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お披露目会

2週間後、王城ではお披露目会が行われた。会場は王城の中庭。多くの貴族と子息、令嬢が集まっている。

シャーロットは公爵家の令嬢のため最後に入場となる。それまでは中庭の近くに馬車で待機する。馬車だけは屋敷に残っていたが、馬は1頭も残っていなかったためバークマン侯爵が2頭程貸してくださった。


「まさか馬までいないとは思っていなかったわね。公爵家の馬だし、高く売れたでしょうけど」


馬車の車窓から外を覗きながら言う。会話は難なくこなせる様になった。時々言葉が思いつかない時もあるが、それも時間が解決してくれるだろう、と医師が言っていた。


「公爵家ともなると仔馬の時から金をかけて育てさせますからね。毛艶や顔、筋肉に至るまで全てが最高級品です。小白金貨くらいにはなるのではないでしょうか。今後の事もありますので、業者に依頼して仔馬から育てていただきましょう」


向かいに座っていた執事が答える。彼は国王が派遣してくれた家令のセバスチャンだ。長い間、城仕えの執事長をしていた。定年で城を辞するにあたって、丁度良いと家令として派遣してくださった様だ。経験も豊富で、とても頼りになる人だ。屋敷には同じ様に城に仕えていたメイド長のアグネスも派遣されている。料理上手で彼女の作るスイーツは陛下もお気に入りだったのだとか。その他、若い執事が1人、若いメイドが5人がいる。これで王都の屋敷は問題ないだろう。


「皆様、中庭左手をご覧下さい。第1位公爵家、シャーロット・フォン・チェリッシュ様と家令セバスチャンの入場です」


馬車からセバスチャンが降り、手を差し出す。その手に頼り、シャーロットは馬車から降りる。貴族達からは『ほぉ……』というため息が漏れる。シャーロットは控えめに言っても美人な部類に入る。子息達が見蕩れるのもご令嬢達が嫉妬をむき出しにして睨んでくるのも納得出来る。

しかし大人達は影ではコソコソと耳打ちし合う。悲しいかな、闇魔法を極めていると陰口がしっかり聞こえてしまうのだ。やはり皆の間で『闇魔法使い』というのが気になる様だ。領地にいたから知らなかったが。闇魔法使いというのは差別と偏見の目で見られるらしい。こんなに便利なのにね。


「シャーロット嬢」


声をかけてくださったのはバークマン侯爵だ。側には奥様とご子息がいらっしゃる。


「お久しぶりです」

「2週間ぶりですね。紹介します。妻のシンディーと息子のクリフです」

「シンディー・フォン・バークマンです。シャーロット嬢、よろしくお願いしますね」

「バークマン侯爵の長男、クリフ・フォン・バークマンです。よろしくお願いします」


奥様は尖ったメガネをかけた、前世で言う教育ママの様な出立ち。クリフは私より少し小柄だが、可愛らしい顔立ちをしている。どちらかと言うと父親似か。


「お初にお目にかかります。チェリッシュ公爵家長女、シャーロット・フォン・チェリッシュです」


ご挨拶をして少し微笑む。この笑顔でクリフを堕としていたとは、この時は思っていなかった。


「クリフは今年から王都学園に入学します。シャーロット嬢は冒険者登録でしたな」

「はい。『閃光』の皆さんがお世話をしてくださるそうですから」

「シャーロット嬢に魔法や武術で教えることなどあるのですかな?」

「主に常識とコミュニケーション能力を教えていただく予定です」

「確かにずっと領地にいた貴女にとって、世情を知る良いきっかけになりますな」


バークマン侯爵は笑って言う。確かに。この世界の常識に関しては無知もいいところだからな。


「せっかくクリフも同じ歳です。良かったら仲良くしてください。シャーロット嬢と比べると見劣りしますが、魔力制御はこの歳としては中々ですから」

「確かに魔力量もかなり多いとお見受けします。それを制御できるだけの技術があるという事はとても素晴らしいのではないかと」

「ありがとうございます」


クリフは照れている。可愛い子である。


『皆様、お待たせ致しました。オンディーナ王国国王エルドレッド・フォン・オンディーナ、王妃アリシア・フォン・オンディーナ、第3王子ウォルター・フォン・オンディーナの入場です』


正面の玉座に向かって最敬礼をする。何人かの足音が聞こえる。


「面を上げよ」


その声で顔を上げる。玉座には国王と王妃、そして10歳を迎えた第3王子が座っていた。穏やかな陛下によく似た瞳と王妃似の顔立ちだ。


「10歳を迎えた子達よ、おめでとう。これから多くの事を学び、国のため国民のために尽力してくれる事を願っている」


そして陛下は杯を掲げた。


「未来ある若者達に、乾杯!」

「「「「「乾杯!!!!!」」」」」


子供達はオレンジジュースの入ったグラスを持っている。

そして始まったのが公爵令嬢シャーロットに対するアピール合戦だ。貴族の子息達は舞い降りた天使の如きシャーロットに夢中の様で、あの手この手でシャーロットの気を引こうとしている。前世から引き継いだ生粋の引きこもり気質で人の多さに滅入っていたシャーロットは、何とか捌いてはいるものの精神を擦り減らしている。大人相手なら良いのだが、子供相手だと難しい事は理解できないだろうし、かと言って下手に扱うと色々と面倒だし……


「皆さん、落ち着いてください。シャーロット嬢がお困りですよ」


そう言って近づいてきたのは、陛下へのご挨拶を終えて来たクリフだった。


「クリフ様……」

「シャーロット嬢はお身体が弱く領地で静養されていた方。この様な慣れない環境でこんなに多くの方に囲まれては体調を崩されてしまいますよ」


そう言ってニコッと微笑むと、シャーロットに手を差し出した。


「少し休める場所に移動しましょう。ご案内します」

「ありがとうございます、クリフ様」


そっと差し出された手に触れると、小刻みに震えていた。緊張しているのだろう。まあ、公爵令嬢が相手となれば緊張もするか。

クリフの案内で、中庭の脇にあるベンチに向かう。白い塗装のベンチにシャーロットが座るのを確認すると、クリフはふぅと息を吐いた。


「騒がしくて申し訳ありません。彼らにも悪気はないのです。ただ、美しいシャーロット嬢を見て、どうしても声を掛けずにはいられなかったのでしょう」

「いえ、クリフ様のせいではありませんから……」

「今回のお披露目会で私は子息の中でも一番上の立場。公爵令嬢に失礼があったら、それは私の力不足なのです」


公爵家や侯爵家は全ての貴族の見本にならなければいけない。子供であってもそれは同じ。故に公爵家や侯爵家の子息や子女は幼い頃から厳しい躾の元で育つのだ。

そしてこの国には多くの派閥がある。バークマン侯爵の派閥に属する貴族も多い。先ほど集まっていた子息の中にはバークマン侯爵派の貴族がかなりの人数いた。彼らにとってクリフはお手本なのだ。


「そういえば、チェリッシュ公爵派はいるのですか?私は領地に引き篭もっていたのでその辺はよく分かっていないのですが……」

「チェリッシュ公爵派の貴族もいますよ。我がバークマン侯爵家もその一つです。あとは有名な所だと現在騎士団長を任されているベスビアス伯爵、バカラ領領主で闇魔法使いのバカラ男爵は我がバークマン侯爵派閥の貴族です。つまりチェリッシュ公爵派と言っても差し支えないかと」

「闇魔法使い……一度お会いしてお話ししたいですね」


闇魔法使いは偏見が根強い。そんな中で領主をしている貴族というのは興味がある。


「シャーロット嬢は闇魔法をお使いになるのでしたね。バカラ領は闇魔法使いが多く存在します。やはり領主が闇魔法使いだと偏見も少ないので暮らしやすいのでしょうね」

「謂れのない誹謗中傷に苦しむ方は多いでしょうね」

「シャーロット嬢は気になさらないのですか?」

「誰に対しても期待はしていませんでしたから。父上も、使用人も。期待をするから傷付く。ならば最初から期待しなければ良い。信じられるのは自分自身だけです」

「シャーロット嬢……」

「失礼します。お嬢様、陛下へのご挨拶のお時間です」

「そう。では失礼します」


シャーロットはそう言ってクリフに挨拶をするとセバスチャンと陛下のもとに向かった。その背中をクリフは少し辛そうに見送った。


「クリフ。どうしたの?」


クリフの両親が近づいて来た。


「……使用人も、父上さえも期待せず信じる事もせず、たった1人で自分だけを信じて10年暮らして来た。そんなシャーロット嬢に心を開いて頂くにはどうしたら良いのでしょうか?」

「……クリフ」


バークマン侯爵はそっと息子の肩に手を置いた。


「ひたすら側に寄り添ってあげなさい。彼女にとって “ 影 ” とは己そのものだ。それでも影に、己の心に取り込まれてしまう事はあるだろう。だから彼女を常に照らす光でありなさい」

「光に……」

「彼女の使う闇魔法は魔力が暴走すると心を傷つけてしまうことがあるそうだ。それを中和するには光魔法が必要だ。お前は私と同じ光魔法も使える。彼女を一番近くで照らす光であり続けなさい」

「……わかりました」


その答えに満足したのか、2人を会わせてよかった、と思いながらバークマン侯爵はクリフの頭をそっと撫でた。


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします

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