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ゴブリンの村

学園に入学して1ヶ月が経った。学園での座学はウザ絡みが減った。結局、他の生徒に迷惑が掛かることを考え俺は母様に手紙で報告した。ヴァイオレットもそれとはなく王太子に報告したそうで、陛下の耳に入り注意を受けた様だ。悪目立ちをして他の貴族の子息に絡まれるというラノベお馴染みの展開は面倒なので回避したい所だ。何しろ『『公爵の子弟』で『母が『影の支配者』』である、11歳にして『影を操る者』の称号を得た第一王女を婚約者にもつ公爵家後継者』なんて狙いやすい的でしかない。

しかし母様も言っていたが、どうしてこんなに転生者が多いのだろう。『裏の世界』との貿易だけなら母様と魔王だけで良かったと思う。俺が転生してきた意味が分からない。まあ、母様は魔王と契約したから一万年は最低でも生きる事になった。そんな長い間公爵であり続けるのは権力的にパワーバランスがおかしくなる。というか争いの火種になってしまうだろう。それを考慮した結果なのかもしれない。俺が20歳になったら公爵を継ぐ予定だし、そうなれば母様は現役を退きどこかに隠居するそうだから。予定としては政界からも退きはするものの『相談役兼監査』として存在は残していくそうだ。なにかトラブルがあって王国に危機が訪れた時には協力するらしい。……吟遊詩人が『深淵の魔女』とか呼びそうな未来が想像つくのだが、それは気にしてはいけないお約束だ。


「おーい!エド!ホーンラビット捕まえたぞ!」

「随分と立派なホーンラビットだな」

「大きいですわ!これなら報酬に上乗せがありますわね!」

「最近はホーンラビットの皮も高いですからね。角も立派ですし、これ一匹でかなりの報酬になりそうですね」


この1ヶ月でそれぞれの立ち位置が確定しつつある。ハリーは剣で魔獣を倒す前衛。エドウィンは魔法でハリーの援護攻撃。ヴァイオレットは支援魔法に振り切る事にした。基本的にお転婆ではあるものの好戦的とは言えない殿下は、エドウィンが護衛をしつついざとなったら支援魔法を使うという支援魔法使いとなる事で落ち着いたのだ。まあ、元々単騎でダンジョン攻略できる様に育てようとは思っていなかった。エドウィンとハリーと3人でダンジョンアタックをして攻略が出来る程度には、と思っていたので支援魔法は助かるのだ。まあ、エドウィンだって支援魔法は使えるのだが、そこは役割分担だ。魔力も有限だから。


「……ん。この匂いって」

「ゴブリンですわね。匂い的にかなりの量ですわ」


匂いのする方に少しだけ進み、ヴァイオレットはすぐに索敵を行う。この1ヶ月でヴァイオレットの魔力はかなり上がった。今の彼女の索敵ならかなりの範囲を探れる。


「……この数は村と言っても良いですわ!」

「すぐにギルドに報告しましょう」


そう言ってエドウィンは偵察用ゴーレムを放った。


「持ってたんだな」

「母様にお強請りして誕生日に貰ったんだ。こういう時に便利だから」

「なるほどな」


ギルドに報告しに行くとゴブリン村の現状が分からなくなる。移動する可能性もあるし、突然襲撃してくる事だってありうる。普通は監視部隊として数人を置いていくのだが、今のエドウィン達では荷が重い。その点、母様の作った偵察用ゴーレムなら十分に役目を果たせる。母様には『攻撃に使わない様にね。ワイバーンを討伐できる程度には強いから』と注意された。

ギルドに向かうと、すぐに受付にいるクレアに報告をする。


「クレアさん、緊急です」

「あら、エドくん。どうしたの?」

「ゴブリンの村を発見しました」

「まあ!」

「索敵した限りで数千はいますわ!もっといるかも……!」


エドウィン達のギルドがザワついた。


「今、偵察用ゴーレムからの情報を見てますけど、かなりの数が森の奥に広がっています。僕達だけではどうしようもないと判断し、帰還しました」

「皆さんが無事でよかったわ。すぐにギルマスに報告します」


クレアさんはそう言って奥に入って行った。ギルマスが来るまでの間、周囲にいた冒険者達と情報を共有する。討伐部隊を編成した時に志願しようとしている冒険者達だ。ゴブリンはそこまで強くない魔獣ではあるが、武器を扱える程度の知恵はある。知的年齢は5~6歳と言われている。しっかり準備しないと痛いしっぺ返しが来る。

少しするとギルドマスターが来た。


「おう。ゴブリン村だってな」

「はい。規模が大きく、母様ならいざ知らず、僕達では殲滅は無理ですので持ち帰ってきました」

「まあ、公爵ならストレス発散に嬉々として暴れるだろ。偵察ゴーレムを配備して帰還してきたってのは褒めるところだ。若い冒険者は無理をして大怪我するだけならいいが、死ぬ事もあるからな。冷静でいい判断だった」


ギルマスはそう言ってエドウィンの頭を撫でる。そして冒険者達を見回した。


「良いか!コイツらが持ってきた情報を無駄にするな!王都を防衛するぞ!」

「「「「「おう!」」」」」


冒険者達は慌ただしく動き回る。


「僕達は後方支援に回ります。偵察用ゴーレムがもう一体いるので、それも飛ばしてどの位置にボスがいるのか、今冒険者さん達がどの位置にいるのかなどの情報を共有しましょう」

「おお、それはありがたい!」

「俺達は怪我人の手当などをしましょう!」

「そうですわね!ポーションなどを救護所に搬入いたしますわ!」

「殿下まで!」

「民を守る事は王族の務め。父上やお爺様から教えられていますわ!」

「ありがたき幸せに存じます」


王族の役割が何たるかを、ヴァイオレットはよく教えられている。戦闘には向かないと知った時、エドウィンの勧めで支援魔法を教えられた。その中には回復魔法も含まれている。回復魔法は無属性魔法が一般的だが、光魔法の回復魔法も存在している。それは非常に珍しく習得も困難を極める。使える者は限られるが、ヴァイオレットはエドウィン達の役に立ちたい一心で習得までたどり着いたのだ。控えめに言っても天才である。


救護所はギルドの1階に設けられた。エドウィンは作戦会議室に、ハリーとヴァイオレットは回復支援のためにホールにいる事になった。


「ハリー。殿下を頼む」

「おう、任せとけ!」

「エドウィン様もご無理をなさらず……」

「ありがとうございます、殿下。では……」


エドウィンはヴァイオレットの額に軽くキスをして会議室に向かった。周りにいた冒険者達から生暖かい視線を浴びる中、両頬を隠しつつ顔を真っ赤にしているヴァイオレット。ハリーは『アイツは……』とこめかみを押さえた。


「仲睦まじい様で安心しました」


ギルマスは微笑んで言う。俺だって何の理由もなくあんなキザな事をしたわけじゃない。ただ、『王族の務め』と言って少し気負っている様な気がしたのだ。いくら生まれながら王族だと言ってもまだ10歳だ。肩に力が入り過ぎると、思いもかけないミスを起こす事もある。……まあ恥ずかしくて固まっているかもしれないが、周囲も分かっているからサポートしてくれるだろう。何しろヴァイオレットは王女殿下だ。殺伐とした世界で生きる冒険者風情が声をお掛けする事さえ憚られる存在だ。普段だったら一言『今は学園生として、新人冒険者としていますから』と言っておけば良いのだが、この緊急事態にその度に言って回っては効率も悪い。だからああやって緊張を解こうと思ったのもある。決してキリッとしたヴァイオレット殿下が可愛かったからとか、照れて顔を真っ赤にさせた彼女を見たかったとか、そういう事ではない。多分な!


「さて。ここに王都周辺の地図がある。どの位の範囲にゴブリンがいますか?」

「そうですね……」


数人のギルド幹部であろう人達が集まる会議室で俺は偵察ゴーレムを使ってゴブリンの様子を見る。


「……これ、村なんて次元じゃなさそうですね。国なんじゃないですか?よくここまで溜まったもんですね」

「そんなに多いのか?」


幹部の一人が言う。王都の周辺は冒険者の人数も多いためあまりゴブリンも多くは溜まらない。村と聞いてさえ驚いたのに、国と言っても過言ではない程の数なんてどこに隠れていたのか分からない。


「どんどん増えていっている気がしますね。これは何処かに隠れていたのが流出し始めたと考えて良いのではないでしょうか」

「隠れてた?」

「はい。偵察ゴーレムだけでは正確な数が把握できませんね。地下にいたのか洞窟があるのか……」

「その中で繁殖されていたという事か?」

「それしか考えられません。……時間をいただければ、地下か洞窟を捜索しますが」

「……正確な情報が欲しい所です。頼めますか?」

「はい」


ギルマスに言われ、俺は影に魔力を通す。


「お前ら、出番だぞ」


実は母様にも内緒にしていた事がある。それは大量の従魔を使役しているという事だ。母様はゴーレムを作れるから良いが、俺は製作できない。その代わりに大量の従魔を使役したという訳だ。種類は爬虫類。最初はシャドーサーペントだった。チェリッシュ領の森に偶然いたシャドーサーペントを従魔にした。闇属性の魔獣は見つけづらい。俺は偶然発見して速攻で従魔契約をしたから良かった。それ以降、見つけるたびに契約していたため、もはや何匹の従魔がいるやら把握できなくなっていた。


「【シャドーサモン】」


影からシュルシュルと這い上がって来て俺の胴回りに巻き付き左の肩から顔を出したのはシャドーサーペントだった。こいつには従魔達の統率を頼んでいた、


「王都の森に溢れ始めたゴブリンの巣を探せ」


影がザワザワとし、そして気配は消えた。そしてもう一体偵察様ゴーレムを出して外に放った。


「さて……」


俺は椅子に座ると、目を閉じて偵察用ゴーレムからの情報を共有する。先ほど放ったゴーレムからは虫達からの情報を受け取る。最初から放っている方からは地上の状況を逐一受け取る。さながら、前世でやっていた2画面同時動画再生をしている様だ。


「……森の中にある洞窟から地下に向かって広い洞窟が広がっています。そこに大量のゴブリンが溜まっていた様です」

「場所は?」

「森の右側。なんか人工的な感じがしますね。何か遺跡とかありました?」

「遺跡ではありませんが、遥か昔、この辺がまだ王国ではなかった頃に小国同士の戦争が起こり、その時の現在の王国軍の前衛基地があった場所に拠点だった地下拠点は残っています。確かにあそこは特に珍しいものもなく、中にあった遺留品は城の宝物庫に移動されています。人の目は届かないでしょう。隠蓑にはもってこいかもしれません」


『盲点でした』とギルドマスターは言う。


「だが、そんなに広い場所ではなかったはずだ。そんな多くのゴブリンが溜まるものか?」

「ゴブリンも知恵はありますし、元は洞窟です。数に合わせて広げていったのでしょうね。アリの巣みたいな状態になってますし」


特別な道具がなくても土なら掘れるし、武器を持っている以上ピッケルなどもあるだろうから岩肌も砕けるだろう。


「問題なのは、この状況でまだ地下に残っている所ですね」

「結局、どのくらいの数になりそうだ?」

「地下にまだ3000はいるかと……」

「3000って……」

「表に出て来ているだけで1万は軽く超えてますからね……周囲を囲んで前衛が先頭から倒していますけど、正直言って手が足りないと言いますか……」


俺の情報を元に会議室にいる【念話】が使える魔法使いが現場に指示を出す。そのおかげで洞窟の周辺から広がる事を食い止めて戦闘出来てはいるが、そうは言ってもジリ貧である事は変わらない。


「騎士の派遣を要請した方が良いでしょうか」

「その方がいいと思いますね」

「ちょっと待て!」


会議室に突然入って来たのは、何だか見た目は冒険者とは思えない男性だ。


「アルヴィン。何かあったか?」

「『何かあったか?』ではない!これは冒険者の仕事だ!国の騎士にでしゃばられると冒険者の立つ背がないだろう!」

「そうは言っても、冒険者だけでは手が足りないのは事実だろう?」

「そんな事はない!大体!一万だの3000だの!それはこのガキが言っているだけだろう?しかもこいつは闇魔法使いだろう!そんな情報、信用できない!」

「公爵に対してもご子息に対しても失礼だぞ!……申し訳ございません、エドウィン様」

「構いませんよ。僕が闇魔法を使えるのは事実ですから」


ああ、そう言う事か。この人、闇魔法使いに差別意識がある様だ。母様の頃は差別意識もかなり強かったと聞く。今でも少なくはないが、それでもここまで大っぴらに敵意を剥き出しにする人はあまりいない。少なくとも俺は初めてだ。


「何か策があるのですか?」

「無論!多いと言ってもそこまで大袈裟ではないだろう!ならば!私の魔導具の出番だ!」

「またか……」

「お前の様な凡人には分からないだろう!私の天才的な発明を!」

「はぁ……」


ギルマスは頭が痛い様だ。確かに魔導具は役に立つだろうが、あの量ではそれも焼け石に水な気がする。


「……分かった。とりあえず前線に向かい、そのご自慢の魔導具でどうにかしてみてくれ」

「ふっふっふ……!ついに私が活躍する時が来た……!私に任せておけ!騎士達など要らないと言うことを教えてやろう!」


アルヴィンはそう言って会議室を出ていった。


「……そうは言いましたがエドウィン様。あやつだけでは荷が重いでしょう。しかし騎士を派遣していただくと色々と面倒です。どうか、チェリッシュ公爵に打診していただけますか?あの方は冒険者として登録もされていますから」

「わかりました。……アラーナ、頼むよ」


影は一瞬魔力を放出し、そして静かになった。


「……それにしても、彼はどうしてあそこまで騎士を嫌い、魔導具にこだわっているのですか?」

「彼の父親は元は騎士団所属だったのです」


ギルマスは静かに言う。アルヴィンの父は男爵だった。騎士であることに誇りを持ち、アルヴィンも憧れだった。ところが彼は剣の才能がなく魔法の才能はあるが魔力はそれほど多くはなかった。そこにきて1歳下の弟が剣の才能を開花させ、同じ年頃の中では敵無しという実力だった実力だった。剣の才能はない。魔法使いには魔力が足りない。実家では出来損ないのレッテルを貼られていたそうだ。

そこで出会ったのが魔導具だ。魔力が少なくても魔法を使える様になる。アルヴィンは魔導具研究にのめり込んで行ったそうだ。そして冒険者ギルドに登録し、自身で作った魔導具を駆使して魔獣を倒していきAランクまで上り詰めた。


「それは良いのです。魔導具だって便利ですし、私のガントレットも魔導具ですからね。しかし、それに頼りきりではいけないと思います。それに彼の魔導具は危険すぎる。それこそ『誰でも使える』という魔導具の特徴が災いしていると言ってもいい」


冒険者でなくても、その辺の町娘やおじさんおばさんが簡単に魔獣を討伐できる魔導具。それは人間だって例外ではない。魔獣を倒せるという事は人間も倒せるという事だ。町人同士が喧嘩をした時にカッとなって使うことだってありえるのだ。それがどれだけ危険なことか。俺だって分かる。


「アルヴィン様の使おうとしていらっしゃる魔導具はどのような物なのですか?」

「あいつは主に魔獣を簡単に駆除できる魔導具を開発しています。今回のように増えすぎた魔獣やスタンピードの時に使う魔導具です」

「それって、前線で戦う冒険者達も巻き込みかねないのでは……」

「私もそれを危惧しています。しかし流石にあいつにも理性はあります。仲間を巻き込む様な物は使わないでしょうが……」


そんな話をしていると、遠くからドォン!という音と地響きがした。その後、何度か爆発音と地鳴りがする。


「大暴れですね」

「おいおい……アイツ、ちゃんと考えているだろうな?」

「エドウィン様の従魔は無事ですか?」

「退避させましたし、現在は飛べる魔獣とゴーレム以外は戻ってきています」

「ならば良かった」

「しかし、どうやら派手に爆発している様で、地下通路も崩れて行っていますね」

「やっぱりかっ……!」

「地下通路が崩れているという事は!」

「はい。地形が変わって行っていますね」


地形が変わるほどの爆発を何度も起こしていれば、当然森も無事ではない。というか、危惧していた通り冒険者達が巻き込まれているし、火事にもなっている。


「すぐに水魔法の使い手を派遣してください。森が火事になっています」

「おい!緊急派遣だ!」

「「おう!」」


ギルマスの号令でほかの冒険者が指示を出しに行く。


「……母様が領地を出発したそうです」

「そうですか!いつ到着しますか?」

「おそらく数時間で。今、運の悪い事に転移用ゴーレムが調整中なんですよね。

……アラーナ。怪我人の搬送を手伝ってもらって良い?……ありがとう」


いつもなら転移用ゴーレムで一瞬で来れるのだが、魔族との取引を始めてから良質のモリオンが手に入るようになったので、王国中の転移用ゴーレムをアップデート中なのだ。

俺は立ち上がってギルマスにニコッと微笑む。


「僕も行ってきます」

「危険ですよ!」

「冒険者ならむしろ当然です。それに、母様が来るまでの間に怪我人の収容と火事の鎮火をさせておかないと」


俺はそう言って窓から外に出た。ゴーレムが迎えに来て、それに乗ると森の方に向かった。


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします

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