義妹がぬいぐるみに熱烈なキスをしてるのを見てしまった俺。なぜか責任とって、とせまられてます?
「いやぁーー! おにいちゃんのバカ、アホ、のぞくな、ヘンタイっ!!」
バタン!!!
俺の鼻先スレスレでドアが勢いよく閉められた。
なんだったんだ? 今の?
何か見てはいけないものを見てしまったような。
俺がたまたま実家に立ち寄り、大学生の義妹の部屋のドアの隙間から見てしまった衝撃映像……。
義妹が、昔からお気に入りだった大きめの茶色いクマのぬいぐるみをベッドに押し倒し、顔を撫でたり、頬をさすったりしながら……熱烈なキスを!?
相手、ぬいぐるみだぞ、おい!
◇◇
俺が十一歳の時、家族付き合いをしていた母親の親友の娘の有咲と俺の両親が養子縁組をした。当時彼女は九歳、不慮の事故で両親を亡くした彼女は天涯孤独になり、うちで引き取ったのだ。淡く微笑む大人しい印象の儚げな少女。セミロングのまっすぐな髪、眉は細め、目は二重で大きくてクリっと動く。色白でかなりほっそりした体つき。俺は普通に可愛いと思った。
俺に突然できた妹。
俺の両親は本当の娘のように慈しみ育て、俺は本当の妹のように大切にし、可愛がった。
結果、淡く微笑む儚げな少女は、すぐに本来の元気いっぱいで明るい性格の女の子になっていた。
両親は有咲が養女だとわからないような環境も必要だと、俺と同じ市立の小学校ではなく、少し離れた私立のお嬢さま学校に入学させる徹底ぶりだった。
『おにい……ちゃん……』
恥ずかしそうにそう呼んでくれる有咲、可愛すぎて俺は何度も呼吸を忘れ、窒息しそうになったものだ。
両親は有咲には甘く、実子である男の俺には厳しかった。
『有咲を守れる男になれ』
よくわからないが、超がつくほど真面目な父にはそう言われ続け、
『成くんは、アリサちゃんの白馬の王子さまになるのよ。企業戦士になって、お姫様を迎えに来てあげてね』
脳内がふわふわの少女のような母には、色々ツッコミどころのあるセリフを夢物語のように言われた。
その後、俺は地元の中レベルの中高を卒業し、大学に入学と同時に家を出され、ひとり暮らしをさせられた。
妹とはいえ血の繋がりがない若い男女がひとつ屋根の下で生活するなんて、親たちも心配だったんだろうと思うが、そんな配慮は無用だったんだがな。
なにせ俺は理性的な男だから、妹に手を出したりなんか絶対にしない。
いくら妹が、超絶美少女だとしてもだ。
大学生活はかなりキツかった。俺はまあ、親にしたら平均以下の頼りない男に見えたらしく、家賃と学費と光熱費は出してやるが、食費や遊ぶ金は自分でアルバイトをして稼げと言われた。某スーパーで品出しのアルバイトを始めると、遊ぶ時間の余裕も無くて、アルバイト時々勉強の生活。大学はなんとか無事に卒業して、必死に就活、結果地元の中堅企業に就職した。
少しは男として、両親に認められるようになったかなと……思っていた矢先のこれだ。
◇◇
どうしてこうなった?
今日は仕事が休みで、たまたま実家に私物のラノベを数冊取りに来ただけで。
インターホンを押したが家族は誰もいないのか、返事がなかった。
有咲が家にいないのを少し残念に思いながら、鍵をあけ、静まりかえる家の中へ入った。俺の部屋のある二階へ階段をゆっくり上がって行く。
珍しく、有咲の部屋のドアが少し開いていることに気が付いた。
そこでよせばよかったんだ。
だが、その時に限って好奇心に自制心が負けてしまい、チラッと中の方をのぞくと……。
いたのかよ!? 義妹よ〜。いたなら返事をするとか、物音立てるとかしろよ!
そして混乱している俺。
閉められていたドアが、また突然開け放たれた。
「見てはいけないものを見たわね?」
怒っているのか恥ずかしがっているのか、両方なのか、真っ赤な顔で俺を睨みつける有咲。
瞳が大きい分、訴える目力がある。うるうるしていて、今にも泣き出しそうだった。
でも、マジ可愛い。
「ごめん、有咲の部屋のドアが少し開いていて、まさかいるって思わなかったんで……そう、閉めておいてやろうと……」
しどろもどろで言い訳をする俺。
「それでも私の部屋を覗くなんて! どういうつもりだったの? 今までも私がいない時に覗いたり、は、入ったりしてた!?」
俺に詰め寄る有咲。
「いや、断じてそんなことはしてないしっ! 絶対だ。神にかけて誓える」
「髪にかけてって、じゃあ、嘘だったら将来つるっパゲになりなさいよ!」
「ぷっ。おまえ、ウケ狙いで言ってる? 可愛すぎなんだけど」
「うるさい、お兄のバカ、アホ、鈍感!」
え?
さらに頬を染めた有咲が俺に体当たりしてきた。
俺は不意をつかれ、クマのぬいぐるみのごとく、義妹に廊下に押し倒された。
「うわっ。危な……」
「私の恥ずかしい姿見たんだから、責任取ってよね。もうお嫁になんて行けない〜」
「いや、行けるだろ? 俺、誰にも言わな……」
俺が最後まで言う前に、有咲に口を塞がれた。
嘘だろ!?
仰向けの俺の腹の上に馬乗りになった有咲に口で口を塞がれてんだけど。
これって、普通にキスっていうやつだよな。
ありえない、ありえない、ありえない、
この状況は何なんだ!!??
「どうだ、お兄。これで本当にお嫁に行けなくなった。お兄にファーストキス奪われたんだから」
「はい? いや、むしろ奪ったのおまえだろ。それに嫁には行けるだろ? キスくらいで、大袈裟な。大丈夫だから、ひとまず落ち着け、有咲……」
お、俺だって、ファーストキスなんだけど〜、この年齢で! 情けないけど!
心臓が爆死するくらいドキドキしてるなんて、恥ずかしくて義妹には言えない。
「お兄、絶対責任とってもらうからね。私以外の女の子との恋愛禁止! 私が大学卒業したらお嫁さんにして」
「あ、有咲……?」
俺が混乱していると、有咲は俺の上からスっと降りて、
「今日はここまで。私は急いですることがあるから。またね、おにいちゃん。約束わすれないでよ!」
有咲は、廊下に仰向けで寝そべったままの俺に人差し指を突きつけてそう言い放つと、自分の部屋へ戻ってドアをバタンと閉めた。
茫然自失とは、こういう精神状態のことをいうのか。
俺は……。
え?
義妹に逆プロポーズされた!?
◇◇
それから、俺たちがどうなったかって?
そりゃ、お察しの通り。
可愛い義妹のプロポーズを断るなんてありえない。むしろ願ったり叶ったりで。
両親は大歓迎、大喜び。
俺たちは、晴れて親公認の恋人、婚約者同士になった。
あの日、俺が目撃した有咲のぬいぐるみ相手のアレは……。
アレだ。
ウェブ、ネット小説の投稿サイトに自作の恋愛小説を掲載している有咲が、キスシーンを描写するのに、よりリアル感を出すため、ぬいぐるみ相手に実践してみていたらしい。
ただ、モフモフのぬいぐるみ相手では、感触まではリアルに再現できないそうで、その場合は……。
そう、最近ではぬいぐるみではなく俺を相手に実践し、小説の執筆に活かしている。
「お兄……、じゃなくて成くん、もっとこう、手をここに置いて。そうそう、あん……だめ、そこじゃなくて……こっちだったら〜」
もう、すいません、俺、幸せです!