Episode1-2
風景に吸い込まれるように、マナの乗った汽車の輪郭がぼんやりとしていく。
それが完全に分からなくなると、ミオはふと息を吐いた。
家族と引き離され、遠い海を渡ってこの国に連れてこられたときはどうなるのかと思った。
けれど、決して独りではなかった。
同じ齢の者たちと、いつか祖国へ戻ることを夢見て、この国の言葉を覚え、文化を学び、何とか今日まで生きてきた。
戦乱の時代ではあったけれど、自分が連れてこられたときにはこの国の戦況は幾分か優勢で、他国に比べれば静かな暮らしをしていた時間の方が多かったようにも思える。
戦禍に怯える日もあったけれど、その度に友たちと肩を寄せ合い励ましあった。
家族を想い涙することもあったけれど、平和な世界になったらと、夢を語り合ったりもした。
辛いことも悲しいことも沢山あった、けれども同じくらい楽しいことだってあった。
あと何十年か時間が経ったとき、今日までの日々をどのような感情で振り返るのだろう。
そんなこともあったと、笑い話になればいい。
ミオは胸に手を当てた。
自分もまた、今日を生きねばならない。
そして明日を明後日を、その先を。だから、今は楽しい思い出を活力にしよう、悲しいことはもうしばらく仕舞っておこう。