ゴーレムについて
次の日、シャーロットは朝食を終えると庭の薔薇を手入れするという。明日の旅の準備はシャドー達がやってくれるらしい。チェスターは領地内を軽く見て回っている。正式に騎士を派遣して調べるにしても、多少は下見も必要だろうと言う事になったのだ。護衛も兼ねてシャーロットがゴーレムを付けている。
庭を散策すると、右を見ても左を見ても薔薇が咲き乱れている。
「ここまで綺麗に手入れするのは大変じゃろう」
「薔薇……好きです……苦にはならない、です」
「そうか」
薔薇の花に顔を寄せて香りを楽しむ彼女は何とも可愛らしい。引き篭もっていたせいか色白なシャーロットの肌に色とりどりの薔薇がよく映える。側にいる双頭のワイバーンもシャーロットの真似をして花をクンクンと嗅いでいる。光景としては異様なのだが、本人達は嬉しそうなので良しとしよう。
「……屋敷、戻り、ます……。一雨、来そう」
空を見ると、雲一つない晴天だった。
「降るか?」
「偵察隊……教えて、くれました。1時間後……きます」
シャーロットの言う通り、1時間後には雨が降ってきた。しかも本降りだ。雨雲が流れてきた辺りでチェスターも戻ってきた。ゴーレムが戻る様に促した様で、陛下に何かあったのかと思い急ぎ戻ったら雨が降りそうというだけで安心していた。『ゴーレム……使って声……送受信……出来ないかな……』とボソッと言っていたが、確かめるのは良いが流通は待ってくれとバークマン侯爵が困った顔をする。確かに便利だが、便利過ぎて内乱が起きかねない。作れたとしてもシャーロットにしか生産できないので難しいだろうから心配はないだろうが。
まだ雪も残る場所がある季節。チェリッシュ領は雪は積もらないが、それでも春になる前の風は少し冷たい。雨が降ればなおのことだ。ラウンジで出される暖かいミルクティーには高級品である蜂蜜が入っている。森の中でたまたま作られた蜂の巣から採取したのだそうだ。程よい甘みが少し冷えた体に染み渡る。
「偵察隊というのはどの様な者達なのじゃ?」
美味しいミルクティーを飲みながら陛下は聞く。シャーロットは左手を出す。掌には魔法陣が現れ、そこから金色の鳥型ゴーレムが出てきた。シャーロットの肩に止まり待機する。すでにいたシャドードール数体は慣れている様で、ゴーレムの背中によじ登り楽しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
「偵察用ゴーレム……【隠密】、使います」
「自分で作ったのか?」
エイベルの問いかけに、シャーロットは頷く。
「皆さん、来た、知らせる……このゴーレム……ワイバーン、くらいなら、倒せる……」
「なるほど。領地を巡回させていたのか。便利な物じゃな」
「素材は?」
「オリハルコンとミスリル、合金、です……」
「どうやってオリハルコンとミスリルを調達しているのだ?」
バークマン侯爵は聞く。
「領地で、採れます……。父上は、恐らく、知らない……」
「……ちなみにどうして気がついたのだ?」
「ダンジョン……周回……」
「この領地のダンジョンは確かSランクではなかったか?」
「はい。我々でも水魔法の威力が足りずにアタックしていないダンジョンです」
エイベルは答える。ミスリルは基本的に剥き出しだが、オリハルコンは掘らないと出てこない。一般的にダンジョンのランクが高いほど希少な素材が手に入るのだ。チェリッシュ領のダンジョンは最高のSランク。当然排出される素材も希少だ。しかしそれが分かっていてもやる者はいない。なぜならハイランクのダンジョンボスはそんな簡単に倒せるものではなく、死闘という言葉がぴったりと当てはまる。そんな戦闘の後に鉱石を採掘する体力なんて残ってはいないものなのだ。それだったら魔力溜りを探して、そこの近くの鉱脈を探す方が効率がいいのだ。
「ミスリル、オリハルコン、採掘できる……。ダンジョンボス、倒すと、鉱脈、ある……」
「シャドーゴーレムが戦っているのか?」
「戦闘用ゴーレムも……。近接戦は、戦闘用、じゃないと、難しい……です……」
シャドーゴーレムはあくまで魔法を使った遠距離戦がメイン。鉱石の採掘も戦闘用ゴーレムに任せているらしい。
「戦闘用ゴーレム、というのはここに来る時に迎えに来てくれたゴーレムか?」
陛下が問うと、シャーロットは背後に置かれていた甲冑に向かって指を鳴らす。甲冑の目が光り、音を立てて動き出した。シャーロットの横に立ち、停止する。見た目は陛下達が領地に来た時に警護していたゴーレムだ。
「護衛、戦闘、兼ねたゴーレム……【索敵】【必中】【一撃必殺】……スキルを、持ってます……。【一撃必殺】は、反動が激しい、です、けど、体がオリハルコンとミスリルの合金……問題、ない……」
陛下達を迎えに行ったゴーレムは、このゴーレムの他に素材を無駄なく回収出来る【解体】、傷以外にも疲労も回復出来る【超回復】をスキルとして持っているゴーレムがいた。それと一緒に魔法要因としてシャドーゴーレムも付いていた。
正直言ってその時に回収された素材は一緒にいるシャドーが収納までしてくれるので、外に出なくてもゴーレムだけで素材回収を出来るから引き篭もりに拍車が掛かるのだ。
「のお、チェスターよ……スキルを持つゴーレムとは普通なのか?」
「いえ、陛下。王都にもそんなものはありません。彼女は特殊です。しかもこんな高純度なオリハルコンとミスリルの合金でゴーレムを作る事も普通ではありません」
陛下は困惑し、チェスターは苦笑いをする。基本的にゴーレムというのはダンジョンの中にあったり、土木作業現場などでの建材運びなどの肉体労働に使われる。スキルを持つゴーレムなんて聞いた事もない。あったら便利だし欲しいとも思うが、絶対金額的に採算が合わない。
「中々、採掘されない……ミスリル、魔力が多くて大きい……」
「ダンジョンの鉱脈だと効率が悪いからな」
「確かに……あそこ……高威力の氷魔法……使えないと辛い……魔力尽きて……採掘まで、行かないかも……」
「ん?火の魔獣じゃなかったか?だったら水魔法だろう?」
「マグマ、に水、掛けても、焼け石に水……最高位の氷魔法、で瞬間凍結……」
「あぁ……だから高位の水魔法使いがいても攻略が出来なかったのか……」
「蒸発する、方が、早い……」
「最高位の氷魔法、という事は【コキュートス】か?」
シャーロットはうなづく。エイベルは天を仰いだ。エイベルも使えない魔法を齢10の子供が使える。『ナンテコッタ!』というやつである。
「魔力、あれば、出来る……」
「いや、そういう問題ではないんだがな……」
「シャーロット嬢。最高位魔法というのはな、本を読んだら行使できる程簡単な魔法ではないのだ。繊細な魔力操作が必要だし、理屈も難しい」
「……えいっ、って……」
「あー、うん。その『えいっ』が難しいのだよ……」
エイベルとデクスターは困った顔をし、陛下とバークマン侯爵、キャシー、チェスターは苦笑いをしている。世の中そんなものだ。
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