ちょいコミュ障が始める異世界攻略
グッバイ現実世界。ハロー異世界。
どうやらわたしは異世界に来てしまったようだ。
どうやって来たのか分からないが、ここが異世界だと分かる。
漫画やアニメで見た通りの外観だ。少しというよりだいぶ和風だが、人種や乗り物はまさに異世界って感じだ。
「安いよ安いよ!」
「冒険者さん宿はお決まりですか?」
てか日本語喋っているしここは異世界ではないのでは? 冒険者って言い回しはニートのことだったり?
そうそう、言い忘れていたがわたしの名前は小実こみ子と言う。自己紹介をすると、わたしはかなりのコミュ障だ。どれくらいのコミュ障かと言うと、返事をする前に「あ」を絶対につける。
それくらいでコミュ障? 笑わせるなだと? これでも立派なコミュ障だとわたしは思う。
だってわたし友達いたことないし。
と、わたしは旅行感覚でそこら辺を歩いてみることにした。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
と客引きの前を通り過ぎようとしたわたし。
「やあやあ、そなたの名は?」
「あ、はわわわっ、わわわ、わたし! わたしの名前……」
ほらな、わたしはコミュ障だ。
本来ならここで怪しまれるのがわたしというコミュ障だが、わたしの目の前の男といえば、
「おやおや、もしかしてお嬢さん、さては異世界から迷い込んだ子猫ちゃんだね?」
なぜわたしが異世界から来た珍客だと分かるんだ? この人ヤバい、てかわたしの他に異世界から来た人いるのか? いるのか! だからわたしが異世界から来たのだと分かったのか!?
「あ、わたし失礼します!」
「まあまあ待ちなさいお嬢さん」
と、言われたわたしは待つことを選択してしまった。
「あ、あ、なんですか?」
「いやいや、異世界で最初に会うのがぼくで良かったですね」
は? なにこの変人。てかコミュ力高すぎなんだけど。わたしとは真逆だ、絶対に友達多い人間だ。
「あ、はい……」
「異世界に来た感想は?」
感想? それとも乾燥? いや絶対に感想の方だ。
そうね、この異世界って江戸時代の日本って感じね。うん? つまりわたしは異世界に来たのではなくて昔の日本に来てしまったのではないか? これがタイムリープ?
「あ、あの、ここは江戸ですか?」
わたしは勇気を振り絞って訊ねてみた。
「いいや、ここは西国の馬場の国だよ」
ばば? 凄い名前の国に来ちゃったよ。
「君は選ばれたんだよ!」
選ばれた? もしかしてコミュ障選手権の選手に選ばれたのだろうか。各国のコミュ障が集まる選手権にわたしが選ばれたのなら、残念ながら優勝は出来ないぞ。世の中にはわたしよりもコミュ力皆無の人が山ほどいるからな。
「選ばれたのに嬉しくないのかい?」
一体何を嬉しがればいいんだ?
「あ、何に選ばれたんでしょうか?」
「もちろん異世界攻略だよ!」
異世界攻略? まさかゲームの中に入っちゃいましたっていう感じの物語がわたしの脳内で再生されていたりするの? これぞまさにARだっけ、いやいやシミュレーテッドリアリティだっけ? まあそれはどうでもいいけどゲームの中なら何でもありか。
「あ、あの、異世界攻略ってなんですか?」
「良い質問だ! 君は異世界を攻略するんだ!」
急にそんなこと言われてもこみ子困ってしまう。
「あ、あの、攻略ってなにをですか?」
ふむふむ、と頷く男は人差し指を立てて、
「この異世界には謎やダンジョンが山のようにある。それを君に攻略してもらいたいんだ」
そっか攻略か……てか、わたしにやらせようとするな!
まぁ何でもいいけど、これがゲームの醍醐味でしょうね。
「あ、最初に何をすればいいんでしょうか?」
「そりゃあ冒険者になるんだよ。それで仲間を集めて冒険をする。簡単なことだ!」
そりゃあNPCの助言なら簡単に理解はできる。でもその発言をわたしは理解したくない。
「あ、あの、無理です」
「いやいやできるよ! まあ、まずは冒険者になりなさい。いろいろな冒険者ギルドがあるだろうけど、君に合った冒険者ギルドはこの大通りをまっすぐ行ったコミュコミュギルドがおすすめだ」
絶対に嫌だ。
「あ、あの、冒険者以外に何かないんでしょうか? というかわたし現実世界に帰りたいんですけど」
「そうか、帰りたいか。じゃあ冒険者になってこのセカイの謎を解くことだ!」
それって強制じゃない! 強制労働だ!
「まあ、まずは冒険者ギルドに加入しなさい」
このNPCめ! 他の選択肢を提供するのがNPCってものだろ。いいや、このセカイはゲームか、なら仕方ない。
こうしてわたしの異世界攻略ははじまった。