その言葉を伝えるには重く
「……ぇ?」
信じられない、というように声を上げたのはミレイヌだった。
「先生、そんな……嘘、ですよね……」
「……残念ながら、本当だ。君のご両親を観察に行った領の者が確認している」
「死因は何でしょうか、先生」
悲しみは湧いた。けれど、それ以上に疑問が勝った。
元々自分達に充てられていた金を酒や嗜好品に使い込んでいたのだ。病気、他殺。なんでも有り得る。
「……不可思議なのだ」
「不可思議?それは、どういう……」
マキア先生がまたグッと涙を堪えながら言う。
「……状況報告によれば。君たちの母親は刃物にて自害。だが、その前に明らかに『父親を殺害して』死んだのだ」
「う、そ……お母さん、が……」
確かに、それは不可思議だ。
これが真人と聖女を狙った他者の犯行であるなら、父親と母親は他殺と断定できるであろう。
しかし聞いた話によると、母が父を殺してから自害したという。
(……このきな臭い感じ。信じたくは無い、信じたくは無いけれど……ゲームのフラグ、なのかもしれない)
イベントチャプターで親しい人との別れがある。そんな事をSNSでちらりと見た気がする。
とにかく、今は『トレイス』としてミレイヌを支えなければ。
「ミレイヌ、ミレイヌ……」
「お兄ちゃん、おにい、ちゃ……うわあああああん!!!!」
そう言ってミレイヌは私の胸の中で泣きじゃくった。
それもそうだ。私にとっては親でなくとも、ミレイヌにとっては唯一無二の親なのだから。
「……すまない、アドミナが統治していながら……本当に……」
「……今夜だけ、ミレイヌの寮の部屋に入る許可を頂きたく」
「……特例として。夜ご飯が終わった後から次の登校まで許可しよう」
そう言ってマキア先生は資料を書き始めた。
登校。一日とは言われていない。ミレイヌの傍に居てやれ、という先生のグレーゾーンを攻めたものだろう。
(……陽にも相談しておくべきかしらね)
ふと、ぽたりと雫が落ちた。
それはミレイヌの頭の上に落ちていく。
拭えど拭えど、それは止まらない。
(ああ、やっぱり……)
う、うぅと嗚咽を漏らしながら思った。
あんな親でも、私にとって二回目でも。
肉親は肉親なのだと。
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「……フィナさん。ミレイヌを頼めますか。自分はリーシュさんに話しておく事があります」
マキア先生の自室から出てきたトレイスがそう言う。
泣きじゃくって目の腫れたミレイヌを見て、フィナは頷いた。
どのような事があったかは聞かなかった。きっと、それはタブーだからだろう。
ミルヤさんとフィナさんに支えられながら、クルヤさんが合流する。
「旦那、一体何が……」
「……両親が、死にました」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。
「……ご両親が、亡くなった……?」
「はい。……その上、母は父を殺害してから自害したと」
確かに、二人が亡くなる事自体はフラグが成り立つ。
だが、妙だ。
乙女ゲームに関わらず、年齢指定のあるものはそんな回りくどい事をしない。他者が殺害した、と分かるように設定しているはずだ。
いや、もしくは……。
(……裏で、別のイベントシーンが流れた場合か)
ゲームの世界の住人では知りえない、『一方その頃』があった場合。
「……リーシュさん。どう思いますか」
その問いかけは、リーシュではなく陽に問いかけられているように見えた。
だから、こう答える。
「……一方、その頃」
「……なるほど」
その回答でトレイスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あの、リーシュ様……その意味は……?」
「ごめんなさい、ミレー。……言えない、私の口からは」
その回答を聞いて、クルヤさんも同じことを思ったようだ。下がっていく。
「……今日の夜ご飯終わりから、ミレイヌが登校可能になるまで女子寮の滞在許可を貰いました。暫くは……ミレイヌと共に居ます」
「分かりました。その分の勉学は私とフィナさんが受け持ちます。ノートは任せてくださいませ」
そう話して、トレイスと別れてフィナとミレイヌの元へ向かう。
彼女達は、外の木陰にいた。
泣きじゃくる彼女を、フィナがただ撫でている。
「ひっく……ひっく……」
「……」
俺はミレイヌに近づいて、背中を撫でているフィナの手に重ねる。
「ミレイヌさん……」
「信じられないもん……。お母さんとお父さん、凄く仲良かった……。私達の為のお金使い込んでたけど、仲良かった……!
お酒とか飲んでたけど、それでも私達の頭を撫でてくれたもん!うわあああああん!」
その言葉を聞いて、ふと違和感を感じる。
それは、現実でも、ゲームだとしたら尚更だ。
(トレイスとミレイヌを産んだ両親は、少なくとも保護のため定期的なお金を送られていた。それをお酒に使っていたとしても、学園に入ってから打ち切られた様子は無かった。
なのに、母親が父親を殺害して自害した。他の男とくっ付く為では無い。そう、まるで……)
……まるで、その二人を邪魔に思った誰かが殺したかのような。
そう思った時にミレーちゃんに素早く言葉を飛ばす。
「ミレー!至急鳩を!伝書鳩を用意して!」
「は、はい。宛先は……」
真人と聖女はこの国、強いてはアルバルト王家に大きなメリットを齎す。
それを許さない存在がいる可能性が、一つ。
「宛先はエドモンズ家!内容は『コーラス家の動向について』!早く!」
「分かりました」
そう言って、ミレーちゃんは素早く走り出した。その後、フィナが聞いてくる。
「あの、コーラス家がどうか……?」
「……今、真人と聖女の恩恵を一番受けているのは王家です。その王家に敵対し、尚且つアドミナ領に侵入し、その親を殺せる者……。無論関係ないかもしれません。ですが……。
王家への忠誠が絶対でない名門四大貴族、コーラス家が、一枚噛んでいるかもしれません」
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