現実の選択肢
俺が開発した無慈悲なまでの攻撃魔法は、聖女としての膨大な魔力量と攻撃性に変化した魔力の性質によって成り立っている。
故に、魔力がごく普通のミレーちゃんが連発できる魔法ではない。
それでも、俺よりは賢い。理論の説明から行う事にした。
泣き止んだ彼女相手に、説明をする事にした。
「ミレーちゃん、俺たちが知る中で一番熱いものってなんだと思う?」
「え?ええっと……炎、でしょうか……」
「そうだね、炎。でももっともっと熱いものがあるんだ。天文学で習ったと思う」
「天文学……?……!太陽!」
「正解!」
そう言って、太陽を紙に描く。
「さっき見せた魔法は、太陽ともう一つの現象を混ぜることで強力にしているんだ」
「陽さん、何故太陽ともう一つを組み合わせるのですか?」
最もな疑問だ。俺はそれについて答える。
「例えば、の話だけど。もし炎の魔法によって薪が燃えていたとする。これを魔法によって強化したいけど、水をかけると消えてしまうし風を使うと薪ごと吹っ飛んでしまう。こんな時、どうする?」
「同じ属性に与する要素を取ってくる……って事ですか?」
「そう。あくまで太陽は『炎』という要素に過ぎないんだ。だから、肝心なのはここから」
エラプション、噴火のイメージは彼女に説明するのに苦労しそうだ。
何せ活火山が無い。日本は桜島や富士山などもあり、火山自体もイメージしやすかったがこの世界には山しかない。
「まず、エラプション。これは火を噴き出す意味合いを持つんだ」
「火を……?しかし陽様の見せたあれは液体のような……」
「そう、液体。実はあれは液体なんだ。
ただし、この世界を作っている地面の下よりも深い場所にある物を溶かした液体なんだ」
納得がいった、というように話す。
「何となく見えてきました。あれは液体で一見すると水魔法のように見えますが、実際には高熱の炎によって溶かされた副産物が出ているだけに過ぎない。
太陽の要素とその炎の副産物で攻撃する魔法……ということですね」
「流石ミレーちゃん!その通り!」
これがソーラー・エラプションの原理だ。
生半可な水では太刀打ちできず、液体としては重い部類に入るため風魔法でも吹き飛ばせば敵味方問わず被害が出る。
それを伝えてから、部屋の扉を見る。
「……これらの魔法を、教えに行こうと思うんだ。トレイスさんに。
あの人は、ミレイヌさんの幸せを何よりも願っている。その為なら我が身すら犠牲にする魔法だって使うだろうと思って」
そう言うと、ムスッとしながらミレーちゃんが扉を開けてくれる。
「リーシュ様。それなら私は余計に信頼されていないですよ」
「な、なんでですの?」
扉の前のため、口調を戻すと彼女は不満げな顔で言う。
「我が身すら犠牲にする魔法。それを使えば貴方を護ることが出来るのに」
「……!」
そう言うと、手を差し伸べられた。
いつも通りの手ではあるけれど、どこか特別なように思えた。
ミレイヌの部屋の前で、ノックをする。
「……どなたですか」
「リーシュですわ。トレイスさん」
「……鍵、あけます」
そう言って彼は部屋へ入れてくれた。
カーテンが閉められている。ミレイヌはベッドにて塞ぎ込んでいるようだ。
「……ミレイヌさんのお加減は?」
「思ったよりも……重症です」
重症?と聞き返そうとするとベッドから声が聞こえる。
「ひっく……お母さん……お父さん……どこ……?どこにいるの……?お兄ちゃん、お兄ちゃんは……?お兄ちゃん……お兄ちゃん……!」
「ミレイヌ、お兄ちゃんはここにいるよ」
直ぐにベッドに寄って、手を取ると安心したような吐息が聞こえる。
「……良かった……」
何となく察した。完全に病んでしまったのだ。
「……元々、父と母が好きだったんです。愛されて、愛されて……そんな親の幻影を未だに見ているようです」
「……仕方がないことです。私も、そうなり得るかもしれないので」
そう言うと、複数枚の紙を手渡す。
「これは……?」
「攻撃魔法です。『あちら』の言語で書いてあるので、妹さんを守るためになれば、と」
その紙をペラリペラリと捲ると、頷く。
「……ありがとうございます、リーシュさん。
後、お願いがあるのですが……」
「お願い?」
頷いた後、真剣な顔で頼み込んできた。
「……少しでも、彼女に魔力を分けてあげて欲しいのです」
「魔力?しかし真人であるトレイスさんも……」
「魔力とは質です。自分の魔力では彼女を助けられませんでした。ですが、リーシュさんの魔力の性質なら……」
これについては悩むしかない。
自分の魔力は攻撃の性質を持っている。ミレイヌにこの魔力を分け与えたとして、どうなるだろうか。
今までなら、これがゲームにおける主人公の転換期だと思っただろう。
しかし今は違う。
『コル・ミレイヌ』という一人の人生を左右する選択肢だ。
暫く悩んだ後、少しだけという条件で分けることにした。
「……ん……」
魔力を分け与えると、彼女はスヤスヤと寝始めた。
これで良かったのか、そう迷う俺に『彼女』が言う。
「……陽さん。ここはもう、ゲームでは無いのです。ですが、現実だってそうです。
取れる手段で、どうにかするしかない。それが後でどう転んだとしても、私はミレイヌをここで失う訳にはいかないのです」
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