能力の目覚めと王太子との婚約
以前投稿した短編【後日談プリシアのその後追加】全て今更ですわをベースにした作品となっておりますが別のお話として読んでいただければと思います。
短編ではR15設定しておりませんでしたのでご注意ください。こちらはR15です。
設定などふんわり、ちゃっかりしてます。ご都合主義です。ご容赦を。
優しい目で見ていただけると嬉しいです。
「お父様、お帰りなさい」
「ああ、アメリアただいま」
お父様は何だか酷く疲れてる様子で、帰宅してから直ぐにお母様と難しい顔をして話をしていた。
どうやら私に婚約の打診が有ったらしく、両親の表情からするとこの婚約がいい話ではないのだと察した。
婚約の打診が来たのは、先日、王宮で催された、王妃殿下のお茶会が原因である事は間違いないだろう。
お茶会当日、子供達で庭園を散策していた時に、不意に私が能力に目覚めてしまったのだ。
辺りを金色に染め、庭園の花々は生い茂り、お茶会の参加者や、王宮に出仕、参内している者まで病めるものはは健康に、健やかなるものは多幸感に包まれてしまったのだ。
その後、教会で私の能力について調べられた。私達は生まれながらにして魔力を持っており、成長と共に魔術を習得していく。他国では魔法と呼ぶ国もある。もちろん魔法が無い国も存在する。
能力とは、魔術と別物であり、この国では『能力持ち』『能力者』と呼ばれているが諸外国では色々呼び名が違う。
教会には、能力を調べる為の聖遺物が置かれている。ただの石にしか見えないそれは、神々がこの世に人と共に住んでいた時の物だと言い伝えられている。
教会はその聖遺物を、神官立ち合いの元であれば、誰にでも能力を調べられる様にしていた。
私の様に能力がはっきりと現れた場合、能力者ではないかと連れてこられる場合、自ら来る場合等で能力を調べに来る人達は割と多いと聞く。
そして教会は、私を母親と同じ『豊穣と結界、治療が出来る能力者である』と結論を出した。
しかも母親を上回る強大な能力だと言うのだ。
教会が聖遺物への門戸を開いているのは、最近、国が能力者を広く探している為だ。能力者と分かれば、王家に連なる者と婚姻を結ばせ、国の為に働かせたいとの思惑を最早隠してもいない。
ただ、何故かそれが上手く行くことは無く、能力者が王家に嫁いだ事は、陛下が即位してからは無い。
その考えに思うところのあった父は、直ぐに義父のペテリウス辺境伯へ連絡を入れ、私をいかに保護するかを相談していた。
母が王家に嫁いでいないのは、能力の開花がかなり遅かった為と言えるだろう。今回は王家も是が非でも手に入れたいと思っているのではないだろうか?
両親も祖父母も私を王家に嫁がせたくは無かったのは言うまでもない。
しかし、当たり前だが王家はそれよりも行動が迅速だった。
お茶会から5日後には、婚約の申し込みが来たのだ。しかも、ドレスや靴と共に。打診ではない時点で侯爵家に断れるはずは無かった。
翌日には、私は贈られた爽やかなグリーンのドレスに身を包み、両親に連れられ参内した。
「リクハルド陛下、セシリア王妃殿下、ラインハルト王太子殿下に、ご挨拶申し上げます」
「堅苦しい事はよい。今日は我が息子であるラインハルトとアメリアの婚約を正式に決定したいと思ってな」
「陛下、誠にありがたき幸せにございます。しかしながら、アメリアはまだ6歳にございます。ライハルト殿下を支えるには、まだまだ幼すぎます」
「ラインハルトも同じく6歳である。共に切磋琢磨し、支え合い、成長していけば良いではないか」
「さようでございますか。アメリアの能力で婚約をお決めになられた訳では無いという事ですね」
「アメリアの能力は稀有で素晴らしいが、それを理由に決めた訳ではない。アメリアは6歳にして学業も優秀だと聞いておる。魔術も期待できるであろう。それにマルヴァレフト侯爵家は、どの貴族とも何のしがらみも無いではないか」
そう言って陛下は満足そうに笑った。その笑い声がアメリアの父であるのアードルフ・マルヴァレフト侯爵には白々しく聞こえた。
「アメリアを国力の為に望まれるのであれば、この縁談、ご辞退させていただくつもりでございました。ラインハルト殿下。将来、娘の力を使わずとも、何卒国と国民を守り豊かにするとお約束してください。そして必ず娘を守り味方でいるとお約束してください」
「マルヴァレフト侯爵は何と親バカなことか。ハッハッハッ。まあよろしい。ラインハルト返事をしなさい」
「その通りに、精進する」
◇
邸に戻ると、ラインハルト殿下からお花と手紙が届いた。
『お茶会の日、庭園を歩いていた時、君ともっと話をしたいと思った。そして君の金色に包まれた時、何故だか君を守りたいと思った。ラインハルト・リルデル』
私は何だか嬉しくなって、直ぐに返事を書いた。
『庭園でラインハルト殿下と歩いた時間はとても楽しく、私ももっとお話をしたいと思っておりました。その思いが叶い、本日お話しできた事を嬉しく思いました。素敵なお花をありがとうございます。アメリア・マルヴァレフト』
それは幼い2人の初めての手紙だった。
夕食後、お父様とお母様は遅くまでお話をされていた。
私の王太子妃教育が始まったのは、その3日後からだった。居所を移すようにとの事だったが、父親が断りを入れた。
王太子教育は多岐に及んだ。
厳しいマナー講師と語学講師は、間違える度に手や腕、足を鞭で酷く打ち据えた。幼く柔らかい皮膚は無残に裂け血だらけになると、自分で傷を治療し、魔術を使い綺麗にするよう指導された。
勝手に治療をすると、更に激しく鞭を打たれるので、痛くても我慢しなくてはならない。
他の授業で体罰を受ける事は無かったが、どの授業も後半になると、国の為に王太子の為に能力を使う事は、王太子妃として当然の義務であると悉く言われ続けた。そして頭がおかしいと責め立てられ、能力を使う事以外は出来損ないの無能と罵倒され続けた
心の拠り所となったのは、ラインハルト殿下と一緒の自国と諸外国の歴史の授業、穏やかな刺繍の時間、優しい殿下とのお茶の時間だった。
「アメリア、最近元気が無い様に見える。授業は順調だと聞いているが、やはりまだ始まったばかりで慣れない事が多いのだろうか」
「お心遣い、感謝いたします。こちらは、ラインハルト殿下の為に、刺繍しておりましたハンカチが、出来上がりましたの。お受け取りくださいますか?」
「アメリアから僕に? ありがとう。額に入れて大事にする」
「ハンカチですので、使っていただきたいですわ」
アメリアはここ1週間程度で感情が削げ落ちてしまって、笑顔さえ見せなくなってしまった。王太子妃教育がそんなに厳しいのだろうか。
◇
最近、宰相であるエリアス・ライネン公爵は自分の補佐として息子のルーカス公子を連れて出仕している。
かなり優秀である為、早々に、仕事を覚えさせ将来の宰相に育てるつもりなのだろう。
そのルーカス公子が授業中に書類を持って入ってきた。
「突然の訪問、申し訳ございません。急ぎの案件につき、王太子殿下の確認を取るようにとライネン宰相から仰せつかっております」
「僕に?」
「はい。機密ゆえ講師殿はご遠慮ください」
書類には、ライネン宰相の字では無く、おそらくルーカス公子の字で、『マルヴァレフト侯爵令嬢の授業の様子を、今すぐに確認しに行くべきです』と書かれていた。
婚約者に会いたいが為に、授業を放り出すような真似はと、ルーカス公子の顔を睨み見たが、その顔は険しい顔でどこか緊迫しているようにも感じた。
しかも、この授業中にわざわざ来ることも確認と言う言葉も異様に感じた。
「わかった。すぐに確認しよう。――すまないが仕事が入ったので残りの部分は課題としてくれ」
廊下に出て暫く歩いてからどういう事かと尋ねると、「ご確認された方が早いと思われます」と返されてしまった。
◇
「貴様! アメリアに何をしている! すぐに回復魔術師と近衛魔術師を呼べ!」
アメリアの小さな手も細い腕も足も、鞭で酷く打たれて皮膚が裂け血まみれになっていた。
「アメリア? 痛いよね。今魔術師を呼んでいるから、直ぐに治してあげるから。気付かなくてごめんね。今までずっとこうだったの?」
「……はい。自分で治してもよろしいでしょうか? 今までは自分で治して汚れも綺麗にしてから、殿下にお会いするようにと言われておりました。お見苦しい物をお見せして申し訳ございません」
「何てことを…自分でそんな事をしなくてもいいんだよ。アメリアが謝る必要も無いんだよ。今、治してくれる人が来るからね」
直後、回復魔術師が到着し、驚愕の表情を浮かべながらアメリアを治療した。ルーカス公子が何やら警備に指示を出していた。
「アメリア、他にも同じように暴力を振るったり、酷い事をする講師はいるのだろうか? もう、こんな酷い事はさせないから教えて欲しい」
「語学の講師も鞭を使います。他の講師の方々は、私が頭がおかしく無能だからと、いつもお叱りになられます。私が悪いのです」
「アメリア、よく聞いて。アメリアは、頭がおかしくない。とても優秀なんだよ」
一体、王太子妃教育で何が起きてると言うのか。僕はルーカス公子に相談するしかなかった。
「ルーカス公子、君は何故アメリアの状況に気付けたんだ?」
「偶然です。ラインハルト殿下」
「アメリアが言うには、他の授業では、どうやら頭がおかしい、無能だと言われているようなんだ。しかし証拠が無い。それに王太子妃教育に関わる者達が何故こんなに悪意に塗れているのだろうか」
「誰かの思惑が働いているのかもしれませんね」
「証拠を掴みたい。僕はどうしたらいい? 僕は王太子と言うだけで、幼く何の力も持っていない。だけどアメリアを守ると誓ったんだ」
「大変辛い事だと承知しておりますが、この後に政務やダンス、語学の授業がございます。今まで通り受けてもらいましょう」
「そんな! もうアメリアを傷付けたくは無い! それにもう酷い事はさせないとアメリアに言ったばかりだ!」
「だからこそです。ラインハルト殿下。我々は証拠を掴みたい。そしてここは素直に信頼出来る大人を頼りましょう。ライネン宰相とマルヴァレフト侯爵に急ぎ連絡を入れます。二人とも出仕されていますからね」
「そうか、分かった。僕は、アメリアの気持ちが少しでも楽になるように話しをしてくる。今はこんな事しか出来ない…なんて情けない事か」
「ラインハルト殿下、十分でございますよ。後は臣下の役目です。全てが終わるまでは、事を荒立てずにお願いいたします」
ルーカス公子が出て行った後、侍女を呼び何か温かい飲み物を持ってくるように頼んだ。きっとアメリアは部屋を移動したいだろう。この部屋は辛い思いしか無いだろうから。
「アメリア、ホットミルクだよ。蜂蜜をたっぷり入れてあげるね」
「ラインハルト殿下、ありがとうございます」
「アメリアは刺繍がとても上手なんだね。貰ったハンカチを大切に使っているよ」
「ライハルト殿下の事を思い浮かべながら、刺繍をするのが、とても楽しいのです」
「そんな事を言ってくれるなんて、とても嬉しいな。そうだ、素敵なハンカチのお礼をしないとね。今度一緒に出掛けよう」
「それは、とても楽しみですわ」
「失礼いたします。ラインハルト殿下、時間でございます」
「ああ、わかった。……アメリア、この後も授業が続くけれど、無理はしないでね。アメリアは頭が良くて優秀なんだ。僕の言った事、覚えていてね。では、後で会おうね」
廊下に出て、隣の部屋に入るとライネン宰相とマルヴァレフト侯爵が座っていた。
「ライネン宰相、マルヴァレフト侯爵、どうかアメリアを助けて欲しい」
「ラインハルト殿下、まずは事実確認からですよ。マルヴァレフト侯爵は冷静でいてくださいよ。アメリア嬢へは痛覚を麻痺させる魔法だけをかけたのでね」
3人からすると、記録は簡単すぎる事なのだそうだ。既にルーカス公子が映像石を設置してきている。一体いつの間にと思わずにはいられない。
そして、同時にこの部屋でも映像石で授業の様子を見ていた。怒りに震える僕とマルヴァレフト侯爵を宰相親子が宥めていた。
「これは全く困った事になったな。さて、若い殿下と宰相補佐はどう出る?」
「僕は、アメリアをペテリウス辺境伯の所へ病気の療養という事で、数か月、或いは数年行かせるべきかと思う。僕が力を付けアメリアを守れるようになったら迎えに行く」
「確かにそれが最善ではありますが、王太子妃教育はどうするのです? さすがに数年は無理があります。数か月が限界でしょう。心の傷が癒える迄と言いたい所では有りますが。王太子妃教育もラインハルト殿下と別々に受ける必要は無いのではないでしょうか」
「女性特有のマナー教育、社交術はどうする?」
「そこは、母上にお願いしましょう。王妹ではありませんか…」
「今までの講師達をどうする? そして首謀者はどうする?」
「首謀者は憶測だが、陛下か王妃殿下、いや両陛下かもしれない。そうなると、証拠を突き付けたところで、首謀者の名前を出すとも思えない」
「殿下とはいえ、言葉には注意なされよ。反逆と取られかねません」宰相が窘めた。
「講師達には映像石を見せ、講師を辞職する事、二度と講師の職に付かない事に制約のサインを書かせましょう。破った場合の代償は恐ろしいものだと含ませて」
「ルーカス、どんな制約を掛けるつもりだ? 君に何か反動は起きないのか?」
「ラインハルト殿下、ご心配には及びません。そうですね、同じ鞭の痕が出てくるのは恐ろしいでしょうね。毎晩罵倒される夢を見るのも恐ろしい事でしょう」
「マルヴァレフト侯爵、殿下と宰相補佐の考えで良いかな?」
「ライネン宰相、問題ありません。王太子妃教育で心身共に疲れ、病に伏せってしまった為、義父の領地で静養すると陛下に伝えましょう」
「マルヴァレフト侯爵、アメリアが戻るまでに環境を整えておく。アメリアを傷付け申し訳なかった」
「ラインハルト殿下、娘の心の傷が直ぐに癒えるとは到底思えません。しかし、ラインハルト殿下の優しさに触れていれば、娘もきっと立ち直ってくれると、そう思っております。そして何より、娘の窮地を救ってくれた、ラインハルト王太子殿下、ライネン宰相、ライネン宰相補佐、心より感謝申し上げます」
授業が終わったアメリアを僕は抱きしめる事しか出来なかった。治療が終わったアメリアをマルヴァレフト侯爵が抱きかかえ連れて帰っていった。
その日の内に、アメリアを虐待していた講師達は、体調不良による為、実家に帰る為、出家するため等様々な理由により全員辞職した。
翌日、マルヴァレフト侯爵は、アメリアが心身共に疲弊し、病に倒れ伏せってしまい、早期に回復させる為にも気候の良いペテリウス辺境伯領で静養させる事を陛下にお伝えした。
最後までお読みいただきありがとうございました(*'ω'*)
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