冬休み
あれから数ヶ月。冬休みを挟むことになった。
「それではクレイ様、またお会い致しましょう」
「嗚呼リーシュ嬢!もう行ってしまうのかい!?何なら我の部屋で一晩……!」
絶対に嫌。フルフルと首を横に振りながら、それっぽいセリフを探す。
「まだ嫁を正式に貰っていないクレイ様が婚約者とはいえ部屋に連れ込めば一大事というもの。王家の威信に関わりますわ」
「ふむ……次からは父上の許可を取る事にしよう!」
「お気持ちだけで結構ですわ。……ミレー、そろそろ時間かしら?」
助け舟ください、と見ると察してくれて頷かれた。
「はい。そろそろ馬車の来るお時間です」
「というわけで、またお会いしましょう」
受け継がれた優雅な礼をするとその場から去る。
「……ぁ……」
「ミレイヌさん、トレイスさん。……あれ、フィナさん?」
ミレイヌはあの後復活はしたが、以前のような元気は無くなっていた。
ただ、授業……とりわけ魔法と武器に関するものには深く臨んでいた。
「あら〜!リーシュさん!クレイ様との挨拶は終わりになられて?」
「ええ。もうすぐ馬車が来ますので。そちらは?」
「私もですわ〜。今年はトレイスさんとミレイヌさんも一緒ですのよ!」
ははぁ、なるほど?
あの後ミレイヌは俺を交えて、フィナにだけは事情を打ち明けていた。隣の席であり、いつかはバレる事だが皆が知ってはまずい。
真人と聖女の親が死んだ、となったら養子として引き取ろうとする家が多すぎるからだ。故に、マキア先生のアドミナ家、フィナの話術とクラウス家、そして俺のエドモンズ家の人間でカバーをしていた。
「クラウス領は四家の中で最も犯罪が少なく、自然も多いと聞きますわ。お元気になることを祈っております」
「ありがとうございます、リーシュさん。……後、これを」
そう言って見せられたのは前に渡した魔法の紙だった。
「お返しします」
「あら、私だけ除け者ですの?」
ムスッとするフィナに対して、やんわりと説明する。
「これ、私が考えたミレイヌさんへの元気づけの紙ですわ。深いものではないので、お気になさらず」
そう言ってその場で軽い炎で燃やしてしまう。万が一にでもバレたら大変だからだ。
「そうでしたの〜!てっきり文通かと思いましたわ」
「いえいえ、私は婚約者のいる身ですわよ?フィナさん」
「ふふ、知っていますわ〜」
談笑していると、ミルヤさんとクルヤさんが寄ってきた。
「冬休みが明けても、お嬢様をよろしくお願いします」
「こちらも。旦那をお願いします」
それに対して、微笑んで礼をすると二人はフィナの近くに戻った。
そうしていると、馬車が来た。我が家の馬車だ。
「では私はこれで」
「はい〜。今度はそちらの領も遊びに行きたいですわ」
「はい。また冬休みがあけた時に」
「……リーシュさんは、帰ってくる?」
ピクっと最後の言葉に立ち止まる。
「こら、ミレイヌ……」
「私は帰ってきますわよ、大丈夫ですわ」
そう言ってミレイヌに微笑むと、彼女も微笑んだ。
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馬車に乗ると、数時間は暇だ。
「……全てを習得することは出来ましたが……」
そう切り出すミレーちゃん。わかるとも。
「威力が足りない……というより、私のより低いのを気になさって?」
「ええ。やはり、見たことの無いものというものは……」
彼女が見たことの無い、もしくはこの世界で解明されていないが為に分からないものを半分は使っている。唯一俺以上に使えるのは、この世界でも起こりえて、かつ魔法の経験値が高い彼女のバキューム・ダウンバーストだけだ。
これはダウンバーストという現象と、真空という理論さえ分かれば難しい魔法ではない。彼女が一番最初に我が物としたのもこの魔法だった。
「あ、この魔法は皆には……」
「ふふ、秘密。ですよね。わかっております」
そう雑談しながら、家へと馬車は向かっていった。
エドモンズ家着。使用人とミレーちゃんに恭しくエスコートされながら降りると、リックとスーリャが立っていた。
「うおおおおんリーシュ!リーーーシュ!」
そう言って抱きついてきた父を剥がすことなく、抱きつきながら言う。
「只今戻りました、父上」
「アナタ、私にも二人の顔を見せて頂戴?」
そう苦笑されながら言われると、慌てて離れるリック。それに代わるように俺とミレーちゃんを撫でるスーリャ。
「……おかえりなさい、我が子達」
「はい、只今帰りました。母上」
「同じく、無事に帰りました」
穏やかな雰囲気の中、俺たちは家の中へと入った。
あけましておめでとうございます。新年もよろしくお願い申し上げます。




