ミレーへの誓い
黙々と家にある魔法の本を読み続ける。
そこには、スーリャの言っていた魔力のクセと言われるものも書かれていた。
例えば、生まれつき暴力的な者は攻撃魔法に傾倒しがちであり、反対に真人や聖女のように他人を救う立場であれば魔力は防御魔法にクセが付きやすい。
(でもなぁ。ミレーちゃんを護るためには防御魔法だけじゃダメだよなぁ)
色んなゲームでもそうだ。バフを……能力向上効果をかけたところで、肝心の攻撃技が弱いとその効果も薄い。
どうしたものか、と考えていると扉をノックされる。
「ミレーです。お母様であるスーリャ様からの言伝を届けに参りました」
「分かった、入って頂戴」
もう隠すのは無理だ。本が散らばりすぎている。
ああ、整理整頓の出来ないダメ聖女だ……。
そんな事は気にせず、逆にミレーちゃんは褒めてくれた。
「……リーシュ様は、これほど魔法を学んでいるのですね」
「ええ。先程のような事、失敗などしないようにしないといけませんから」
そう言うと、ミレーちゃんは座った私に目線を合わせてゆっくりと話し出した。
「……お母様であるスーリャ様は厳しく叱っていましたが、本心ではリーシュ様を高く評価しておられました」
「……お母様が?」
はて、叱られたのに褒めていたとはどういう事か。
「本来、アクアベールを基本とした防御魔法を相手にかける場合、かけられた側の魔力を引き出した後、魔力の反発が起きないように無意識下で護る、護られるの意思疎通が行われるのです」
それは初耳だ。いや、これは攻略本を読み切れていない証拠だ。もっと励まなければ。
「……しかし、私はアクアベールをかけられた時に魔力を引き出されることもなければ、無意識下の確認もありませんでした。
それは、相手がどうあっても護るという意思が強い時に発揮されます」
「ミレーは私の専属メイドだもの。……ううん、それだけじゃないのだけれど」
そう言うと、クスッと笑ってミレーちゃんは距離を近づけてくる。
「ええ、ただの専属メイドならば魔力の反発が起きたことでしょう。ですが、それは起きなかった。私は、リーシュ様に大切にされているのだと実感しました」
「と、当然でしょう?だって……」
「だって?」
……好きな人だから、とはまだ言う勇気が無かった。そっぽを向くと、察してくれたかのように抱きしめてくれる。
「……ありがとうございます、護ろうとしてくれて。私を、生かそうとしてくれて」
「……ミレー……?」
何か含みのある言葉。それを抱きしめられながら考える。
もしもゲームの場合、この手の言葉を吐くのは死にかけた者のセリフだ。ならば、ミレーは……。
「……ミレー、嫌だったら答えなくて良いのだけれど質問していいかしら?」
「……?はい、何でしょう」
正直、傷つけたくはない。仮定であって欲しい。
だがこれが思った通りの事ならば、ミレーちゃんは……。
「……ミレー、もしかして貴女は……
死にかけた……もしくは、それに近い体験をしたのではないかしら?」
「っ!」
明らかに動揺を見せた。図星なのだろう。
「細かい事は、辛いだろうから話さなくて大丈夫よ。でも、覚えておいて欲しいの。
私は聖女とか、令嬢とか、立場とか関係なしに、ミレーを護りたいの。……許してくれるかしら?」
ミレーちゃんは黙る。その後に、ポツリと呟く。
「……その気持ちは、とても嬉しく思います。ですが、リーシュ様は聖女です。多くの人を救う存在です。もしも多数の人と私、どちらか救えない時は……私を、見捨ててください」
「嫌だ」
間髪入れず男口調が出た。その言葉に、ミレーちゃんは驚いている。
「……もし、そんな状況になったとしましょう。
確かに、聖女としての役目であれば大多数の人を救うのが道理というものでしょう」
「そう、でしょう?」
「私はそうなりたくない。
聖女は確かに多数の命を救えるかもしれない。でも、私は両方を……ミレーも、大多数の人も両方救いたい。
勿論、どうしても無理な場面というのはあると思う。その時、どんな判断を下すのかは私にも分からない。
……そんな状態になった時、私は両方を救いたい。私はワガママなの。片方を見捨てて片方を救う。そんなの、嫌なの。両方を救ってこそ、本物の聖女だと思うの」
そう言うとミレーちゃんは驚いた顔をして、ふんわりとした笑顔を浮かべた。
「……スーリャ様の言う通りでしたね」
「お母様が?」
オウム返しで問いかけると、ミレーちゃんは答えてくれる。
「スーリャ様はリーシュ様を、歴代でも屈指の聖女になるかもしれないと仰っていました。……私も、今。確信致しました。
リーシュ様は、歴史に残る聖女になる、と」
正直、大勢の赤の他人と好きな人一人を救うのであれば後者を選ぶ。
でも聖女は大多数を護らければいけない。だから。
「ミレー。貴女は……私が、必ず守る。たとえ、この身を犠牲にしようとも、貴女だけは守り通してみせます」
だって、それが惚れた弱みなのだから。
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