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エピローグ 転生輪廻

 学校に行くと、校門前で秀に出会った。

「やぁ、遥斗。怪我はもう平気なのかい?」

「ああ。怪我って言ってもかすり傷だったしな。そっちは?」

「僕も、ただ眠っていただけで異常はなかったよ。」

 そう言う秀は、いつも通りの様子だった。とりあえず、彼に何も無くて良かった。俺はほっと胸を撫で下ろした。

「…身体だけじゃなくて、心は平気かい? 苦しかったら、しばらくは無理しなくてもいいんじゃないかな。」

 秀は眉尻を下げた笑みで、優しくそう言った。

 『大丈夫。』そんな事を言って強がってみせたい気持ちはやまやまだったが、思っていたより自分の心は疲弊していたらしい。彼に優しくされるとつい、本音が零れ落ちてきてしまう。

「…今回は、こういう結末になったけどさ。競日のいたゲームの中で、俺は殺人鬼だったらしいんだ。なら俺は、遅かれ早かれいつかは殺人を犯してしまうってことなんだよな…?」

 俺は、弱々しい声でそう言った。すると秀は、顎に手を当てて少し何かを考えてから、ゆっくりと口を開いた。

「これは僕の仮説だけどね。この世界は漫画や映画じゃなく、ゲームの世界なんだろう? ゲームの世界なら、物語の展開は複数あってもおかしくないと思うんだ。マルチエンディングってやつだね。」

「まぁ、それはそうかもしれないな。」

「セルフィは、遥斗のことを殺人鬼にしたかった。物語上何もしなくても遥斗が殺人鬼になるのなら、セルフィはあんなに手の込んだ殺人を計画する必要がなかったはずだ。なら何故彼女はあんな計画をしたのか? 遥斗は殺人鬼になるルートとならないルートが存在していて、殺人鬼になるルートへ分岐させるためにあんな事をしたんじゃないかな?」

 秀がそう言った途端、俺の中のモヤが晴れていった。

 確かに、彼女が事件を起こした動悸が『俺を殺人鬼にすること』なら、彼女がそれをしなければ俺が殺人鬼にならなかった可能性があるという事だ。

「君が進む道は一本道なんかじゃない。君の意思で、自由に選択して進んでいくといいさ。」

 秀はそう言うと、体ごとこちらへと向き直り、自信ありげな笑みを浮かべてこう言った。

「君が僕のそばにいる限り、君のことを殺人鬼になんて絶対させないよ。この探偵王子の目の届くところでは、君が何を企んでも必ず僕が止めてみせるからね。」

 彼はそう言って、ばちりと片目を瞑ってウィンクした。

 昨日は『探偵王子は紛い物だ』なんてことを言っていたくせに、一晩で随分と自信を付けてきたものだ。

「それは安心だ」

 俺はそう言って、くしゃっとした笑顔で笑った。

 そのまま秀と二人、並んで教室へと歩いていく。教室の扉を開け、教室の中を見ると、とんでもない光景が目に入ってきた。


 なんと、そこには"須藤 光"がいたのだ。


 俺は思わずその場で腰を抜かしてしまった。ドシンと大きな音が鳴り、教室中のクラスメートたちがこちらに注目した。須藤もこちらを見ると、腰を抜かした俺を見て笑いながらこちらに近づいてきた。

「遥斗くん!? どうした!?」

「す、すすすす、須藤っ!? 生きてたのか!?」

 俺は、近づいてきた須藤を指さし、驚いて震えた声でそう言った。

「はぁ~? 勝手に殺すなって。なに、頭ぶつけておかしくなっちゃった感じ?」

 須藤はそう言って笑い、自分の席のほうへと戻っていった。

 俺は秀の方を見た。秀も難しい顔でこちらを見てきた。俺はすぐにスマートフォンを取り出し、ロック画面を確認する。日付は間違いなく進んでる。時間が巻き戻っているわけでは無さそうだ。

 そうこうしている間に、授業開始の時間がやってきた。今すぐにでも何が起きているのか秀と相談したかったが、仕方がない。一限が終わってから話すとしよう。

 そう思って俺は大人しく席に着いた。

 担任が教室へと入ってくる。そして教壇に立つや否や、彼はこんな事を言い始めた。

「突然だが、今日からこのクラスに転校生が来ることになった。」

 突然の言葉に、クラスメート達は盛り上がった。

 そして、教室の扉が開かれる。その生徒が教室に足を踏み入れると、クラスメート達の盛り上がりは更に加速した。

「えっと、競日 マナです。その、よろしくお願いします…。」

 長く美しいブロンドの髪。西洋風の美しい顔立ち。立ち居振る舞いにやや違和感を覚えるものの、その見た目の特徴は競日 マナそのものだ。それが今日、転校生としてやってきた。クラスメートたちは何も疑問に思っていない様子だ。一体、何が起きているんだ…?

 モヤモヤを抱えたまま一限を受け、授業が終わった後すぐに、俺と秀は競日マナの元へと駆け寄った。彼女を囲もうとする他のクラスメート達に割り入って、無理やり彼女の腕を掴みを人気のない空き教室へと連れ出した。

「ったい、いたいっ! いきなりなんなんですか!」

 競日は、少し怒った様子でそう言い、掴まれた腕をぶんぶんと振るって俺の手を引き剥がした。

「競日マナ、だよな?」

 俺がそう言うと、彼女は怪訝な顔でこちらを見た。

「そうですけど…、それがどうかしましたか?」

「昨日、何があったか覚えてるか?」

「昨日? そんなの、この世界…、じゃないや、この学校に来たのは今日が初めてだし、貴方とは初対面のはずじゃないですか?」

 彼女はそう言って顔を顰める。おかしい。彼女は嘘を言っているようには見えない。それに、競日マナと話しているはずなのに、競日マナでない誰かと話しているような不思議な感覚がした。

 俺が続けて言葉を発しようとすると、秀が左手で俺の胸を抑えた。

 ああ、なるほど。確かに交渉なら俺より彼の方が向いているだろう。どんな話しを始めるのだろうと少しわくわくしながら、俺は彼の言葉を待った。

「君は、ここでない世界から転生してやって来たんだよね?」

 そう思っていると、彼はド直球にそんな質問を投げかけた。

 すると彼女は大きく目を見開いて驚いた。そしてその後すぐに眉間に皺を寄せ、表情を戻した。

「なんでそれを…、もしかしてあなたたち二人もそうなんですか?」

「いいや、僕たちは違う。」

 秀がそう言うと、何故か彼女は安堵したように少しだけ口元を緩めた。

「実は、昨日まで僕たちの傍には競日マナがいたんだ。きっと君では無い別の誰かが入った競日マナだね。けれど今日、君は新たに競日マナとしてここに転校してきた。そして、『昨日までの競日マナが生きていた痕跡』は不自然に消えているんだ。」

「何それ。昨日までいた競日マナはこの世界で死んで、競日マナの中身が変わって世界がループした…、みたいなことを言いたいんですか?」

「昨日までの競日マナが死んだかどうかは定かではないけど、大筋としてはそんな感じかな。」

 彼女は一拍置いて少し悩む素振りを見せてからゆっくりと口を開いた。

「そんな非現実的な…、と言いたい所ですが、私がこの世界に来ている時点で十分非科学的でしたね。貴方たちが転生者でないのであれば、すぐに私の事を転生者だと見抜いてこんな嘘を付くのは不可能でしょう。話の信憑性は高い気がします。」

 そう言って彼女は真剣な瞳でこちらを見た。

 昨日までの競日がいつでもにこにこしていたのに対し、今日の彼女の表情は堅い。

「あなたたちは、この世界がどんな世界なのか知っているんですか?」

「昨日までの競日マナが言っている事が正しければ、ここはサスペンスゲームの世界らしいね。」

「はい。ここは私が生前プレイしたことのあるゲーム、『元男子校連続殺人事件』の世界と酷似しています。」

 彼女が言ったそのタイトルは、昨日までの競日と同じタイトルだ。

「このゲームは、元男子校であるこの学校に競日マナという少女が転校してきたことがきっかけで、二年A組の生徒たちが狂っていく様を描いています。彼らは競日マナの手のひらの上で踊らされ、制御不可能な感情に振り回されながら殺人事件を巻き起こしていきます。」

 …なんだか、身に覚えのある内容だ。つい先日、昨日までの競日マナに体験させられたものとよく似ている。

 目の前の競日マナはそう説明すると、強い瞳で秀を見つめた。

「私、すごく嫌なんです。私のせいで、周りの人達が狂ってしまう様子を見るのは。私のせいで人が死ぬのは、絶対に嫌なんです!」

 競日マナは少し感情的になって語尾を強めて叫ぶようにそう言った。

 そして彼女は、秀の両手を掴んでこう言った。

「お願いです。私のせいで殺人事件が起きないように、協力してくれませんか?」


【転生輪廻・完】

一旦、この物語は『マナリア=ビフォア編』が完結です。

もし反響があれば、二代目 競日マナを描いた続編を書きたいなと思っています。

最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。もし気に入ってくださった場合は、感想等お寄せください。

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