転生者同士の会話と何処かで見た事あるお披露目会
屋敷に戻ったエドウィンは部屋で着替えてシャーロットのいる執務室に向かった。コンコンとノックをすると『どうぞ』という返事が返ってくる。入るとシャドーゴーレムが執事姿で手伝っていた。セバスチャンはエドウィンのお披露目会準備で忙しいのだろう。まあ、分かっていてこのタイミングを選んだのだが。
「エド、どうしたの?」
「母様に少し伺いたかった事があるのです。……母様と僕の『転生』について」
その言葉でシャーロットの表情が変わった。部屋に防音の結界を貼り、シャーロットはため息を吐く。
「……まさかとは思ったけど、やっぱりそうなのね?」
「はい、間違いなく。というか『戸籍』『医療費控除』『義務教育』に『年金』と来れば確定ですよね」
「まあ、そうだよね」
まさか同じ時代に転生者が2人もいるとは思わなかった。
「まあ、ラノベの定番で言えば『邪神が現れる』とか『魔王復活』とか言う所だけどね」
「そんな予兆があるのですか?」
「今の所はないね。ただ、帝国領ってまだ分からない事が多いのよね。だから予期せぬ事が起きてもおかしくはないわよね」
「あぁ……なるほど……」
「とりあえず、この領地を貴方に継がせる事は確定ね」
「まあ、吝かではないですね」
「でだ。私は行かなかったけど、貴方には学園に行って欲しいの。私が通ったらレベち過ぎて洒落にならない事件を起こしそうだったし、領地開発もあったからね」
「僕なら問題ない、と」
「一年遅れだけどハリーも入学予定よ。私と違って、今の貴方なら通っても問題は起こさないでしょうし、魔法も魔力もそこまで増やしてないから大丈夫よ」
「……」
「え、まさか隠れて増やしてた?」
「……ゴメン。多分、平均は軽く超えて既に学園に通ってる子達と同じくらいにはなってると思う」
「……聞かなかった事にする」
「うん、そうして」
「ちなみに闇魔法は?」
「一通り使えるよ」
「デスヨネー」
だってお披露目まで領地に出れないから暇だったんだもん。しょうがないよね!
「まあ、私だって同じ様なもんだから何も言えないわね。まあ、私っていう前例があるから大概の事は『あの公爵の息子だから』で解決するだろうけど、闇魔法だけは使い方に気を付けてね。この世界ではまだ闇魔法は差別対象だから」
「分かった。【シャドーボックス】と【シャドードール】と【シャドー】だけにしておくよ」
「そうして頂戴……」
母様はぐったりしている。色々察したのだろう。ゴーレムは流石に自重する事にした。
「使えるものは仕方がないし、少し鍛えておきましょうか」
「鍛える?」
「うん。シャドーと意思を『共有』して言葉を介さなくても意思疎通を出来る様にするの」
「ああ、そう言えば母様は出来てるよね」
「うん。毎日やってれば出来る様になるわよ」
「頑張る!」
すると部屋がノックされてセバスチャンが入って来た。
「エドウィン様。お披露目会の準備をお願いします」
「はーい!では母様、失礼します!」
エドウィンは執務室を出て行った。
「何かあったのですか?防音結界まで張っておりましたが」
「……我が息子は規格外確定よ」
「と言うと……」
「すでに魔力が学生並みになってるみたい。あえて教えてなかったのに意味なかったわ」
「……流石はお館様の弟様ですね。自力で移動できる様になってからというもの、書庫によく行っていらっしゃいましたから」
「闇魔法もマスターしちゃったみたいだし、しょうがないから制御を教えて自重してもらうわ。自重だけ教えても意味ないし」
「それがよろしいと思います」
夕方になり、屋敷ではお披露目会が行われた。代官とお抱え冒険者、カーディナル商会を代表してマイク、モニーク武具店からヴィンス、チェリッシュ公爵家の寄子貴族とバークマン侯爵夫妻、そして国王夫妻も出席する。乾杯の音頭は当然陛下が取る。この状況も大概である。
「それでは、チェリッシュ公爵家が長男エドウィン・フォン・チェリッシュの5歳の誕生日を祝って、乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
音頭と共に寄子貴族達の挨拶が始まる。
「ドライヴァー公爵家は旧帝国貴族でレックス・フォン・ドライヴァー副団長の実家よ」
シャーロットから説明を受けるエドウィン。レックスはシャーロットの護衛騎士兼副団長としてチェリッシュ私兵団に籍を置いている。よく実家の領地付近に出張して、それを口実に実家に顔を出しているのはシャーロットの計らいでもある。
「今度からエドの護衛騎士をやってもらうけどね」
「そうなんですか?」
「お披露目が終わったら領地を歩き回る事もできるからね。そうなると護衛は必要だもの。まあ、側付きはアラーナに任せるけど」
「母様の側付きでしょう?」
「私の側付きにしてたのはメイド教育も兼ねてたからね。あの子はもう立派なメイドだから、貴方の側付きにしても問題ないわ。私はアグネスに戻って貰えば良いだけだし」
「その手がありましたね」
いつまでも側付きを付けないのは体裁が悪い。どうせ領地からあまり出ない予定の公爵の側付きはメイド長でも問題はないのだ。いずれ領主となり引き篭もりの気質がなく動き回るであろうエドウィンにはちゃんと帯同できる子が必要だ。
「では、いずれドライヴァーの街にも来てください。チェリッシュ領の第2都市ですし、隣ですから来やすいですよ」
「確かに、遠出の練習に一度行きましょうか」
「本当ですか!?」
「仕事の話もあるから近い内に一緒に行きましょう」
「はい!」
5年間、屋敷にいたエドウィンにとって屋敷の外は未知の世界だ。冒険心がくすぐられる。
「利発なエドウィン様なら気に入るものも多いと思いますよ。遺跡などもありますし」
「遺跡?」
『そんなのあるの?』とシャーロットを見上げるエドウィン。
「帝国が王国より古いのではないかと言われた理由はそれなのよ。帝国には遺跡があるけど、王国にはないからね。まあ、単純に大き過ぎた王国領を分割して帝国にしただけなんだけどね」
「帝国ではその逆の話が主流でした」
「視点の違いですかね。戦争だって勝者視点の話しか残りませんから」
「歴史なんてそんなものよ。だから先の帝国との戦いも帝国視点の話も書き残してるしね」
「もしかして、旧帝国貴族や旧帝国民に話を聞いて回っていたのはそれが理由ですか?」
「ええ。敗者に語る術はない。しかしそれでは後世に残る歴史が偏って伝わってしまいますからね」
「公平な資料作りは大切ですね」
「そういう事よ。常に広い視野を持つのよ、エド」
「はい、母様」
微笑ましい親子の会話に周囲は暖かい目で見ている。昔のシャーロットを知っている人達からしたら、ちゃんと母をしているシャーロットを見るのが嬉しいのだ。
「代官のアンディ・フォン・ベスビアスは分かるわね?このチェリッシュ領を開発するのに、彼がいなかったら過労で倒れる所だったわ」
「ははは!それは外出すると新しい仕事を持って帰って来てしまう公爵に原因がある様に思いますがね!」
「それでもよ。チェリッシュ領がここまで発展したのは彼のおかげよ」
「代官がいなければ情報の精査が大変ですからね」
「そういう事よ。その点で言えば、ベスビアス伯爵には感謝しているわ。優秀な代官を派遣してくださったのだから」
「お褒めいただき、ありがとうございます。まあ、褒めてくださっても書類は減りませんがね」
「貴方がハンコを押しても良いのよ?」
「それはいけません」
「そうよね……」
確かに執務室に行くと大量の書類で机が山になっているのをよく見る。あれを将来やる事になるのか……
「逃げたくなるのも分かりますね」
「でしょ?」
「逃げても増えるだけです。諦めてください」
「少しでも減らすために偵察ゴーレムを使ってるんだけどね」
「『焼け石に水』ですね」
「本当、それなのよ……」
シャーロットは頭を抱える。公爵は引き篭もりでも色々と忙しいのです。
「陛下。息子のお披露目会に足を運んでいただきまして、ありがとうございます」
「うむ。エドウィンよ、5歳の誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
「将来は義理の息子になるからのぉ。これからも精進するのじゃぞ?」
「はい」
陛下を最後に一通り挨拶も終わり、エドウィンは美味しい料理に舌鼓を打つ。腹が減っては戦はできないからね!
ふとシャーロットを見ると、窓から外を眺めている。何やら深刻そうな表情をしている。すると1人の怪我をした衛兵が走り込んできた。
「失礼いたします!公爵!領地内に数体の魔族を発見!戦闘が開始されました!」
魔族!?
「お疲れ様。大丈夫よ。うちには秘密兵器がいるから」
シャーロットはそう言って衛兵の怪我を回復魔法で治す。すると外で大きな吠え声が聞こえた。
「うちのワイバーンがお相手してるわ。最近、遠慮なく攻撃出来る機会も少なくなってたから丁度良いわ」
「……まあ、魔族でも双頭双極種ワイバーンなんて悪夢でしかないよな」
クリフは苦笑いしていた。いや、確かにシャーロットが昔から双頭のワイバーンを飼育しているのは有名な話だし、今は領地周辺に飛行系の魔獣が来ない様に警備してくれているのも周知の事実。でも、まさか魔族の相手をさせるなんて誰も思ってなかった。
「元々縄張り意識の強いワイバーンだもの。指示しなくたって追い払うでしょうけどね」
「指示なしに攻撃しない様にしつけたんじゃなかったか?」
「領内を荒らす魔獣や魔族なら話は別よ」
シャーロットはクリフを見る。
「私が苦労して開発した領地を土足で踏みにじる輩なんて、討伐以外に何があるっていうの?」
満面の笑みのシャーロットに反論出来る猛者などいない。
「それにしても、王都でのお披露目会を思い出すのぉ」
陛下がやってくる。誰もが思い出した事。それは10歳のお披露目会の時、中庭に突如として現れた魔族だ。
「私も気になりました。あの時も陛下がいらっしゃる時でしたし、今回も……」
「まさか、陛下が魔族に狙われているのか?」
バークマン侯爵が声を掛けてくる。
「陛下を狙うとして最も有り得るのが領地の侵略ですが、魔族は縄張り意識はありませんし領地に興味があるとは思えません。それに、今偵察ゴーレムで見ているのですが、どう見ても『契約』をしている魔族なんですよね」
「という事は……」
「指示者が呪術師か召喚師ですね。闇魔法での『契約』ができる程、魔族は簡単ではありませんから」
闇魔法で『契約』をするなら心からの忠誠が必要だ。並大抵の人間がそれをできるとは思えない。
「母様」
エドウィンがシャーロットのスカートを摘んで引っ張る。
「何?」
「魔族は領地を持たないのですよね?」
「ないわね」
「では魔族は何処で暮らしているのですか?」
「『裏の世界』にいる、と言われているわ」
「そこは領地、という概念はないけど確かに魔族は暮らしているのですね?」
「そうね」
「統治している国王や魔王の様な存在は?」
「それはいるわね」
「その魔王が仮に『表の世界』であるこの世界を侵略しようとしていたとしたら、どうなのでしょう?」
「……なるほど」
シャーロットは少し考える。
「魔王がこっちを侵略しようとしている。そのためにこっちの呪術師、もしくは召喚師と『契約』して襲撃しているとしたら、ある程度の辻褄は合うわね」
「しかし領地は要らぬのじゃろう?」
「領地はいらないでしょうね。でも……」
「『領地』はいらなくても『世界』は欲しいのかもしれませんね」
エドウィンは言う。
「『世界』が?」
「魔族の暮らす『裏の世界』というのがどういう環境なのかは分かりませんが、こんな緑生い茂り太陽が降り注ぐ場所ではないでしょう。水の代わりにマグマ。草木は枯れて食料は魔獣のみで野菜などはない。まあ、勝手な想像ですが、大体の共通認識ってこんなところではないですか?」
「何処の地獄よ。まあ、私もそんなイメージだけど」
「物語でもそう描かれているからな」
シャーロットとクリフは苦笑いしながらも同意する。
「そんな所で暮らす魔族からしたら、『表の世界』は魅力的ですよね?資源も豊富ですし、肉以外にも食料はある。原始の魔族が好んだと言われる侵された人間の魂は掃いて捨てる程あるでしょうし、人間の肉そのものも美味しいと言われていますし」
「特に女性は色んな意味で美味しいと言われているものね。男だって捕虜として生け捕りにして領地運営を続けさせれば安定して食料なども確保出来る、と。エド、アンタ恐ろしい事に思い至っちゃったわね」
確かにそうだ。
「申し訳ありません……」
「まあ、実際それは想定されるから仕方がないんだけどね。……ノア、ノエル、ノーマン。出番だよ」
足で床を叩くと、シャーロットの影から黒のローブを羽織った3人が現れた。
「魔族の足跡を追ってちょうだい。何処から来たのか、こちらの指示者・契約者がいるのかどうか。いるとしたら誰なのか」
「「「かしこまりました」」」
3人は答えて影に溶けていった。そしてシャーロットはまたコンコンと床を叩く。
「魔族を生け捕りにしたからお願い。殺さなければ何をやっても良いわよ。魔族はそんな簡単に死なないし、貴女のコレクションを総動員してやっても壊れないと思うわよ」
「生け捕りにしたんだ……」
「尋問したかったからね。とりあえず拷問にかけてお口を緩ませておかないとね」
「ああ……アラーナの『えげつない性格』が理解できたよ……」
「良かったわね」
「嬉しくない……」
その場にいた全員が賛同する。
こうしてお披露目会は終了した。念の為に陛下夫妻の帰りにシャーロットも同行した。ついでに被害状況を見に行き、思いのほか騎士の被害が多いのを見て、今すぐにでも魔族の世界を消滅させてやりたい衝動に駆られた。そしてシャーロットよりも早く到着していたジェイクに宥められた。
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