異常事態
寮に帰ると、早速俺の部屋に集合して遊ぶことになった。
スマホやPCは無いが、友達と遊ぶのはいつの時代でも楽しいものだ。
「トランプの他にも、こんなものもございますよ」
そう言ってミルヤさんが取り出したのは独特な色の箱だった。
「これは……?」
「ラスト、と言いますの〜!トランプに似ていますが、違うのですよ!」
ラスト、はて。どんなゲームなのだろう。
「ルールは簡単ですわ〜。手持ちと同じ色、もしくは数字を出ていって、手持ちのカードが1枚になったら『ラスト!』と宣言しますの。ラスト、と宣言しなかった事を他の人が気づいたらその人は2枚、山札から取る事になりますわ〜」
フィナの説明で完全に理解した。
UNOだ、これ。
折角なので、ミレーちゃんとミルヤさんも加わって皆でやる。
「ラスト!」
「う!ミルヤさん、早い……!」
ミルヤさんはラスト。だがそうは問屋が卸さない。
自分が青の7を出すと、青のリバースをミレーちゃんが出す。
「ごめんなさい。まだあがらせません。ドロー2です」
「あら!やりますね、流石リーシュ様」
微笑みながらミルヤさんが2枚引く。更にその中に青は無かったようで、追加で一枚引く。
そんな穏やかな時間の中だった。コンコンコン、とノックされる。
「私が対応致します」
ミレーちゃんが立ち上がると、扉まで行く。
「何方でしょうか?」
「私でございます。何やら担任のマキア様からコル様達にお話があるとか……」
そう言ってきたのは、学園に仕えている召使いだ。自分が頷くと、扉を開ける。
「ご交流を深めている中失礼致します。急いでコル・トレイス様とコル・ミレイヌ様をマキア様の自室までお呼びせよ、との事でして……」
その言葉に俺とフィナが立ち上がる。ラストは一旦お預けだ。
「私はトレイス様を探してきますわ。ミレー」
「お供します」
お辞儀をするミレーちゃんに対して、フィナも命令する。
「では私はクラウスの名にかけてミレイヌさんを護衛しましょう。ミルヤ」
「は。どこまでも」
普通ならばこんな事にはならない。だが、嫌な予感がしたのだ。
(入学してから数ヶ月、そろそろ何かイベントが起きる……だが、なんだ?このざわつき……)
そう思いながら、俺はミレーちゃんを連れて急いで外に出た。
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「ありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ。助けになれば幸いです」
剣道を女の子達に教え終わって、ぺこりとする。
「あ、あの……今度お茶会でも……」
「是非。機会がありましたら」
女の子の一人が提案する。やはりゲームならばこの中の女の子がキーになる子が居そうだが……。
(寧ろ、この子達をキーにしていたのは陽の立場だったのかしら……。だとしたらただのサブイベントね)
そう思った時、走ってくる音が聞こえた。
「トレイスさん!」
それはミレイヌを任せたはずの陽……リーシュだった。ミレーさんも横にいる。
「どうかしましたか?」
「マキア様……担任からの連絡です。直ぐに二人をマキア様の自室まで集めよ、と」
「……分かりました。すみません、お茶会の話はまた今度」
そう言って私もリーシュと共に走る。
「ミレイヌは?」
「フィナさんが護衛していますわ」
「そうか、なら良かったです」
しかし、思うところがあったのだろう。リーシュも顔色が良くない。
「……リーシュ、いや……」
「……ミレーちゃんにはバレているので」
それを聞くと、ミレーちゃんもこくりと頷く。
「……分かった。リーシュさん、『小松里 陽』としての見解を聞きたい」
「……分かりました。
まず、時期的に何か起こる時期だとは思いました。なので、剣術の事もサブイベント、もしくはフラグだと思います。
ですが、おかしいと思ったのです」
「おかしい?」
私が走りながら疑問を呈すと、ミレーさんも考えている様子だった。そこにリーシュが振る。
「ミレーちゃん、例えば私の……リーシュの誕生日の日になんの前触れもなく、私が倒れる事ってどう思う?」
「そ、それは!召使い達の失態もありますが……前触れが無いなんて、異常です」
「そう。異常なの。恐らくだけれど、本来は今日ミレイヌさんとトレイスさんがマキア様に呼ばれる事は無かったと思う。その理由は伏せさせてもらうけれど。
だから、本来ならば起きえない『異常事態』が起きたと考えるのが妥当よ」
つまり、今日ミレイヌは友達と親睦を深めるフラグ、私は剣術を教えるフラグが立っていた。
しかし、それを割ってまで入るフラグ……ゲームでは『バグ』と称されるレベルのフラグが入った可能性が高い。彼は、そう言っているのだ。
マキア様の自室は学園の中だ。ミレイヌと共に駆け込み、フィナさんとリーシュは外で待機してもらった。
マキア先生は、泣いていた。
「先生……?」
ミレイヌが声をかけると、先生はグッと涙を堪えて座りなさい、と震えた声で言う。
(……先生が泣く?アドミナに関わる事かしら。私達が退学になるとか?)
そう思っていると、先生は口を開いた。
「……すまない。本当に。私達の家の領地でありながら……」
「先生、何があったんですか?」
あの先生が泣くのだ。確実に『異常事態』と見るべきだろう。
「……コル家、あなた方の家は真人と聖女を産んだ家として、王家、アドミナ家が私財を打って保護していた。保護していたのだ……。
……簡単に言う。……君たちの両親が、死んだ」
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