裏の世界
「さーて。そろそろお口は柔らかくなったかしら?」
裸で磔になった魔族を前にシャーロットは満面の笑み。それだけで誰もが逃げだしたくなる。
「もう爪は全部ないし〜、角も根元から抜いてやったし〜、魔導具の電圧は魔族用に上げたし〜、足の裏も魔族用の特別仕様のムチで叩いてたから皮がなくなってるし〜、腕と足の関節は外れてるよ〜」
アラーナは嬉しそうに言う。きっとさっきまで断末魔が響き渡っていたのだろう。魔族は既に息も絶え絶えの状態だ。
「『契約』は無効にしておいたし、遠慮なく尋問できるわね。さあ、話してもらいましょうか?どうしてうちの領地に侵入して来たのかを」
「に、人間ごときが……!」
「あら~、まだ拷問が足りなかったかな~」
アラーナはそう言って魔導具を動かす。手枷足枷から電気が流れる。
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ふふふふふふふふ!いい声~!」
「楽しそうでなによりだわ」
アラーナの楽しそうな笑顔にシャーロットは苦笑いをする。この電圧は人間なら即死する。逆に言えば、魔族はこれでも死なない。
「さて、お話してくれるかしら?」
遠慮ない拷問。そしてこの影の持ち主である魔族でも震え上がる殺気を垂れ流す女の笑顔の尋問。これに抗う術を魔族は持ち合わせていなかった。素直になった魔族は洗いざらい吐いた。
「エドウィンの予想通り、魔王の目的は『表の世界』の侵略。人間の召喚師に魔王を召喚させて誘惑し、こちらの情報を流させると共に、陛下を筆頭とした王族を根絶やしにして、その座に魔王が着く事で侵略しようとしていた様です」
シャーロットは貴族会議で説明した。ノア達の報告はまだだが、魔族の尋問結果だけでも報告する事にした。
「しかし、お披露目会の時にシャーロット嬢に追い払われたのに、今度は領地を襲撃とは。奴らも学ばないというか何というか……」
バークマン侯爵は報告書を読みながら言う。
「あの時の魔王は、あれが切っ掛けで魔王の座を降ろされたそうです。良くも悪くも実力主義ですからね。そして新たに魔王の座に君臨したのが、今の魔王です。
しかし今回に関しては魔王の指示でもないのだそうです」
「どういう事じゃ?」
陛下は首を傾げる。
「今の魔王は私のいる王国への侵略を慎重に考えている様です。しかし魔族は統率を取れる種族ではない。魔王の慎重論に反抗的な魔族も当然います。そんな彼らを率いる魔王がいるそうです」
「魔王が2人になったという事か?」
「そういう事ですね。彼らとしては『人間の幼女ごときにやられる訳がない』と言っているそうです。とはいえ一度は撃退された事実がある。そこで策を講じた。それが、人間の召喚師を使った襲撃です」
慎重論の魔王はまだ若いらしく、もう1人は前魔王の補佐的な役割を担っていた魔族だそう。つまり人望が桁違いなのだ。それ故に、今回の襲撃を企てた魔王に付いていった魔族も多いらしい。
「その慎重論の魔王はこちらへの対応はどうするのじゃ?」
「話し合いをしたいそうです。そして上手く行けば貿易をしたいと言っているらしいです」
「貿易?」
「はい。『表の世界』に拠点を作り、そこから『裏の世界』だけで豊富に採掘される鉱石と魔石を輸出したいと言っているそうです」
「ほぉ。その鉱石とはどういうものなのじゃ?」
「詳しくは分からないそうです。もう少し頭の良い魔族を捉えられたら良かったのですけどね。分かったのは、魔石に近いものではある様です。もしかしたら属性付き魔石の類かもしれません」
魔石は元々マグマの近くで採掘される。マグマだらけの『裏の世界』なら豊富に取れるだろう。魔石のベースはクリスタル。つまりクリスタルの類であるモリオンなどの鉱石が何種類かあるのではないだろうか。それが魔力と共鳴して属性魔石になっているとしたら、その鉱石を魔石とともに輸出したいと思っているのも分かる。
「なるほど。魔族には必要がなくても人間には有用な鉱石じゃ。魔石と共に輸入できるのは魅力的じゃ」
「それが本当の話なのかを確かめるためにも、若い魔王とコンタクトを取りたい所ですが……」
そこまで話してシャーロットは黙る。影からノア、ノエル、ノーマンが出てきた。
「報告致します。魔族がこちらの世界に侵入する経路を特定しました」
「また、魔族と契約した召喚師も発見。捕縛致しました。しかし直後に自決。その直前に強引に尋問した結果、魔王と契約して国王を襲撃した事は認めました」
「こちらが報告書です」
「そう、ありがとう。休んでいいわよ」
「「「はい」」」
ノア達がいなくなり、シャーロットは報告書に目を通す。
「……なるほど。帝国に残る遺跡には魔族が出入りできる出入口がある様です。そこから魔族が入ってきている様です」
「遺跡にそんな役割があるとはな」
バークマン侯爵もシャーロットから報告書を受け取り読みながら言う。貴族達に報告書が回っていく。
「もしかしたら、昔は魔族との貿易も行っていたのかもしれませんね。何らかの理由でそれが途絶えてしまって、魔族としても輸入に頼っていたものがなくなった」
「うむ。場所もチェリッシュ領内にある。シャーロット公爵。頼まれてくれるか?」
「かしこまりました」
チェリッシュ領ブリストルにほど近い森の中にその遺跡はあった。前世で言うピラミッドの様な遺跡の中に、真っ暗な穴がぽっかりと開くゲートがあった。
「……間違いなく『裏の世界』に繋がるゲートね」
「初めて見たが、何とも禍々しいな」
バークマン侯爵はゲートを見て唸る。光魔法を使える彼にとって、このゲートの先は間違っても入ってはいけない場所に見えるだろう。実際その通りではあるのだが、シャーロットからしたら好奇心ですぐにでも潜ってみたい場所ではある。そしてそれは付いてきたエドウィンも同じだった。
「母様、この奥に魔族がいるのですね?」
「そうね」
「出てこないですかね?魔族」
「出てきたらどうするの?」
「取り敢えず話を聞きたいですよね!魔石の事とか!」
「頭の良い魔族なら知ってるでしょうけどね……」
「ああ、三下じゃあ知らないか……」
「魔族は魔王でさえも頭が悪い時があるからね」
魔族は基本的に頭が良くない。脳筋なのか、作戦も何もない。
「話が通じるなら何でも良いんだけどねー」
「その若い魔王さんなら話は通じるんだろうけど……」
とりあえず、今潜っても話は出来ないだろう。監視だけして一度戻るとしよう。
「公爵はこの後どうするのだ?」
バークマン侯爵は聞く。
「ドライヴァーに向かいます。あの近くにも遺跡がありますし、調査しに行きます」
「そうか。エドはどうするのだ?」
「連れて行きますよ。流石に遺跡には連れていきませんけど」
「え~……」
エドウィンはガッカリした声を上げる。流石に5歳のお披露目を迎えたばかりの子供をそんな危険な場所には連れて行けない。今回は魔族の狙いに気が付いてしまった本人にご同行願っただけだ。次に行く所にはドライヴァー公爵も同行する。いくらシャーロットとはいえ、ドライヴァー公爵とエドウィンを庇っての戦闘とか無理だ。バークマン侯爵は光魔法が使えるから、自衛くらいは出来るだろうが。すでにバークマン侯爵もクリフも光魔法だけでいえば大概なのである。
「遺跡を調べている間にドライヴァー領の散策をして様子を見てちょうだい。で、私に報告してちょうだい」
「なるほど!分かりました!」
ドライヴァーの街の視察を任されたということを理解し、俄然やる気が出てきたエドウィン。バークマン侯爵は笑っている。
「では、それに私も同席しよう」
「本当ですか!?」
「公爵の領地を視察するのは、私にとっても良い勉強になるからな」
「では、息子をお願いします」
「うむ」
チェリッシュ領ドライヴァーはチェリーの次に発展した街で、冒険者の街を謳ったチェリッシュ領の中で特に魔導具に力を入れている。産出された鉱石を使って魔導具を作り輸出も行っている。また工芸品も多く作られていて、アクセサリーは王族などに気に入られている。バークマン領も武器などを多く生産している職人の街だ。色々と参考にしたいのだろう。
シャーロット達は馬車に乗り、ドライヴァーに向かった。
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