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公爵別邸へ

 猫の使い魔の本体、まだ逮捕に繋がる証拠が出てこない学長と教授、第二王子を襲っていた追跡者達。追跡者が言っていた「例の場所」


 まだ解決してない問題は山程あるが、急にどうでも良くなってきた。


 王子の言うように、残り2日は何もせずに通り過ぎることにしよう。


 そういえば学食の予算問題は解決したが、寮の賄いの予算問題は解決したのだろうか?


 そう考えながら寮に帰るためのショートカットである裏路地を歩いていると、何者かが追跡してくる気配に気付いた。


 ふと振り返ると、フード付きマントを着た2人組が何やら指差しながら、物陰から出てくるところだった。


 怪しい連中はみんなこのフード付きマントを着ているが、どこに売っているのだろう?

 悪の組織のボスが部下用に何着も発注しているのだろうか?


 町の被服屋が注文通りにフード付きマントを大量に縫って作っている光景を想像するとさすがに笑いを堪えきれずに吹き出した。


「これが報復か……出来れば暴力はなしにしたかったが、仕方がないか」


 階段がある場所では転倒すると大怪我になるので、なるべく平たくて広い坂道に出る。

 ここならば周囲に迷惑をかける必要がない。


「敵は相変わらず2体……周囲には他の敵の反応はなし……まだ日も出ており、少し通りに出れば人通りもかなりあるというのに見境なしか、こいつら」


 目を瞑って周囲の気配を悟る。

 周囲に敵の反応は2体以外になし。


 つまり、速やかにこいつら二体を目撃者なしのまま秒殺すれば勝負はそれだけで終わる。


 体格は細身でそれほどでもなく、筋力もそれほどあるようには見えない。

 重心を崩さないような足取りからして、潜伏などの工作は得意そうだが、真正面からの殴り合いなどは苦手そうだ。


 一般人と比べると隙はあまりないようが、それでも武術の達人と比べると棒立ちと大差がない。


 暗殺や奇襲特化で直接姿を露わにしての戦闘は苦手なタイプ。そんな連中が慣れない直接的なアクションを仕掛けてきた。


 こちらの活動が予想以上にダメージになっており、もう余裕を持って工作を仕掛けるような余裕はないのだろう。


「エクセル・ワード・パワーポイント……お前はやりすぎた」


 片方の男が口を開いた。


 威圧のつもりなのだろうが、いちいち名前を読み上げるせいで何かのギャグかコントにしか聞こえない。

 

「大人しく我々に同行すれば危害は加えない。抵抗すればそれなりの――」

「――同行とというのはどこに?」

「それは着いてのお楽しみだ」


 気を張っていたのが馬鹿らしくなってきた。


 いきなり攻撃を仕掛けてくることを想定していたが、これならば、戦闘をしなくても口だけで立ち回れそうだ。


 改めてフード付きマントの2人の男を見るが、やはりお笑い芸人だ。


 恥ずかしげもなく町中でこのフード付きマントは空気を読めていなさすぎる。


 すく近くは多くの人が歩いている大通りだというのに。


「抵抗はしません。大人しく同行しますので、案内をお願いします。どのようにゲストをもてなしていただけるのか楽しみです」

「えっ?」

「抵抗しないのか?」


 男達は自分で抵抗するなと言いながら、こちらが抵抗しないと宣言すると何故か狼狽え始めた。


 自分で付いてこいと言っておきながら、相手が快諾すると狼狽えるとか意味がわからない。


「大人しくついていくなら危害を加えないんですよね。ならば抵抗する意味はないですよね。付いていきますよ」

「えっ、でも」

「早く案内してください。時間が勿体ないので。それに着いたらお楽しみが待っているんですよね? お楽しみとはなんですか? エンタメデュエルですか? 魚も泳ぐ戦国風呂ですか?」

「どこかへ連れて行かれたら、何をされるか不安とかそういうのはないのか?」

「いや、そういう話は良いので早く案内してください。抵抗はしませんので」


 世の中、暴力的な解決など無意味だぞ。平和が一番だ。


 男達2人は顔を見合わせて何やら話した後に、こちらに背を向けて歩き始めた。

 

「案内する。付いてこい」

 

 男2人が歩き出したので、その後ろを腕組みしながら付いていく。

 

「もし叫び声をあげたり、魔法を使えば抵抗したとみなすぞ」

「そんなことはしないので案内を」


 男達は何故か狭い建物の隙間を必死で歩き始めた。

 意味がわからない。


「そんな細い道を通らなくても大通りに出たら歩きやすいですよ」

「大通り? この服装でか?」

「そんな細い道とか私が付いて行けないんですけど。もっと歩きやすい道を通ってもらわないと困ります」

「それは抵抗か?」

「いえ、だからちゃんと付いていきますって。人に見られないように移動したいならば、せめて馬車を用意してください」


 男達が舌打ちするのが聞こえた。


「馬車か何か乗り物を用意していないのですか?」

「あるわけがないだろう!」

「馬車を出す予算もないと。ちょっと作戦がちょっと杜撰すぎませんか? 抵抗すること前提、勝てること前提、無抵抗の相手を運ぶこと前提……仮定の話が多すぎます。計画はもっとちゃんと練って」

「言うな」

「自分達の裁量で馬車も使えないのに、それでいて給料も安いんでしょう? 別の仕事に鞍替えをおすすめしますよ。学校の清掃員はちょうど募集中ですし」


 フードの男達が狭い路地からカニ歩きで出てきたところで、こちらは大通りに飛び出す。


「さあ、案内してください。こちらの方が近道ですよ」

「どうする?」

「どうするも何も、このまま行くしかないだろう!」


 フードの男の片方がヤケクソ気味な大声で叫んだ後に大通りを歩いていく。


 その後ろを淡々とついていくと、通りを歩いている他の人々が何事かと次々に振り返ってこちらを見ている。


「これは何かの羞恥プレイか何か?」

「聞くな!」


 苛立ちを募らせる男達をからかっていると段々と楽しくなってきた。

 

「あっエクセルさん、何をしてるんですか?」


 男達の羞恥プレイを観察しながら歩いていると、庶務と一緒に下校途中のアイリスに遭遇した。


「いえ、この方達が『魚も泳ぐ戦国風呂を味あわせてくれる』と言っているので、面白そうなので見に行くところです」

「そうなんですか、夕食までには帰ってきてくださいね」

「ええ、なるべく早めに帰るようにします」

「おい、その前に変な男は本当に大丈夫なのか?」

「気になるなら、風紀の乱れってことでカトレアさんに連絡すると良いと思いますよ」

「そうだな。ちょっと行ってくる。今日はここまででいいな、アイリス。明日また学校で」

「はい、フッド君もまた明日」


 そう言うと庶務は駆け出していった。

 アイリスを見送って、男達に付いていく。


「おい、勝手に立ち止まって立ち話をするな」

「そうだ、抵抗とみなすぞ」

「はいはい、少々お待ちください」

 

   ◆ ◆ ◆


 オモシロお笑い芸人2人に連れられて来られた先は町の郊外にある豪邸だった。

 家の規模からして、かなりの金持ちだか有力者が付いているのだろう。


 門は固く閉ざされており、中へ入ることは出来なさそうだ。


「場所はここで合っているんですか? 門が閉まっているみたいなんですけど」

「合っているから早く中へ入れ」

「門が閉まっていて入れないんですけど」

「ここで待っていろ。門を開けるように頼んでくる」

 

 2人の男達は壁を乗り越えて邸宅の敷地内へと入っていった。


 いちいち門の前で待っているのも時間の無駄なので、適当に屋敷の周囲を歩いていると、掃除用具を持った使用人らしい老人が歩いていた。


「すみません、この立派なお屋敷はどちら様のご邸宅で?」

「知らないのかい? ここは公爵の別邸だよ。今は公爵様は王都におられるので、お付きの使用人が屋敷の維持と管理をしている」

「なるほど、公爵ね。ありがとうございます」


 つまるところ、公爵家が隣国の勢力と組んで第三王子を祭り上げて自分達が実質トップになろうとしていたわけか。


 ……本当に大丈夫か、この国。


 事態を解決できず時間切れになったら、面倒だし、王都にあるという公爵邸を吹き飛ばして全部解決したということにしたい。


 王都がどこにあるのかすら知らないけど。

 

 使用人が出入りしている通用口へ行くと、施錠されていなかったので、そこから屋敷の中へ入ってしばらく敷地内を歩いていくと、屋敷の裏に豪邸には似つかわしくない粗末な鳥小屋があることに気付いた。

 

「鶏でも飼っているのか?」

 

 興味が湧いて中を除いてみると、そこには大量の鳩が飼われていた。


「なるほど、ここに繋がるのか」


 これで教授、学長、公爵、隣国勢力のラインが綺麗に繋がった。

 後は何か証拠の書類などが手に入ると良いのだが。


 空を見上げると屋敷の上空を青白い鳥が旋回しているのが見えた。

 敷地内は木が多く植えられているので見えにくいが、まあ何とかなるだろう。


 使用人の動きを確認しながら、遭遇しないように屋敷の敷地内を散策すると、明らかに大きな窓のある部屋があった。

 窓から中を覗き込むと、中年男が何やら書類の山と格闘していた。

 

 最初はこの男が公爵かと思ったが、先程使用人の1人が、この屋敷には公爵は不在。使用人数名が維持をしているだけと言っていた。

 つまり、大物の雰囲気を出してはいるが、ただの使用人である。


 窓の近くへ身を潜めてしばらく待つと、室内の灯りが消えた。


 窓は開いたままだったので、そこから室内へ飛び込み、月明かりで書類の中身を確認する。


 中年男が見ていた書類を見ると、そこには隣国政府との密約の文章のようだった。

 どうやらここが悪のすくつ(なぜかへんかんできない)で間違いないようだ。


「しかし、こんな冴えない中間管理職のおじさまに、こんな重要そうなプロジェクトを任せちゃうなんて大丈夫なんでしょうかねぇ、この国の公爵様ってのは。案の定、見られたらヤバい書類がてんこ盛りだし」

 

 関係しそうな書類を適当に掴んで近くにあった鞄へ無理矢理にねじ込み、部屋を後にする。


「でも公爵の別邸をそのまま悪の巣窟にするとか、公爵というのはアホなのだろうか? それとも部下の暴走?」


 あちこちを歩いている使用人を回避しながら、また通用口から屋敷の外に出る。


「この証拠と、フードマントの男がここにいたことを王子に伝えるか」

 

 先程は喧嘩別れのようになってしまったが、この書類を有効活用できるのは王子だけだ。


 届けない理由などない。

 まだ縁が繋がっているのだから、その縁を頼っていきたい。

 

 一度正門の方へ戻ってきたが、オモシロお笑い芸人2人はまだ戻ってきてはいなかった。


 待つ必要もないので、そのまま学校の方へ戻る。


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