第十一話 小さな夢
喧嘩し疲れたのかいつの間にか列車内は穏やかな空間になっていた。
外の景色がトンネルを抜けて、ガラリと変わり見慣れていた景色が現れる。
『わ〜!!』
列車内に歓声が広がる。
新鮮だ。
もう見ることのできない景色だとついこの間まで思っていた。
瓦礫と死体が転がり、悲痛な叫びに覆われた空間と化していく様を私…私達は止めることができなかった。
挙句の果てには、瓦礫も死体も叫びさえも何もなくなってしまった。
人間が生きた証は何一つ残っていなかった。
あるのは更地と化獣と私と…一つの死体。
もし、私が今回も何もしなければ世界は前回のように壊れる。
今回も壊れてしまうのならば完全に壊れる前に死んでしまおうか?
時間を巻き戻しても同じ日々の繰り返しになるだろうし、今回は巻き戻すための敵の隙がつけない可能性がある。
人々は私のせいでもう一度生きていかなくてはいけない。たとえ覚えていなくとも、もう一度苦しまなければならなくなってしまった。
この世界はすでにプログラムされた台本のある世界。
私の存在するはずのない記憶道理にこれからは進む。
ただ、私が台本と異なる言動をしたら変わってくるかもしれない。
私は前回と全く同じ言動はとれない。
でも、人の生死に関わることにさえ気をつければ大した影響はないはずだ。
どうせ結末は変わらない。
というか、私は大学で必要最低限しか会話せず表情を取り繕うつもりは無い。
前回は今までの癖で表情を取り繕ってしまった。
しかし、ほとんど役に立とうとせず居ないも同然だった。
もう縛られたくない。
義務という逃げることのできない縛りが私の首を絞めているようで苦しくて仕方がなかった。
逃げる事のできない環境。どこにも人の目がある環境が監視されているみたいで…
勉強も人付き合いも嫌だし、自然と取り繕っている表情も嫌だ。
一人で居たい。殻に閉じこもっていたい。
小説を読んでいたい。歌を聞いていたい。…
思考をやめたい。
人は本当にやりたい事なんて叶わないと、思っていても願ってしまう。
『逃げたい』
これがたった一つ、明確な私の本心であること。
それは私であるということを証明してくれる。
『人が傷つく言葉を言ってはいけない』
『思いやりを持って』
『親を悲しませてはいけない』
『逃げてばかりじゃ生きていけない』
まるで洗脳させるように大人達は子供に言い聞かせる。
私は大人たちの言いつけをしっかり守っていた。校則を守り、提出物は期限内に提出する。指示されたことに忠実に従っていた。
しかし、いつの日か周りの状況を見ると、破る人、喧嘩する人、悪口を言う人が周りには沢山存在している事に気づいた。
後ろめたそうにせず平気でやってのけるのだ。
自分は間違っているのかとは思わなかった。でも、自分がバカバカしく思えてきてしまった。
気づいたときには自分という人格がとてつもなく曖昧だった。
小さころは優しかった。ただ純粋に困っている人を助けていた。困っている人を見ると私もハラハラしてしまって頬っておけなかった。
今はどうだろうか?
困っている人を見ても見て見ぬふりをしている。手を差し伸べようとしていない。
時間が経つとともに自分が自分でなくなってしまっている気がしてしまう。
いつの日かには、暗く小さなところで閉じ籠もっているのだろうか?
それとも…周りを無視し、全身に絡まった鎖も手枷も足枷も取ることができているのだろうか?
想像つかないなー…
解き放ちたいと思いながらも解き放てない。
自分で縛り付けたのに…自分で解こうとしたら解けるはずなのに…
どうして解こうとしないのだろう?
…もう、自分では解けないほどにまで縛り付けたのだろうか…
それか…何重にも築いたドアを開くことができないのだろうか…
どちらにせよ自分が変わろうとしなければ私はだらだらライフを満喫することができない。
変わる為には、周りに目をくれず、取り繕わないようにすることが重要だ。
普通ならば人と関わらない事が閉じ籠もっている事だけれど、私にとっては人に目もくれないことが鎖を解くということ。
どうか…閉じ籠もっていてようとも、鎖に縛られようとも、どうか…たった一つの本心が埋もれてなくなりませんように。
それは、私の唯一の宝だと言えよう。心臓だと言えよう。
もし、それがなくなってしまえば、死んでいてもおかしくない。
だって…その本心があるからこそ、だらだらライフという目標が存在している。
まぁ、だらだらライフという目標は我ながらどうかと思うけどね。
でも、目標が存在していなければ…
ちょっとした小さな夢を叶えようとするから。
こうしていつの間にか物思いに耽けている間にも列車内には歓喜の声が響いている。




