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魔力の性質

「リーシュッ!」

「はひっ!」


一瞬の間があった後、母親であるスーリャから叫ぶような言葉が聞こえてきた。


「……貴方、アクアベールを。ミレーに……他人にかけたわね?」

「は、はい……」


やはりまずかっただろうか。対人魔法ではないとはいえ、魔法は魔法だ。失敗すればタダでは済まないだろう。


「……リーシュは本で読んで成功させたのか、それとも気持ちがそうさせたのか分からないけれど説明しておくわね。

アクアベールは攻撃魔法などから身を守る為の魔法。それを自身にかけるのは問題無いわ。

けれど今回は別。リーシュがその魔力を使って他人に魔法を掛けたわ。これは、一歩間違えればミレーは水浸しでは済まなかった……ということを理解していて?」


「……私の魔力は、聖女として産まれたが故に人より多くの量を有しております。それが予想を超える水を生み出して、ミレーをアクアベールに閉じ込め可能性があったのですね」


叱られた。それは問題ではない。

問題はこれでは好きな女の子を実験台にしたようなものだという事だ。最悪だ。最低だ。数秒前の自分を叱りたい、と思った瞬間。


「あの、スーリャ様!」

「どうしたの?ミレー……」


ミレーちゃんが、ハッキリとお母さんに声をかけた。


「リーシュ様の魔力は、完璧にコントロールされていました。それは、受けた私が一番知っています。それに……なんと言いますか、決して私を傷つける気配のない魔力だったのです」

「決して傷つける気配の無い魔力……なるほど」


それに一考して、お母様は俺へと振り返る。


「……ひとつ聞くわ。リーシュ。貴方は何を考えながらミレーにアクアベールをかけました?」


そんなの、決まっている。


「……ミレーを護る。それだけを考えていました」

「……!」


その言葉にミレーちゃんが目を輝かせる。それと同時に、スーリャも息を吐く。

それも、ため息はなく感嘆の息だ。


「……リーシュ。聖女の魔力の本質は『誰かを護る』事にあるわ。その最たるものが、死の淵からも生き返らせることの出来る、桁外れの回復魔法。

……今回だけは、不問にしましょう。ただし、これだけは覚えておきなさい。

今回は魔力のクセとも言える本質が、貴方をサポートしてくれて成功した。一歩間違えれば、ミレーを喪うところだった、と」

「はい……」


「それとミレー、貴方はこの後数分だけ私の部屋に」

「分かりました。リーシュ様を部屋まで送り届けた後、向かいます」


そう言って、俺は自分の部屋まで送ってもらった。

途中までは自己嫌悪に陥っていたが、部屋に着くと、ミレーちゃんに謝った。腰を曲げて、顔を俯かせて。


「ごめんね……ミレーを実験台にするような事をして……」

「……リーシュ様。私は、嬉しかったのですよ」


その言葉で、俯いていた顔を上げた。そこには朗らかな笑みを浮かべたミレーちゃんがいた。


「リーシュ様は、決して私を傷つけないという意志があったのでしょう。……恐らくですが、私が自分にアクアベールをかけた所であれ程の効力を発揮するとは考えられません。

……護ろうとしてくれて、ありがとうございます」

「……ミレー?」


最後、少しだけ目を伏せた彼女は「スーリャ様の所へ」と出ていってしまった。


「次は行動も失敗しないように……!読むぞ!攻略本!」


そう意気込んで、攻略本という名の魔法の本を再び読み込み始めた。


━━━━━━━━━━━━━━━

「ミレーです」


コンコンコン、というノックと共にスーリャの部屋に声が届く。ペンを置いて、私は声を出した。


「入ってちょうだい、ミレー」


静かにガチャり、と音がして扉が開いた後、音がなく閉まる。


「ごめんなさいね。……どうしても、聞きたいことがあって」

「何でしょう、スーリャ様」


愛娘にも近いミレーにこれを聞きたくは無いが、確かめなくてはならない。


「ミレー。……さっきの傷つける気配のない魔力という言葉、本当なのね?」

「はい。寧ろ、攻撃魔法とは真逆の優しさまで感じました」


実の所、娘の失敗を叱ったが内心では息を飲んでいた。

アクアベールを他人にかける。それも、他人の魔力を借りず、意思も関係なく。

これは、異様とも言える使い方だった。


「ミレー。貴方は分かるでしょうけれど……。

他人にアクアベールなどの防御魔法をかける時は他人の魔力を借りた後、本人の意思を無意識に確認しなければならないわ」

「はい。……ですが、あの時私に護ってもらうという意思は……」

「そう、急に呼ばれてアクアベールをかけられるまで、護られている事に気が付かなかった。……これは、歴代の聖女や真人が数十年間努力した先に、ようやく得られたものよ」


そう。よっぽどの危険時でも無い限り、自分の魔力を使って他人を守ろうとなんて事をまず考えない。

しかしそれよりも重視する点は、『アクアベールを最初からミレーにかける気でいた』点だ。


それを気取られれば相手との魔力の相反により、魔法は失敗する。

けれど、リーシュは魔力の反発を起こす事無く護りのアクアベールを使った。


つまり、相手の魔力の本質や意志を無視して、自分の力だけで護った。これが、聖女としてどれだけ強いか。


「……もし、この先順調にあの子が聖女として大成したら。相手の意志を確認することなく回復も防御もかけられる、歴代でも屈指の聖女になるわ。だから……ミレー、貴女から褒めてあげて欲しいの」

「……私から?」


不思議そうに首を傾げたミレーに対して、微笑む。


「……私は客観的な意見で叱ってしまったわ。そんな相手から褒められたところで疑心暗鬼になってしまうでしょう。

でもミレー。貴女は違う。娘の信頼を得ている。娘に好意を寄せられている。……だから、貴女から褒めてあげて」

「分かりました」


ぺこり、とお辞儀をしたミレーに対して、立ち上がってから頭を撫でる。

それは、リーシュが生まれてからは暫くしていない、母親の行為だった。


「ぁ……」

「これからも、リーシュを頼むわね。……愛しいミレー」

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