二人の主人公?
入学まで残り2日。今日も今日とて本の虫になっている俺の部屋へ、ノックが響く。
「ミレー?」
「はい。アドミナ学園からのテストの成績と、クラス分けが決まったのでリック様が、スーリャ様と共に確認せよ、と」
なるほど、よくある『平民が名門学園のテストにいる』展開は既に通り過ぎていたのか。
それもそうか、と思いつつ立ち上がると扉へ向かう。
「ミレー、開けるわ」
「はい」
そう言うと扉を開けて、ミレーちゃんの顔を確認して笑顔になる。
釣られて笑顔になるミレーちゃんを見て幸せになりつつ、俺は父と母がいるリビングへと案内された。
「来たか!うむ、時間ピッタリ。流石は我が娘だな。
それとミレー、君にも関係のある話なので同席をお願いする」
リックが輝かしい程の娘バカを発揮しつつ、ミレーにも同席を許可した。
「では、僭越ながら……」
そう言って私の隣に立つと、スーリャが他の執事に命じて椅子を持ってこさせている。
「そんな、スーリャ様」
「いいえ。この話は貴女にも関係のある話だとリックが伝えたでしょう?なら立ちっぱなしは失礼に当たるというものよ」
(……おかしい)
そそくさと座るミレーを見ながら、考える。
確かに俺に関係のある話ならば、ただ同席させればいい話だ。立ちっぱなしだろうが、仕える者である以上それは変わらないはずだ。
それがどうだ。スーリャは強引とも言える理論で座らせ、リックは文句を言わない。いや、それ以上に異常なのは……。
(……他の執事もメイドも、顔が語っている。『座って当然』だと。ミレーの命の危機と、リックとスーリャは関係しているのかもしれない)
それはまた本人に聞けばいいか、と思いつつリックに尋ねる。
「成績とクラス分けが出たという話でしたが」
「ああ、そうだ。それがコレだ」
差し出されたテスト結果を見る。
(まぁ、名門なら妥当か)
全科目7割超えの点数。魔法に関しては9割。中々の高評価だ。
「……そして、今回の首席がこの子だ」
99点。ほぼ満点に近い点数を……。
「え、二人……ですか?」
名前を見て、驚く。そこには99点が二人いた。
「うむ。今年の首席は二人だ。名前はコル・トレイスとコル・ミレイヌ。
平民の『真人』と『聖女』だ」
その単語を聞いた瞬間に、ゲーマーの記憶が蘇る。
俺はこのリーシュの位置は噛ませ犬、つまり悪役令嬢だと思っていた。
だから平民が混じる事は想定が出来ていた。
しかし、それは女の子、つまり乙女ゲーとばかり思っていた。
(クソっ!主人公の性別選択によってヒロインとヒーローのルートが分岐するタイプか!)
平民、双子、特別な力。これが偶然揃う事はまさに奇跡だろう。それこそ、ゲームや小説のように何か神……ストーリーテラーの力が無ければ。
やはりゲームの世界か、と思いつつ名前を復唱する。
「トレイスさんとミレイヌさんですね。分かりました」
「うむ。同じ真人と聖女、力を持った者同士で仲良くして欲しい。
……というのも、やはり平民ということがあってな。貴族からは目の敵にされているようなのだ。リーシュ、お前もテストの時に少し絡んだようだが……」
やはり絡んでいたか。残念ながらそれは記憶にないが。
しかしここは謝罪の一手しかあるまい。
「あの時は失礼を……。明後日の入学式までには謝罪を致しますわ」
「そうして頂戴。エドモンズ家の娘の聖女は平民を差別する子だ、なんて噂は聞きたくないもの」
スーリャから釘を刺された。はい、と頷くと笑顔を見せてくれる。
「それで、ミレーを呼んだわけだが……」
そうだ。ここまでの話は全て俺宛て。傍付きであるとはいえ、ミレーが呼び出される訳が今までの話はない。
「単刀直入に言おう。アドミナ学園ではメイド、もしくは執事一人まで部屋の担当に付けることが出来る。それをお前にやってもらいたい。アドミナ学園を卒業したミレーになら、任せられる」
「えっ!?ミレー……卒業していたの?」
「はい」
ミレーちゃん、滅茶苦茶エリート。そりゃこのリーシュの破天荒にも付き合えたわけだ。
しかしそんなエリートミレーちゃんが何故メイドに……という疑問もあるが、それも仕舞おう。
「ミレーも優秀でな。卒業式では卒業生代表だったんだ」
「ええっ!?」
エリート中のエリートじゃないか。益々なぜメイドをやっているのか気になる。
「ミレー、その……」
「……ええ、何故そんな私がメイドをやっているのか。それが気になるのですね、リーシュ様」
チラリ、とリックとスーリャの方に視線が行く。二人が頷くのを見ると、ミレーは語り出した。
「……私は、元々平民でした。何処にでもいる、なんの能力もない平民です。
ですがとある日、私は家族を喪いました。その時の罪人は、既に死の刑罰に科されてこの世には居ません。
私の両親は周囲の人々を逃がすため、最後まで罪人に立ち向かいました。その時、居合わせて周囲の人々の治療に当たってくれたのがその土地を管理する領主……エドモンズ家のリック様とスーリャ様だったのです」
言葉を失った。それと同時に点と点が線で繋がっていく感じもした。
先程の座って当たり前だという周りの使用人の態度。俺へただ一人仕えさせることの、絶対的両親からの信頼感。そして、死を問いかけた時の目を伏せたあの顔。
「……ここまで聞けば、お気づきだと思います。
私は、立場上はメイドとして。実質的には養子として、エドモンズ家に入りました。
しかし、一つだけ知っておいて欲しいのです。
私は、リーシュ様のお世話がしたくて、養子の立場から自ら望んでメイドの経験を積んだのです」
「……わた、しの?」
何故だろう、と考えた時にすぐに答えが出た。
「……それは、私が聖女だから?もしも、その時私がいたら……」
「リーシュ!」
珍しく叱る叫びのリックをミレーがふるふる、と首を振る。
「確かに、その場にリーシュ様がいれば助かったかもしれないでしょう。
ですが、私が拾われたのは五歳の頃。リーシュ様はまだ命すらない状態でした。
……私のような孤児を生み出したくない。その為には、聖女であるリーシュ様を護るしかない。そう思い、私は傍付きメイドとさせてもらったのです」
そうか、そうだったのか。
ミレーちゃんは、悲しい過去を背負っていた。ならば私がするべきは……。
ドクン、と心臓が脈打つ。同時に、魔力が沸き立つ。その気配に父も、母も、ミレーちゃんも、他の使用人も動揺した。
空気が、震えていた。
「なら、私は護らなければならない。
エドモンズ家の娘として。聖女として。
何よりも、護られた者を護る者として!」
そう言った瞬間に、自分の中の魔力が沸き立つのが分かる。
増えた、というのとは違う。変質だ。
「私は誓いましょう。この名において、手の届く者、全てを救う聖女だと!」
……分かる。この魔力の変質は、『護る』よりも『排除する』力だ。
それでも、ミレーちゃんを護るためには。
力が、いるんだ。
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