祖母から孫へ。母から娘へ。
以前投稿した短編【後日談プリシアのその後追加】全て今更ですわをベースにした作品となっておりますが別のお話として読んでいただければと思います。
短編ではR15設定しておりませんでしたのでご注意ください。こちらはR15です。
設定などふんわり、ちゃっかりしてます。ご都合主義です。ご容赦を。
優しい目で見ていただけると嬉しいです。
クリスティーナはアメリアを自由にさせようとしていたが、アメリアの様子は思った以上に無機質で、自由とは、子供らしさとは何かと考え込む日々が続いた。
「アメリア、おばあ様と薬草園でお茶にしましょう」
「お母様、私は王太子妃教育を受けなければなりません。無能な私は休む訳にはいかないのです。能力を差し出さなければいけないのに、まだ能力も使いこなせません」
「アメリア。あなたは無能ではありませんよ。王太子妃教育では学べない事をここでは沢山学べますよ」
クリスティーナはアメリアの手を引いて薬草園までゆっくりと歩きながら、笑わなくなってしまった娘に花を摘んで髪に挿してあげた。
「アメリア、クリスティーナ。いらっしゃい。さあ、座って。今日はローズティーを用意したのよ」
テーブルには可愛らしいお菓子も沢山用意されていた。母も思う事が有るのだろう。
「アメリア、私の作るローズティーはね、その人によって味が変わるのよ。面白いでしょう? アメリアはどんな味がするかしら?」
「…………」
「どうしたの? アメリア、あまり好きじゃなかったの?」
クリスティーナが何も言わないアメリアに心配そうに聞いた。
「何の味もしないのです。お色はとても綺麗なピンクですのに」
ロヴィーナはローズジャムをたっぷりとアメリアのローズティーに入れて微笑みながらもう一度飲むように勧めた。
「おばあ様、これはとても苦くて、それに舌がビリビリと痛いです」
ロヴィーナがクリスティーナを見つめた。
「私は、甘さと苦さを感じます」
「そう。二人にはそう感じるのね。このお茶は主に飲んだ人が心の奥で感じている事が味によって表れるの。お茶でそんな事が分かるなんて不思議でしょ」
「ローズジャムを入れる前は何の味もしませんでした。私の心は何も感じていないという事でしょうか?」
アメリアがティーカップの中身を見つめながら疑問を口にした。
「アメリアは感じる事を止めているのでしょうね。ローズジャムはより作用を強めてくれるのよ。今のあなたにとってそのローズティーはとても苦くてとても痛い紅茶なのだわ。そう…」
ロヴィーナは暫く考えてからアメリアに優しく問いかけた。
「アメリアは今までどんな時間が好きだったのかしら?」
「ラインハルト殿下と一緒の歴史の授業、刺繍の時間、殿下とのお茶の時間です」
「では、殿下と会う前はどうだったかしら?」
「殿下と会う前…?」
アメリアは考え込んで何も言わなくなってしまった。ロヴィーナもクリスティーナも考えてる事は同じだったに違いない。
アメリアは祖父のヴィクトルとこの領地でクタクタになるまで遊ぶほどにお転婆で好奇心が旺盛な女の子だったのだ。王太子殿下と婚約する迄は。
「昼食後に刺繍をしましょうね。殿下のプレゼント用にハンカチに刺繍をしましょうか」
僅かにアメリアの表情が柔らかくなった。
◇◇◇
「ルーカス、ペテリウス辺境伯領への視察の件はどのようになっている?」
「現在、ライネン宰相が視察内容を精査し日程と護衛を調整しております。マルヴァレフト侯爵令嬢にお手紙を出されてはいかがですか?」
「ああ、そうする。アメリアは…僕はアメリアの好きな花も知らないなんて」
「これから知っていけばいいじゃないですか」
「それから…王妃殿下のご機嫌も何とかせねば」
ライネン宰相は、ラインハルト王太子殿下のペテリウス辺境伯領の結界及び魔獣討伐時の兵站、衛生について学びたいとのご要望を手直しをして、魔獣討伐時の統率、討伐訓練及び王太子妃殿下の教育に変更した。これでアードルフもラインハルト王太子殿下の護衛として魔術師団と共にペテリウス辺境伯領に行けるだろう。
アードルフは全魔導師団の統括なのだが、何故か存在感が無い。気付いたらそうなっていた。その為、宰相の私と話していても誰も気にも留めないのだ。
直接話をすると、皆、マルヴァレフト侯爵であり魔導師団統括であると認識する。魔力量にも関係しているらしい。
これも6年前の事が原因ではないかと調べている。
◇◇◇
昼食後に自室として使っている部屋でおばあ様との刺繍の準備をしていると、ふわっと目の前が光ってラインハルト王太子殿下からお手紙とお花が届いた。
『アメリア、元気に過ごしているだろうか? アメリアに似合いそうな花を贈る。今度アメリアの好きな花を教えて欲しい。間もなく視察でそちらに行けるだろう。アメリアに会えるのをとても楽しみにしている。ラインハルト・リルデル』
淡いピンクのバラは最初の手紙を貰った時と同じ物だ。
『私は元気に過ごしております。この度は多大なるご迷惑をお掛けして申し訳ございません。綺麗なお花をありがとうございます。私の好きなお花はラインハルト王太子殿下のくれるお花です。アメリア・マルヴァレフト』
アメリアはラインハルト王太子殿下へ返事を送ると祖母のロヴィーナの所へ足取りも軽く向かう。
「あら、アメリア。何かいい事があったのかしら?」
孫のアメリアが殿下への刺繍の話をした時よりも柔らかい表情をしている。
「ラインハルト王太子殿下からお手紙とお花が届いたのです」そう言ってアメリアは淡いピンクのバラを差し出した。
「まあまあ、殿下はとてもお優しい方なのね。お礼に刺繍の図案を考えましょうね」
「はい。おばあ様」
アメリアは大事そうに花を握っていたので、ロヴィーナは萎れてしまわないように長持ちする魔法をかけてあげた。
「ご加護がある簡単な刺繍を教えてあげましょうね。ヴィクトルの物には色々ご加護の刺繍をしてあるのよ」
「ご加護?」
「お相手の為を想って、無事を願って心を込めてその文様の刺繍をするとね、お相手の事を守って下さるご加護になるのよ。そうね、無難に回復と防御を合わせた物がいいかしらね」
「お色は何でもいいのでしょうか?」
「好きな色を使っていいのよ。アメリアは何色にしたいの?」
「殿下の瞳のような草原のように爽やかで鮮やかなグリーンを使いたいです」
「とっても素敵ね。あなたの綺麗なライトブルーの瞳の色も使って、殿下のお名前は金糸でいれましょうか。二人とも色は違えど金髪ですからね。今から出来上がりが楽しみね」
ロヴィーナは刺繍をする為にアメリアの手を握りサロンを出て薬草園へ向かう。サロンよりも薬草園の温室の方が多くの草花で癒されると思っての事だ。側で2人を見ていたクリスティーナも加わりアメリアの残された手を握るとアメリアが少し困ったような顔をして言った。
「私はラインハルト王太子殿下の為にきちんと習得いたします。逃げたり致しません」
クリスティーナは機械的な娘の言葉に驚きつつも平静を装い優しくアメリアに言葉をかけた。
「私もロヴィーナおばあ様もあなたの事が可愛くて大切でとても愛おしいから手を握るのよ。あなたへの愛が温もりとなって手から伝わるように」
ロヴィーナも微笑みながらアメリアに分かりやすいように伝える。
「手を繋いだり抱き締めたりキスをしたりするのは全て愛おしく思ってるからよ。私はねヴィクトルに刺繍をしたり薬を作るのはヴィクトルを愛していてずっと健康で一緒にいたいからなのよ。アメリアはさっき好きな時間を教えてくれたわね。その時間がどうして好きなのかしら?」
アメリアは母と祖母の話を聞きながら自分が好きな時間の理由について考えを巡らせていた。
◇◇◇
ラインハルト王太子殿下はセシリア王妃殿下の部屋へお茶を飲みに来るよう呼ばれていた。
「王妃殿下お招きありがとうございます」
「お座りなさい」
セシリア王妃殿下が軽く手を上げると侍女達がお茶とお茶菓子の支度をし速やかに退出した。
「ラインハルト。あなたは王太子なのよ。ペテリウス領へ行くなど女の尻を追いかけてどうするのです」
「母上。アメリアを追いかけて行く訳ではありません。ペテリウス辺境伯の魔物討伐の際の統率、討伐は近衛魔術師団の訓練にも採り入れられるほどです。私はこれから上に立つ者として今から訓練して早すぎる事は無いと思慮しています。それに母上の選んで下さった講師達の授業についていく事が出来なかった婚約者に鞭を振るうのも私の役目かと」
「あら、それはいいこと。よく手懐けていう事を聞かせなさい。王太子妃教育を途中で放り出すなど言語道断」
「母上、もちろんです。その為の講師も数名連れて行く事をお許しください。私の隣に立つアメリアには厳しい躾が必要でしょうから」
「あなたはアメリアに優しすぎると思っていましたけれど何か心変わりがあったのかしら」
セシリアはラインハルトの心変わりを嬉しく思う反面、あまりにも急な態度の変化を訝しんだ。
「はいその通りです母上。私は優しくしすぎたのです。それは残念ながら家の都合や体調不良で辞めていった講師達が母上の想いを私に教えてくれ、また宰相補佐のルーカスにも諭されました。能力者は国の為に国民の為にその力を使う使命があると。私もアメリアもまるで分っておりませんでした。稚拙な考えで母上を煩わせてしまったのが恥ずかしいです」
「ラインハルト。理解できたのであればよろしいのです。全ては国の為、国民の為です。その為に神から与えられた能力なのですから。講師の手配は済んでいるのですか?」
「はい。以前の講師達よりも遥かにいい講師達です。アメリアの性根を叩き直してきましょう。もちろん私自身、ペテリウス領への視察で見聞を広げ訓練も励みます」
「ラインハルト。良い心掛けです。素晴らしい報告を期待しておりますよ」
ラインハルトが退出した後、セシリアは毒蛇の様な笑みを浮かべていた。
『あの講師達も役に立ったじゃない。我が息子はやはり優秀ね。能力者の使い道にすぐ気付いてくれて。ライネン宰相は自身の息子と意見が合わないようね。なんて丁度いい。ルーカスといったかしら? 褒美を取らせたいくらいだわ』
ラインハルトは苦虫を噛み潰したような顔をしながら廊下を歩いていた。全ては先ほどの王妃殿下の呼び出しのせいである。
「いいですか殿下。どうか王妃殿下の考えに賛同しているふりをなさって下さい。嫌でも顔に出さずにアメリア様を王妃殿下の様に扱う様に伝えるのです。そして王妃殿下とお呼びするのではなく母上とお呼びになって下さい」
ルーカスは一番の障害である王妃殿下のアメリアに対する敵意を削ぐ為に必要な事ですと譲らず、ラインハルトもそんな事は言いたくも無かったがアメリアの為に自分を偽り母上が正しいとアピールをしたのだった。
ラインハルトはライネン宰相の執務室に寄り、ライネン宰相とルーカスに王妃殿下との話の内容を伝え視察の日程を確認した。
「連れていく講師達に私の妻のリズベットが入ってるなど思いもしないだろうな。3日後にはペテリウス領へ行けますよ殿下」
そう言ってライネン宰相はニヤリと笑った。
マルヴァレフト侯爵も魔術師団統括として視察のメンバーの絞り込みは終わっており、一刻も早くペテリウス領へ行くために物凄い速さで仕事を捌いていた。
転移魔法が使えるので往復は容易いのだが、真面目さ故である。
◇◇◇
「アメリア、この文様は防御でこちらが回復の文様になるのよ。これを重ねるように刺繍してもいいし、それぞれ別々の所へ刺繍してもいいのよ。例えば重ねるとこんな感じになるわね」
ロヴィーナがかなり分厚い図案帳から重ねた図案をアメリアに見せた。
「おばあ様、私はこの重ねた図案で作ってみたいです」
「ええ、ええ。そうしましょう」
クリスティーナがアメリアの頭を撫でながら話し出した。能力の制御の練習に刺繍はとても合っていると言ってよい。
「アメリア。あなたは能力者だから私がその使い方、力の制御の仕方を教えてあげましょうね。時が来れば何故か使い方が自然に分るものなのだけれど今から知っていてもいいと思うの」
「私が能力を使えるようになるのですか?」
「もちろんよ。今ロヴィーナおばあ様から二つの文様を見せてもらったでしょ。まずは防御の方から刺繍をしていきましょう。その時に一針一針この文様から力が出て殿下をすっぽり囲う大きな膜、そうねアメリアの髪色のような金色の丸い球体が殿下を覆っていて悪い物は全て跳ね返すイメージを膨らませるのよ。簡単そうだけど集中力が途切れると他の事を考えてしまうから。他の事を考えてしまった時は一旦手を止めて休んでからまた集中するの。少しずつやってみましょう」
「はい。お母様」
ロヴィーナとクリスティーナは優しくアメリアの刺繍を見守りつつ自分達も刺繍を始めた。
最後までお読みいただきありがとうございました(*'ω'*)
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よろしくお願いいたします(*- -)(*_ _)ペコリ