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同時刻

同時間。クラウス領にて、トレイスはフィナから説明を受けていた。


「……つまり、反乱を鎮圧するために真人と聖女として出て欲しいと」

「はい……。すみません、お客人の貴方たちに頼むのはクラウス家としても、私個人としても心苦しいのですが……。真人と聖女。治癒に長けた御二方がいれば怪我をした領民も助けられます」

「……この家に籠るのは、ダメ、ですか」


そう言ったのはミレイヌだ。私の袖を引っ張りながら怯えている。

怯えないわけが無い。頷いたら、行くのは戦場なのだから。


「勿論、この館に残ってもらっても大丈夫です。これはあくまでクラウスの問題であり、トレイスさんとミレイヌさんには直接は関係の無いことですので……」


それでも、と考える。ミレイヌは連れ出せなくても、私一人でも出れば怪我人を救える。

それも、一人二人では無い。数百人といった単位でだ。


「……ミレイヌ、自分は行くよ」

「お兄ちゃんっ!?私を置いていくの!?」


ずきり、と心が痛むが私はそのまま続ける。


「……真人として、役目を果たす時が来たんだ。これはクラウスだからとか、平民だからとかそういう理屈じゃない。

立たなきゃいけないんだ。人が助かるなら。

……自分達のような境遇の子が減るなら」

「……っ」


反乱で親を亡くして孤児となるのは何よりも辛いだろう。

そんな子を、私は増やしたくない。

意志を確認するようにフィナがじっとこちらを見てくる。

それに対応するように頷くと、フィナが呟く。


「ありがとう。……そして、ごめんなさい。巻き込んでしまって」


そう言ってフィナは部屋を出ていく。

その間、ミレイヌがずっと泣きながら確認してくる。


「お兄ちゃん帰ってくるよね?私の事、独りにしないよね?」

「うん。絶対帰ってくるから、ミレイヌは安心してこの部屋で待ってなさい。……ミルヤさん、クルヤさん」


執事とメイドの二人を呼ぶと、頷く。


「はい。ミレイヌ様は命に変えてもお守り致します」

「……だから、旦那。きちんと帰ってきてくださいよ」


強く頷くと、ふと大きな窓から外が目に入る。

綺麗な風景だ。手入れもされていて、木々が邪魔をすることもない。

なのに、空はどんよりと曇っていた。




フィナとフィナの両親が部屋にやってくる。


「……すみません。本当に」


そう切り出したのはフィナのお母さんだ。

顔が悲壮感を漂わせている。今まで穏便に治めていたクラウス領だ。

加えて、癒しになればと連れてきた先で真人、聖女として動いてくれだなんて本当は言いたくないだろう、と思う。


「……真人ですから。仕方ないんです。その為に色んな援助を受けてきたので。

ただ、ミレイヌはこの部屋にクルヤさんとミルヤさんに預けさせてください」


お願いします、と頼むと頷かれる。


「えぇ……ミレイヌさんの事は、クラウス家がしっかりとお守りします」


これで、ミレイヌは安全だ。そう思うと脱力しかける。


「私とお父様は一緒に前線に立ちます。

……ですが、怖いですね。戦場に立つというのは」


フィナは元々社交的で、魔法も武器の扱いも並だ。

そんな彼女が何故前線に立つのだろう、と思っているとフィナのお父さんが答えてくれた。


「クラウス領で起こった出来事を自分の目でしっかり確認して、治めていきたいと聞かなかったのだ。……ただしフィナ。お前も後方支援だ。あくまで前線に立つのは私と兵に任せておけ」

「はい……」


……ここで、選択を間違える訳にはいかない。

最優先はフィナの命だ。そうしなければ、クラウス家が続かない。

それに今の私にはリーシュ……陽さんから教えてもらった魔法がある。


いざとなれば、私が兵士として最前線に立つ。

命を軽く思っているわけではない。ミレイヌにも約束した。

だからこそ、多くを助け、多くを傷つけるのは私でいい。

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