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カレーは飲み物ではありません

翌日の朝。俺はミレーちゃんの優しい声で起きた。


「お嬢様、朝ですよ。リーシュ様……」


何ともふんわりとした声。姉がいたらこんな感じだったのだろうか。

と考えているうちに身体が起き上がる。反射反応である。


「ん……おはよう、ミレー」

「おはようございます、リーシュ様。お着替えはベッド横の机に用意してあります」

「ありがとう……。顔を洗ってくるわね」


俺は寝ぼけ眼を掻きながら水道まで向かう。蛇口を捻ると、適温の水が流れてくる。

顔をパシャパシャと洗ってスッキリさせると、今度は着替えに向かう。

着替えは自分でやることにしている。理由は1つ。元男性が女性に手伝ってもらうのが恥ずかしいというプライドである。


「それでは、食堂に……あぁ、その前にミレイヌさんを迎えに行きましょう」

「承知しました」


起きてはいると思うが、一応念の為に。彼女が虐められる事は俺が阻止しなければいけない。そのためのトレイスとの約束だ。

コンコン、と彼女の扉をノックする。


「は、はい!どなた……ですか?」


凄く元気な声だ。俺は控えめの声で届ける。


「リーシュです。起きているかの確認をしに来たのですが……。どうやら心配はなかったようですね」

「あ、あわわわわ!すみません!準備遅くて!すみません!!」

「い、いえ。私が起きているかを確認しにきただけなので……ゆっくりお着替えしてくださ……」


い、と言おうとするとドドド、と扉まで走ってくる足音が聞こえたので後ろに退避する。

数秒後。ガチャりと開かれた扉の奥には息を切らしたミレイヌがいた。


「あ、明日からは大丈夫そうですね……」

「おぐれでごめんなざい!」


泣きそうな彼女をよしよし、と宥める。


「怒ってなどいませんよ。寧ろ、朝から他人の部屋に押しかける私が叱られるべきです」

「そ、そんなことはないです!リーシュさんは、私を心配してくれてやってきたから……!」


そのやり取りに後ろでミレーちゃんがクスリと笑った。


「御二方とも、お互いを心配しての事だったのですからそこまでにしては如何ですか?それよりも、食堂のメニューが出ていましたよ。

夏野菜の煮込みものと肉料理、パンらしいです。

……特に、あの夏野菜の煮込みものはオススメですよ」


ほほう、夏野菜の煮込みもの。それもミレーちゃんがオススメするほどの。


「じゃあ行きましょうか」

「は、はい!」



食堂に行くと、フィナが既に待機していた。しかしそれ以上に気になるのは、匂いだ。


「おはようございます、リーシュさん」

「おはようございますフィナさん。……この匂いは、まさか……」


このスパイスの効いた香り、夏野菜の煮込みものと名前を変えているが間違いない。


カレーだ。


「はい、夏野菜の煮込みものですね。ただこの煮込みもの、ピリッとしていて美味しいのですよね……」

「す、すごく……お腹がすきました……」


ギュルル、とお腹を鳴らすミレイヌに微笑みかけると、ミレーちゃんに視線を向ける。同時にフィナも視線をミルヤさんに向けた。


「今お持ちしますね」

「ミレイヌ様のは大盛りにしておきますので」


俺とフィナのメイドは腹の限界を二人は理解している。

が、ミレイヌは別だ。ミレイヌは食事すらロクにとれていないような家庭。食べられるだけ食べた方が良い。


そう思っていると、周りからザワザワとした声が聞こえる。


「匂いがきついですわ……」

「この香りを付けたまま学園へ……?」

「あの料理、服に付けたら落ちなさそうですわ」


周りがヒソヒソ言う中、ミレイヌが聞いてくる。


「そ、その……こんな美味しそうなのに皆さん否定的なんですか……?」

「色々考えることが多いことも人がいる、ということですわ。ね、フィナさん」

「ええ〜。あんなに美味しいのに、食べないと損ですわ!」


そうこう言っているうちに料理が運ばれてくる。


(紛うことなき……カレー!)


そのスパイスは腹を空かせる魔法の如く。俺は早々にパンを見て理解する。


(これは……ナン!)


となれば、ナンを付けながら食べるのが正攻法。

パクリ、むしゃむしゃ。美味い……。


「お、おいひい……!」


ミレイヌがとても美味しそうに食べている。ウットリしながら、次々と腹にカレーが入っていく。


(……相当お腹空いてたんだろうなあ)


その後、学園に行く時に合流したトレイスは言った。


「ミレイヌ、よく食べたかい?カレ……夏野菜の煮込みもの」

「お兄ちゃん!すごく美味しかった!!」


ウンウンと頷いた後にトレイスさんにちょいちょい、と手招きされる。


「あれ、煮込みものって言っていたけど……」

「どう見てもカレー……ですね。そしてあれは……」


「「ナン」」


二人してハモったのをフィナとミレイヌが首傾げながらも、微笑ましく見ていた。

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