ゲーマー式魔法
俺がエドモンズ・リーシュになってから一週間が経った。
とにかく、書物を読みまくった。何も知らないのに名家の令嬢になってしまった、というのは言わばチュートリアルを全てスキップして操作方法も知らないままリセマラに成功した当たりアカウントのようなもの。
その先の進め方、攻略方法など、ミリ単位も分かるはずがない。しかも恐らくだが、主人公ではなく悪役令嬢と呼ばれる、言わば引き立て役のような立場にあったリーシュだ。主人公補正がかかって偶然が重なるはずもない。
そこで本だ。それはこの世界のチュートリアルを記載した攻略本に他ならない。
そんな感じで、魔法についての本を読んでいた。
「魔法は内側の魔力を放出して使用する方法と、魔法陣を組み合わせる方法がある、と……なるほど……」
どちらにもメリットがあり、デメリットがあった。
前者の魔力放出は、言わば無詠唱魔法のようなものだ。即座に放たれるため、速効性はかなり高い。
ただしそれはあくまでも発動したら、の話だ。
聖女としての魔力は膨大であり、薬が毒になるように一歩間違えれば魔力放出の方法は失敗……最悪の場合、自爆にもなるかもしれない。
その逆、魔法陣を組み合わせる方法はその心配がない。
正しい魔法陣を描き、そこに魔力を注ぎ込むことで適切な魔法が使用される。
逆に言えば魔法陣を描く時間や空間が必要となり、敵襲や咄嗟の回復には向いていない。
一長一短、という訳だ。しかし、ゲーマーである俺は両方をマスターするべきだと考えている。
何せ魔力と攻略本だけは沢山ある名家なのだ。両方使えれば何かと楽になる。
……という建前だが、実際にはやり込み要素に燃えている。
つまるところ、二つの職業があって片方だけ上げ終わって終わり、よりも両方レベルキャップまで持っていきたいのだ。意地に近い。
そうと決まれば、ミレーちゃんに相談だ。
専属メイドである彼女は広すぎる自室の管理を全てしてくれている。同じ空間にいるだけでも幸せだが、好きな女の子に奉仕されて喜ばない男は少ないと思う。今は女の子だが。
「ミレー、少しお願いがあるのだけれど……」
一週間の間に、どうにか敬語を無くすことに成功した。本を置くと、花瓶の花を活けていた彼女が振り向く。
「はい、何でしょうかお嬢様」
「魔法の練習がしたいの。だけれど、私は本で読んだだけで実際に魔法を使った事がないわ。……ミレーが良ければ、外で一緒に練習したいと思ったのだけれど、どうかしら?」
そう言うと、少し考える素振りをしてから頷く。
「確かに、リーシュ様は聖女であるが故に回復魔法のみならず、よく思わない不埒なものへの攻撃魔法や防御魔法の特訓もするべきだと思います。今、リック様に庭の訓練場の許可を頂きに行くので少々お待ちいただけますでしょうか?」
「ええ!ありがとう、ミレー」
そう言ってからお辞儀をして出ていった後、急いで攻撃魔法と防御魔法の本をぱらりと開く。
攻撃魔法は魔力を火や水、風などに変換して相手を攻撃するものである。その威力と規模は本人が使う魔力のコントロールで違ってくる。
つまり、常人では持ちえない魔力を持つ俺が不用意に魔法を放つと、火事、水害といった事態にまで繋がるかもしれない。
何より、ミレーちゃんを傷つけるかもしれない。それだけは絶対にいけない。
女だけど、男として、惚れた女に怪我をさせたくない。
という訳で魔力を絞る方法をミレーちゃんが来るギリギリまで確認していた。
家の外。広すぎる庭にて、ミレーちゃんを初めとして魔法術士としても優秀である母のスーリャがいざという時の守りとして来ていた。
「じゃあ基本魔法の『ファイアーボール』、『ウィンドカッター』、『アクアベール』を試してみてもらえるかしら?」
スーリャが言う。ファイアーボールは炎の球を生み出して使う攻撃魔法。ウィンドカッターも風の刃を生み出す攻撃魔法。逆にアクアベールは水の衣で自身を覆って攻撃を防ぐ防御魔法だ。
まずはファイアーボール。庭にある的に向かって、手を差し出す。
「あら、魔法陣は使わないのね。分かったわ」
魔法陣を使って感覚を覚えるのがセオリーらしいが、俺は前者を選択した。
それに伴い、母のスーリャが防御魔法の構えを取った。
「……ふっ!」
差し出した手から父の握りこぶし程の火球が生まれ、それを的に向かって、そっと手放すような感覚で押し出した。
それは見事な直線で的に向かっていき、直撃した。
「威力も抑えてあるのね。……そうしたら、ウィンドカッターは止めましょう。アクアベールだけ見せてもらえる?」
「はい、お母様。……あ、でも、ミレーにそばに来てもらっても良いですか?」
その言葉に首を傾げるも、スーリャは頷く。それに応じてミレーちゃんがそばにくる。
俺が魔力放出の形を先に取得したかった理由。
それは、魔法陣の形が『予め分かっている術式しか発動しない』のに対して『魔力放出は一か八かできる』という点だった。
(俺は、ミレーちゃんを護れるようになりたい……!)
そう思いながら、水の魔力を手に込めるとミレーちゃんに向かって放つ。
「わっ!?」
「……これは」
母のスーリャも驚いたようだった。
何故ならばアクアベールはあくまで、自分自身を護るように水の衣を展開する魔法。
しかし今発動したのは、ミレーちゃんの全身を覆うように水の壁が出来た魔法。
(よし!成功したっ!)
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