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謁見と魔族襲来

天幕の中には国王夫妻と第3王子がいた。


「よく来た、シャーロット嬢!さあ、座りなさい!」

「ありがとうございます、陛下」


挨拶もそこそこに席に案内される。本当は定型文よろしくのご挨拶があるのに、陛下ったらもう聞き飽きたのだろうか。まあ、あれだけ多くの貴族と謁見していたらね……。シャーロットの後ろに控えるセバスチャンも苦笑いをしている。


「こう言った大人数のパーティは初めてであろう?」

「はい。領地では使用人すらいませんでしたから。人の多さに驚いてしまいました」

「はっはっは!シャーロット嬢は慣れなければいけない事が沢山あるな!して、空席になった公爵の席だが、今度の春の夜会で正式にシャーロット嬢を任命する事にした」

「随分と急ですね」

「うむ。先程バークマン侯爵と話していての。其方の父上が着服した貴族費の報告書と返済計画書を見て決めた。まだセバスチャン達を派遣する前に作られた報告書。つまり10歳の其方が作ったものじゃ。この才能を公爵にしない程、余も節穴ではないのでのぉ」


ああ、元OLの本領を発揮しすぎたか。まあ良いけど。あの領主館は気に入っているからね。


「こちらとしても伝説級のポーション『エリクサー』やポーションの素材となる薬草などの素材を定期的に仕入れられるなら願ったり叶ったりじゃ」

「まだ収入と言ってもそのくらいしか出来ません。冒険者としての収入は使用人の給料に充てることを考えると、国への返済はそれしか方法もありません」

「まあ、そうじゃろうな」

「素晴らしい子ですわ。こんなに可愛く賢い子を領地に封じていたなんて……」


王妃は目に涙を溜めて言う。王妃はバークマン侯爵の妹で、その懐の深さで国の福祉を一手に引き受けている。元々子供が大好きだと評判の王妃様だ。そりゃあ涙腺も緩むだろう。


「お話中失礼します。お嬢様……」

「ええ、分かってる。この気配は魔族ね」

「狙いはわかりませんが、この天幕を狙っての攻撃が多いです」

「なっ!魔族の襲撃か!?」


陛下は立ち上がった。


「失礼します!」


エイベルが入ってきた。


「陛下!襲撃です!相手は魔族!合計5体!シャーロット嬢のシャドーゴーレムが応戦中です!」

「シャーロット嬢……」

「エイベルさん達は陛下をお願いします。私が相手をしてきます」


シャーロットはそう言って天幕を出た。外は騒然としていた。上空には5体の魔人がいた。


『ひゃっはっはっは!全部防ぐとは、やるな!』

『だが、守るだけじゃあ俺達には勝てねーぜ!』

『そうそう!何たってアタイ達は魔族だかんね!』

『人間になんて負けるわけねーもんな!』

『おうよ!弱っちい人間共なんてちょちょいのちょいd』


魔人の1人の首が飛んだ。その直後、女の魔人の首も飛んだ。


『なっ!』


魔人達は何が起きたのか分からなくなっている。そして3体目の魔人の心臓が背中から貫かれた。


「背中がら空きよ」


冷たい、凍りつく様な声とともに剣が引き抜かれた。3体の魔人が地面に落ち、絶命していた。そしてその場にいる全員の視線の先には金色の大きな鳥型ゴーレムの背中に立つ少女の姿があった。手には血の滴る剣が握られている。


『なっ!ガキだと!?』

『こんなガキに3人もやられただと!?』


魔人は混乱している。そのせいで隙だらけだ。あっという間に4体目の魔人の胴体が真っ二つになる。


『クッソッ!』


魔人がシャーロットの背後に回る。すると、下から魔法が飛んできた。


【サンダーバインド】


魔人を電気の縄が捕らえ、麻痺の状態異常も出た。


『グッ!』


動きが鈍くなる。その間にシャーロットの剣が下から上に振り抜かれ、魔人は切り裂かれた。


「ふぅ」


血を振るい落とした剣を鞘にしまい、天幕の方を見る。陛下が出てきているがエイベル達がいるから問題ないだろう。すぐに地面に着地する。


「クリフ様!お怪我は?」

「問題ありません。助けていただいてありがとうございます」


クリフは頭を下げる。シャドーの触手が彼を守る様に控えていた。先程の支援魔法は彼のものだ。攻撃魔法はまだ難しいのだろうが、こう言う状態異常を狙った支援魔法は魔力制御が上手いクリフだからこそ得意な分野なのだろう。正直言ってありがたかった。


「むしろ的確な支援、ありがとうございます。助かりました」

「それは良かった!」


その言葉を聞いてシャドー達の触手が引っ込み、シャーロットの影から出てくる。


「お疲れ様」


シャーロットはシャドーに言って、陛下に向き直り最敬礼をする。陛下は片手を上げて返事をする。陛下もご無事の様で何よりだ。そして、もう一度クリフの方を見て微笑むとセバスチャンの元に向かった。


「お怪我はございませんか?」

「大丈夫よ。魔力が少なくはなってるけど」

「あれだけ大規模に結界を行使されていればむしろ納得かと」

「どうしても魔力の無駄が出るのよねぇ……」


シャドーゴーレムを介して魔法を使うとどうしても魔力のロスが出てしまうのだ。最初の時よりはロスも減った方なのだが、結界だけで1/3を消費していては使い勝手が悪い。並列起動は楽で良いが、良いことばかりではないな。


「ポーションをお使いになられますか?」

「そうね。飲んでおいた方が良いかしら」


セバスチャンの影から触手が伸びて小瓶が渡される。


「どうぞ」

「ありがとう」


魔力回復ポーションをグイッと飲む。自分で作っておいて何だが美味しくはない。まあ、薬なのだから仕方がないが。


「シャーロット嬢」


振り返ると、バークマン侯爵と黒髪の男性。まだ若い様に見える。


「バークマン侯爵」

「紹介します。テリー・フォン・バカラ男爵。バカラ領の領主です」

「初めまして。男爵位でバカラ領を任されていますテリー・フォン・バカラです」

「チェリッシュ公爵家、シャーロット・フォン・チェリッシュです」

「先程の闇魔法を見て、是非ともお話をと」

「素晴らしい魔力制御でした。シャドーゴーレムを天幕にいながら中庭全体に行き渡らせるその魔力量も、ゴーレムの制御力も素晴らしいものでした」

「ありがとうございます、バカラ男爵」


バカラ男爵はすごく嬉しそうだ。闇魔法を積極的に公の場で使うご令嬢は珍しいのだろう。


「うちの息子達を紹介させてください」


バカラ男爵はそう言って後ろから子供を3人呼び寄せる。


「うちの息子達です。左からノア、ノエル、ノーマンです」

「ノア・フォン・バカラです」

「ノエル・フォン・バカラです」

「ノーマン・フォン・バカラです」

「「「よろしくお願いします」」」

「三つ子ですか。よく似ていらっしゃいますね」

「ええ、母親でも間違える事が多くありますよ」

「男爵は……ああ、闇魔法使いだから間違えませんね」

「ええ、その辺は分かります」


闇魔法使いはその人の気配を察し、姿を見なくても誰だか理解する事が出来る。男爵夫人は闇魔法を使えないのだろう。


「10歳と言う事は学園に?」

「いえ。学園には闇魔法を教えることが出来る教師がおりませんので」

「でしょうね。この偏見を見る限り、そうなっているでしょう」

「そこでな、シャーロット嬢。彼らを貴女の護衛として引き受けてくれないか?」

「なるほど。私の所ならセバスチャンもいるし、良い刺激になるという事ですか」

「うむ。私から見てもシャーロット嬢の闇魔法は規格外だ。学園に通うよりは学びも多いだろう」

「そうすると『契約』を行う事になりますが……」

「もちろん、それも行って良い」


バカラ男爵の言葉にノア達もうなづく。


「ではノア、ノエル、ノーマン。私に付いて来るなら世話するわ。私の影として、護衛兼諜報員として、その力を発揮しなさい」

「「「この身が滅びるまで」」」


3人の瞳に光が宿った。闇魔法使い同士の『契約』は心からの宣誓で成立する。その証に瞳には主人の紋が刻まれるのだ。


「契約成立ね。早速私の影に控えていて。あとの事はセバスチャンに教えてもらって」

「「「御意のままに」」」


3人の姿は影に消えた。


「……気配がまるで分からないな」


侯爵は困った顔になる。


「私は影にシャドーゴーレムとシャドードールがいるので分かりますけど、それ以外で認識する方法はありませんからね。光魔法の使い手なら、修行次第で分かる様にはなりますけど」

「私は光魔法を使えるが分からない……」

「修行が特殊ですからね。……必要ならお教えしますよ?」

「確かに便利だな。頼めますか?」

「はい。と言っても、魔道具を使って気配を感知する様にして、後はその感覚を覚えるしかないのですけどね」


そう言って手元に影を作ると、シャドードールがアンクルを出す。


「ありがとう。……これが光魔法の【察知】を付与した魔道具です。これを着けていれば分かる様になります」


侯爵はアンクルを受け取り、手首に填める。そして目を丸くする。


「これは凄い。今まで分からなかった3人の気配も分かるし、シャドーゴーレムの気配も分かる!」

「この感覚を覚えるしか修行方法はないんです。私はシャドー達の気配が分かるから、その感覚を共有する内に分かる様になりましたけど」

「もう何でもありだな」

「魔道具なんてそんなものですよ」


こうして魔族が襲撃してくるというトラブルはあったものの、お披露目会は無事に終了した。

屋敷に戻ったシャーロットは、ドレスのままベッドに倒れ込んだ。それをシャドーゴーレムとシャドードールが着替えさせているのを、メイド長のアグネスは呆れて見ていた。ちなみに、着替えさせてもらっている間にシャーロットは完全に落ちていた。


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします

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