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不穏因子

寮に戻ると、ミレーちゃんが待機していた。


「おかえりなさいませ、リーシュお嬢様。鞄、お持ちします」

「ありがとう、ミレー」


重くないのだが、ここで断るのは失礼にあたる気がした。だからミレーちゃんに寮の部屋まで運んでもらう。

俺の部屋は、寮か?と思うほど豪華だ。無論エドモンズ家の自室とは比べられないが、日本ならテレビでよく見る外国の最高級ホテルと肩を並べるレベルだ。

風呂も自室完備。ミレーちゃんが今スイッチを押してくれた。


「そういえばミレー、聞きたいことがあるのだけれど」

「なんでしょう?お嬢様」


座ってミレーに問いかけると、ミレーちゃんは風呂の準備を終わらせて横に待機していた。


「名門四大貴族の中でもエドモンズ家って、武力が強いでしょう?どこで、どういうように振るっているのかを知りたくて」


ここが戦争真っ只中の国には見えない。リックもスーリャも戦いの中に身を置いているようには見えなかった。


「少し長くなりますが、よろしいですか?」

「勿論!そうしたらベッドに移りましょう?ミレーも座った方がいいわ」


そう言って立ち上がって、手を引く。あぁ、柔らかい手……。

そんなことを考えながらベッドに座らせると、ミレーちゃんが話し出した。


「エドモンズ家の武力。それは王家を守ると共に、犯罪の鎮圧に使われているのですよ。例えば……」


━━━━━━━━━━

エドモンズ領。西方。


「守護部隊は前進!敵は消耗している!しかし油断するなよ!追い詰められた獅子は何をするか分からんぞ!」


指揮官の命令によって、盾を持った部隊が前進。それによって相対する敵はジリジリと後ろに下がる。


「右翼、左翼部隊!出番だ!」


後ろに下がったところから、軽業のように双剣を扱う者たちと魔術師が敵を掃討していく。

それは、戦闘と呼べるものではなかった。

人間が蟻を踏み潰すような、蹂躙。


「……制圧完了。全軍通達。帰投する」


そうして遺されたのは、王家に反乱しようとした旗印。

二重螺旋のマークが入れられた、コーラス家のマークだった。



「そうか、コーラス家の……」


リックは指揮官の報告を部屋で聞いていた。


「はい。ですがいつも通りといいますか……杜撰な装備に、戦闘の意思がない者たちを集めたかのような兵力。何がしたいのか、まるでわかりません」

「……今はコーラス家の旗印を写したものを利用した者たちがいると言われたらそれまでだからな」


リックは苦虫を噛み潰したような顔で部下に言う。


二重螺旋の旗印、コーラス家の家紋とは言え勝手に使われただけです、と言われれば追求が出来ない。今王家に忠誠を誓っているだけに、余計タチが悪いと思っている。


そこにコンコン、とノックがある。指揮官が部屋の端まで下がる。


「スーリャです」

「入ってくれ」


扉が開くと、そこにはスーリャが書類を数枚持っていた。


「今回の西方の件、調べました。

統治は特に問題なく行われ、誰かが不正に税金を釣り上げていた形跡や苦しめた痕跡は見つかりませんでした。

ただ、突如として武器の輸入がありました。それと同時に今回の反乱が起きた……という形です」

「感謝する、スーリャ。……ふむ、確かに統治に問題はないようだ。となると、反乱を起こした原因だが……」


その疑問に、指揮官が一礼する。リックとスーリャは頷く。


「発言の許可、ありがとうございます。……実は戦っている兵士から、奇妙な報告が」

「奇妙?」


二人して首を傾げると、指揮官が説明する。


「はい。聞けば今回の西方の領地は戦い方を知らない農民の領地。なので武器を振るう手も慣れていなかったのですが……。最後まで、『王家の為に』と叫びながら戦ったそうです」

「……王家の、ために?」


考えるリックとスーリャ。そして先に、魔術師であるスーリャが結論を出す。


「……精神支配の可能性があるわ」

「精神支配……!?だが、あれは魔法として……」

「そう、確立されていないはず。……だけれど、コーラス家が秘匿する形でそれを完成させていたら……。何にせよ、その情報、大いに役に立ったわ」


そう言うと、一礼して指揮官はまた下がる。


「……早めに何か手を打つか」

「ええ、そうしないと取り返しのつかない事になる気がするの……」


二人は、指揮官と共に晴天の中の一つの雲を見つけて見つめていた。


━━━━━━━━━━

「……というように、普段は領地の維持や反乱因子の消去に使われているのですよ」


なるほど。反乱因子か。


「やっぱり統治に不満な人もいるのね」

「そうですね……。完璧な統治とされているクラウス家の領地でさえ犯罪が起きるのは、それの証左かと」


難しいな。リックとスーリャが普段から難しい事について考えているのだけわかった。


「お嬢様。お風呂がわきましたよ」

「ありがとう!入るわね」


そう言ってベッドから立つと、ミレーちゃんから衝撃的な一言。


「お供致します」

「へ?」


見ると、ミレーちゃんも脱ぎ始めている。


「メイドとして、お嬢様の身体の隅から隅まで綺麗にしますね」


そう言われてしまったら、俺は赤面するしかない。

ただひとつ分かることがあった。


(これが……卒業まで続くんだ……!)


ラッキースケベの特典なのかもしれない。悪役令嬢ならここで石鹸を投げるストーリーだったのかもしれないが。

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