ギルド登録
貴族学は主に現在の王国の経済についてや運営方法などを教えられる。と言ってもほとんど知っている情報だ。何しろ昨今の領地運営はチェリッシュ領を参考にして行っている所がほとんど。王都でさえチェリッシュ領を参考にしている。つまり俺からしたら前世の頃からの常識をまた教えられている状態だった。ハリーとヴァイオレットは表面的には知っているものの詳しくは良く分からないため座学としては有意義なものになっている。しかし俺は眠気が襲ってくる時間だ。とは言ってもかなり頻繁に先生が俺を指名して質問をしてくるから眠ってなんていられない。と言うか、先生はチェリッシュ公爵家の派閥の出身者だから媚びてるんだろうし、俺が公爵の息子だからやってるのだろうが、はっきり言って逆効果だし鬱陶しい。変に目立って嫌なんだよなー……
「お疲れ、エド」
「おー……」
「大変でしたわね……お爺様に報告しておきます?」
「いや、そのうち落ち着くでしょうから……」
「とりあえず飲むか?」
「おう、ありがとう」
ハリーから受け取った水をゴクゴクと飲む。SSクラスの教室には結構な設備が整っている。水は自由に飲めるし、果物も常備されている。ハリーも机に座ってリンゴを齧っている。
「あの先生、チェリッシュ公爵派の貴族らしいな」
「そうらしいね。僕に媚び売ったって何の得にもならないのに……」
「今の所、次の公爵だからなー。媚び売っときゃ、娘か息子が良い思いをできるかも知んねーからな」
「ああ、そう言う事か」
「でも逆効果ですわよ?あれじゃあ」
「まあ、側から見たらそうっすよね。本人は至って真面目でしょうけど」
「お爺様もお父様もあんなのを毎日されているのでしょうか……」
「貴族達から媚びられまくっているでしょうね」
「日頃のご苦労が偲ばれますわ……」
俺は言っても公爵だからこの程度なのだ。国王や王太子ならもっと凄まじいだろう。父様も母様もこんな事を長年やっているのかと思うと、そりゃあ自重せずに暴れたくもなるだろうなと思う。
「そういえば、学外活動はどうなさいますの?」
学外活動。それは前世で言う部活のようなもの。その成果が内診にも影響するとあって学生達も一生懸命取り組んでいる。
「父様達は母様の領地運営を手伝うという事で授業も自由参加になったらしいです。僕達は冒険者ギルドで登録してみると良いのではないかと母様とバークマン侯爵に言われています」
「学生だから保護者が必要だろ?」
「そうだね。今回はクリフトン先生が同伴してくれるって」
「そうなのですか。私もご一緒しても?」
「もちろん!」
「殿下もご一緒でなければ俺達が困ります」
王女殿下の学友として、護衛として、俺に至っては一年入学を遅らせているのに離れてしまっては意味がない。
早速クリフトン先生と共に馬車で冒険者ギルドに向かう。既に話が行っていたのか、談話室に案内された。
「お初にお目にかかります、ヴァイオレット・フォン・オンディーナ王女殿下。ギルドマスターを任されておりますアルフィーと申します」
「サブギルドマスターをしております、クレアと申します。受付嬢の統括をしております」
「どうぞ、お顔をあげてください。今日は学園の生徒として来ています。堅苦しいご挨拶はなしにしましょう」
一応王女殿下が来たとあって、ギルドのツートップが最敬礼をしている。そりゃそうか。
ちなみにギルドマスターは、前世の記憶がある人なら『アルフィー』と言われて思い浮かぶド派手な人物がいると思う。あれだ。想像を裏切ってくるモーツァルトとは違い、想像通りだった。元はSランクの鬪拳士。狂戦士化のスキルを持ち、派手なガントレットを装備し嬉々として敵陣に突っ込み殴り倒すと言う戦闘スタイルだ。一応短剣は使えるが、『返り血を浴びると汚くなる』と言う理由で殴る方が多いらしい。
クレアは優しいお姉さんという感じ。茶色いウェーブのかかった髪に綺麗な赤色の瞳が印象的だ。冒険者の間では人気が高いらしく、良く絡まれるそうだ。ただ、その見た目を裏切って超戦闘狂。小柄な体格からは想像が付かないほど大きな大槌を振り回して蹂躙していく。
実はアルフィーとクレアはパーティを組んでいたことがあり、戦場においてこの2人が現れたら敵の敗北は確定すると言われていた。この2人を俺も母様も知っている。何しろ彼らが活躍していたのはチェリッシュ領だ。母様の騎士がまだ育ちきっていなかった時に領地の防衛を任せた冒険者の中に2人がいたそうだ。騎士が育ってからはチェリッシュ領の冒険者ギルドのギルマスとサブギルマスを任されていた。
「は。恐れ入ります。……エドウィン殿もお久しぶりです」
「久しぶりですね、アルフィーさん。クレアさん。こっちに来ていたのですね」
「はい。公爵からの打診で」
「母様の?」
「普通ならそこまで必要はないのですが、エドウィン様とハリー様の試験結果を知り『流石に事情を知らない王都の冒険者ギルドに任せるわけにはいかない』と。こちらのギルマスも高齢になってきたという事から、サブギルドマスターと共にチェリッシュ領のギルドに異動しようという事になりました」
「なるほど。僕達の事をご存知の2人なら安心ですね」
奇抜ではあるが実力は本物であり、何しろあの開発真っ只中だったチェリッシュ領でギルマスをしていた人だ。王都でも名の知れた人だったから文句も出なかったのだろう。
「公爵の判断は正しいと思うよ。この規格外を登録するのに、事情を知らなければ大騒ぎだし、これから騒ぎを起こす事が目に見えてるからね。急遽ギルマスが現場に出なければいけない事もあるだろう。その時に現役を引退して久しい人だと大変だからね。彼らなら安心だ」
「クリフトン殿下。もったいないお言葉です。……さて、それではギルドカードを発行しましょう」
ギルマスは水晶を取り出した。鑑定方法はオーソドックスに水晶らしい。
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名前;エドウィン・フォン・チェリッシュ
年齢:11歳
性別:男
種族:人族
体力:200,000/200,000
魔力:600,000/600,000
スキル:賢者/剣士/錬金術師/士気
称号:神に愛された者/チェリッシュ公爵家長男/シャーロットの弟/ヴァイオレット王女の婚約者/影を操る者/怒らせてはいけない者
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名前;ハリー・フォン・バークマン
年齢:10歳
性別:男
種族:人族
体力:300,000/300,000
魔力:1,000/1,000
スキル:剣士/軍師
称号:バークマン侯爵家長男/エドウィンの右腕/光を知る者
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名前;ヴァイオレット・フォン・オンディーナ
年齢:10歳
性別:女
種族:人族
体力:50,000/50,000
魔力:100,000/100,000
スキル:魔法使い(火・土・氷・光)
称号:オンディーナ王家王女/エドウィンの婚約者/エドウィンに愛される者/エドウィンの光
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「うわー……」
「お前『賢者』って……」
「まあ、公爵も登録時にすでに『賢者』と『武神』が入っていましたからね。『賢者』だけなら想定内です」
「『神に愛された者』も、ですの?」
「公爵も持っていらっしゃいますね。遺伝なのかもしれません」
「あまりに凄いスキルと称号だったため、その日の内にSランクに昇格したほどです。まあ、公爵の場合は荒野だったチェリッシュ領で生き抜くために戦闘もこなしていらっしゃいましたからね。エドウィン様はまだ戦闘を経験していらっしゃいませんのでGランクから始めます。ハリー様やヴァイオレット殿下もいらっしゃいますからね」
そりゃそうだ。俺はホッとした。母様もそこまでは望んでいないだろう。
「Gランクの依頼は主に薬草採取か清掃、森のゴブリン討伐です。パーティで依頼を受ける場合はFランクの依頼も受けられます。ホーンラビットやスライム、スモールラット、ビックラットの討伐依頼があります」
「オーソドックスですね。まあ初回ですし、戦闘よりも採取依頼の方が安心ですかね?」
「お、慎重だね」
「僕一人ならゴブリン討伐でも良いんですけどね。殿下もいらっしゃるし、採取中にゴブリンを偶然討伐したら提出すれば良いでしょうから」
「たしかに、最近はゴブリンが少し多いって聞いたからな。採取依頼で良いだろ」
「何だか申し訳ありませんわ……」
自分がいなければ迷いなく討伐依頼を受けるのだろうと思うと、どうしても申し訳なく思うのだろう。
「いえ。最初から強い人はいませんから。殿下も少しずつ強くなれば良いのですよ。最終的にはチェリッシュ領のダンジョンを周回できる程度には強くなっていただく予定ですし」
「「「「……え?」」」」
「そうじゃないとチェリッシュ領に嫁ぐのに不便ですからね」
そのくらいは強くならないと往来の時に大変だ。いくら護衛が付くとはいえ、少しは戦えないとな!
「お、鬼ですわ……!」
「エドウィン、手加減してね?嫁入り前のお姫様だよ?」
「大丈夫です。僕がお嫁に貰いますから、問題ありません」
「そうだけど、そうじゃねぇ……!」
「大丈夫だって。土魔法と氷魔法が使えるなら、うちのダンジョンはボス以外ならいけるさ。ボスは魔導具が必要だけどね」
「……そうか」
ハリーは色々諦めたらしい。クリフトン先生は不安そうなヴァイオレットを慰めている。
「やれやれ……。線の細い穏やかなご子息だと思ってたが、中身はやはりあの公爵の息子だな……」
「正確には弟ですけどね」
「そうだな……」
アルフィーとクレアは苦笑いをした。
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