アルフィー視点
俺達が戦闘狂なのは自覚していた。自分達以上にヤバい冒険者もそう簡単にはいないという事も分かっていた。だからクレアと共に危険な依頼もこなしていたし、同じSランクの “ 閃光 ” にお抱え冒険者の座を譲って現場に拘った。俺達以上にヤバい現場に適応できる奴はいないという事も自負していた。
ところがチェリッシュ領の防衛メンバーに抜擢されて初めてお会いした公爵は自分達以上にヤバい人だった。心の内が読めない。読もうとすると思考が掻き乱される。まるでこちらが探っているのを理解し拒絶しているかの様だった。まだ幼い公爵だ。しかも先代公爵の手によって荒野同然の領地に隔離されていたせいで世間知らずと来たもんだ。色々と苦労する事も予想していたが、それは杞憂に終わった。自分達よりもはるかに強い人物。こんなに幼い子が、まだ大人達に守られているはずの歳の子が、誰の事も信じず己の足で立ち、己の腕一本で自身の居場所を守っていた。その事実を知って誰もが『公爵の役に立ちたい』と思った。公爵が開発に奔走している中、必死で領地の防衛を行った。冒険者達をまとめて領地周辺の森に蔓延るハイランクの魔獣を討伐して回った。時間を見つけては俺達の様子を見にきて、怪我をしていると自ら回復魔法を使って癒してくれる。『このくらい、領主として当然の事よ』と言って微笑む公爵は、地上に舞い降りた天使の様だった。
騎士の育成が整った頃、自分達の所に公爵からチェリッシュ領の冒険者ギルド・ギルドマスターとサブギルドマスターの要請が来た時は驚いた。『騎士を育成している間、チェリッシュ領防衛の陣頭指揮を取っていた貴方達なら任せられるわ』と言ってくださった。あれだけ仕事に奔走していた公爵が、ちゃんと見ていてくれたのかと思うと嬉しかった。それと同時に心配にもなった。この人は自分を蔑ろにしてしまう傾向にあるのではないか、と。領主館で朝から事務処理に追われていたかと思ったら、俺以上に領地内の状況を把握し必要な策を俺に提案してくる。そしてそれに必要なゴーレムや素材などを手配してくださる。スキル持ちのゴーレムは現状でも公爵にしか作れない。領地内は偵察ゴーレムで定期的に見ていると知った時は『この公爵、ちゃんと休んでいるのか?』と思った。時々、顔色がすぐれない事もある。『最近、寝ても覚めても領地開発のことで頭がいっぱいでね。安眠妨害も良い所なのよね』と苦笑いしていた事もあるほどだ。頼る事が苦手なのか、はたまた『たまに外出すると大きな仕事を持って帰ってくる』と家令のセバスチャンが唸っていた通りなのか。
気の休まらない日々が続く中で、突然勃発した愚かな皇帝による進軍。しかも標的はチェリッシュ領だった。誰しもが思った事だろう。『今来るんじゃねーよ!ボケェェェェ!』と。まあ、公爵のシャドーが一瞬にして捕らえたが、それで終わるわけがない。停戦に向けた交渉の中で、公爵がいたく気に入った帝国騎士団長が公爵の護衛騎士として捕虜となった。最初こそ訝しむものも多かったが、その実力は本物だった。帝国の戦力を削ぐ目的として素晴らしい人選だと思った。
……そこで終わればよかったのだが、そんなわけがなかった。帝国で反乱が起き、帝国は滅びた。チラッと聞いた話によると、公爵がどうも糸をひいたらしい。兎にも角にも、帝国領が急遽王国領になりチェリッシュ領が増える事になった。ついでに王国にいた不安因子も排除され、その時に没収された領地までチェリッシュ領として下賜された。『また公爵の安眠妨害が増えた……』そう思わない人間は、この領地にはいないだろう。
まるでヤケクソにでもなったかの様に次々と画期的なシステムを導入し、チェリッシュ領の開拓は進んで行く。『これでは過労死してしまう!』と言って寄親寄子制度を国王に進言したのは、精一杯のSOSだったのだろう。
そんな中で公爵の癒しとなっていたのは、弟で養子となったエドウィン様だろう。エドウィン様の相手をしている公爵は穏やかな母の表情そのものだった。『ああやって子供に愛情を注ぐ事で、過去の自分を慰めているのかも知れない』という婚約者のクリフ様のいう通り、その愛情は海よりも深く、山よりも高かった。
5歳になられてからは、護衛騎士として元帝国騎士団長だったレックス殿と側付きメイドのアラーナ嬢と共に領地内を散策する姿もよく見られた。あの公爵の事だから色々魔法を教えまくっているのではないかと思ったが、意外にもそんな事はなく『普通に幸せになって欲しいから自由にさせてるわ』との事だった。
『普通に』という言葉がこれ程心にくるとは思わなかった。確かに公爵の人生は『普通』とは程遠かった。『愛情』を知らない公爵が誰よりも愛情を注ぐ存在。『信じる事』をしない公爵が何度も『周囲に頼りなさい』と諭す存在。今の自分を幸せにするよりも幸せにしてやりたいと思う存在。
結局、血は争えないのか教えずとも公爵と同じ闇魔法に興味を持ち才能を開花させたエドウィン様は、公爵の手で制御を学び11歳で学園に入学した。その試験結果が王家から届いた公爵は俺達に『すぐに王都の冒険者ギルドのギルマスと交代して』と。元々、王都のギルドマスターは引退を考え公爵に相談していた。ちょうど良いから俺達と交代しようという事になった。
俺達が王都のギルドマスターを引き継いで数日でエドウィン様は王女殿下とバークマン侯爵の孫と一緒に登録に来た。俺達が来て良かったと本気で思った。あんなスキルと称号で何も起きないわけがない。何かあればギルドマスターである俺が動く事になる。先代のご老体では流石に現場は無理だった。
これから色々と大変だろうが、どうか何も起こらないでくれと祈るばかりだ。……そんなわけないだろうけどな。
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