもっと奥に居るか、既に居ないかだ。
僕達は話し合った結果T字路を左手に曲がり通路を進む事に決めた。
理由はモンスターと接触した時の進行方向だ。
トロール亜種達は戦闘音に釣られて戻って来たが進行方向は左。そしてミノタウロスも右手から来た。
という事は右側から左側に移動していた訳だから、他パーティが右に行っていたなら接敵したモンスターは無傷では無いだろう。
またパーティも倒されてしまった可能性が高く今から行ってもどの道間に合わない事になる。上手く躱した可能性もゼロでは無いがそれならここへ向かって逃げて来るはずだ。
未だ探索をしているなら左に進み今接敵したモンスター達は後から来たと仮定するのが生存確認の為にも意味がある訳だ。
こうして僕達は左へ進む事を選択し、進んで行った。
この先で他パーティがどんな状態で居るかによっては、ルーチェには辛いかもしれないなと考えたがそれが冒険者と言う職業だと思い直し出来れば元気な状態で発見したいと考えるのだった。




