王都へ
次の日からシャーロットは陛下達と王都に向かった。屋敷に辛うじてあった馬車にシャーロットも帯同する。シャーロットの乗る馬車にはキャシーが乗ってくれた。馬車での長旅は初めてだった。陛下達は心配してくださったが、基本座っている時間の長い生活だったせいもあって、思ったよりも苦痛ではなかった。時々休憩も挟み、食事を取ったりする。夜は馬車の中で座席をベッドにして眠る。
野宿以外では道中の領地にある宿に宿泊する。シャーロットは平気な顔をしてシャドードールを肩に乗せて宿泊先にいるものだから、客は奇妙な顔をしていた。陛下達と帯同しているので何も言われないしされないが、バークマン侯爵にこっそり『公共の場でシャドーは出さない様に』と言われた。この時初めて闇魔法が忌み嫌われているのを知った。場所によっては宿泊拒否を受けるらしい。もしかして使用人が夜逃げしたのってこの魔法のせいだったのかな、と今更気が付いたのだ。
9日かけて王都に到着した。本当は一週間で到着出来るが、シャーロットの体調を考慮して下さってゆっくり目に進んでいた。
早速向かった先は王都のチェリッシュ邸。寂れてこそいないが、中に入るともぬけの殻となっていた。使用人もいない。芸術品も、食器も、家具も何一つなかった。見事なまでのもぬけの殻。陛下とエイベル達、そしてバークマン侯爵は唖然としていたが、シャーロットは落ち着いていた。給料が払われていなかったのだろう。使用人達は家財を秘密裏に売って給料の足しにして夜逃げをした様だ。領地でもあった事だ。何だか懐かしい光景の様にも見える。
「流石に、電気すらないのは、不便ですね」
王都までの道中でいっぱいお話しした甲斐もあってか少し滑らかになった発語でシャーロットは言い、パンパンと手を叩く。家中の影からゴーレムが飛び出し、屋敷中に散っていく。すぐに電気が点いた。
「使用人がいないのは困るじゃろう。すぐに王家から派遣しよう」
「ありがとう、ございます。シャドー達に、任せても良いのですが、お金は、使わないと、経済が、回りませんものね」
10歳の少女、経済を語る。バークマン侯爵はその賢さに少し驚いていた。確かに王都までの道中も話していて利発な子だとは思っていたが、経済の事をちゃんと理解しているとは思わなかった。あまり聞きはしなかったが、もしかしたら領民がいないと分かった時点で国に納めている税金の原資が自分の魔獣素材だと薄々気が付いていたかもしれない。
「あとは、家具も必要ですね」
そう言って屋敷中に魔力を広げて魔法を展開する。領地の屋敷でも昔にやった【リノベーション】だ。屋敷中の壁紙が変わり、絨毯も綺麗になる。調度品も置かれ、薔薇に埋め尽くされたデザインとなった。
「シャーロットは薔薇が好きね」
「薔薇は裏切りませんから」
前世の『筋肉は裏切らない!』みたいなものだ。掛けた手間の分、薔薇は美しく咲いてくれるが大した深い意味はない。
しかし、環境が環境だっただけに、陛下達の心には言葉の重みが違った様だ。
「チェリッシュ公爵の暴挙に気が付かず、申し訳なかったな」
「大丈夫です。あの男には、期待もしていませんでしたから」
上級貴族として共に王国を支えてきたバークマン侯爵にとっても、チェリッシュ公爵の横暴に気が付かなかった事、シャーロットに父を『あの男』と呼ばせてしまう様な環境を作ってしまった事は痛恨の極みなのだろう。だが、シャーロットにとって父は存在するだけ。この世に生まれるにあたっては必要だった存在だが、それだけ。その後の10年において必要を感じた事などただの一度もなかった。
「使用人達には、申し訳ない事を、しました。ここの、家財を売っても、給料には、足りなかったのでは、ないでしょうか?」
探して残りを支払いたい。幾らくらいになるかな?
「あと、使用人に払う分の、お金を、王国からいただいていたお給金を、横領してしまっています。全額返金しないと……」
シャーロットは屋敷の中を見て回って言う。
「幾らになるかしら……少なくとも私が生まれてからずっとこの調子でしょうから、最低でも10年か……」
「……シャーロット嬢?」
「年間で国からのお給金は約大白金貨5枚はある……10年で大白金貨50枚か……」
「シャーロット嬢の責任ではないのじゃ。お給金は返金しなくても……」
「そうはいきません。しっかりお返ししないと横領に当たります。公爵を継ぐにあたっては、しっかり清算しておかないといけません」
「「「「「……」」」」」
「今後10年のお給金を頂かない事にして、その間の生活は冒険者をしながら確保して、使用人のお給料はエリクサーと素材を売って……」
貴族の令嬢としての覚悟を感じ、誰も何も言えなかったのだった。
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