ヴィンス視点
俺はヴィンス・ド・モニーク。モニーク武具店の店長の次男だ。本店は兄貴が引き継ぐから俺は冒険者にでもなろうかと思って学園に入ったら、同級生のクリフ・フォン・バークマンに『チェリッシュ公爵令嬢がお前に会いたがっている』と来た。俺は会った事もないが、どうやらチェリッシュ領は絶賛開拓予定らしく、魔獣も強いことからモニーク武具店に協力して欲しいって話らしい。そう言う貴族の関係は親父が断るだろうと思ったら『お父さんの許可はとったらしい』との事。あの親父を説き伏せた!?どんな公爵令嬢なんだよ、と興味も湧き会ってみると、スッゲー美人なご令嬢だった。一見すると虫も殺せそうにない人形みてーなご令嬢だが、親父から鍛えられたから分かる。コイツはヤバイ奴だ。一瞬で倒される自信がある。俺だってそう簡単には負けねぇ自信はあるが、コイツには敵わねぇ。足元にも及ばねぇ。それがすぐに分かった。家に帰った時に親父に聞くと『あの子は本物だ』と一言だけ言って仕事に戻った。店の人間に聞くと、シャーロット嬢をみた瞬間に跪いて『モニーク武具店、店長をしておりますテリー・ド・モニークと申します』と挨拶をしたらしい。貴族嫌いな親父が跪く相手という事もあってか周りも慌てて跪いたらしい。そしてチェリッシュ領への出店を快く引き受けたらしい。
『冒険者の街』を謳うという事もあって、とにかく武具は需要があるだろう。また素材の買取も頻繁にあるだろうという事で、商会さながらの店を出す事にした。まあ、カーディナル商会に協力してもらったから出来た事だ。……相談料は高かったけどな。
そんな事だから、忙しいのは覚悟してたさ。武具が作った側から売れていくとか、作り手が足りなくて本店から追加で派遣してもらったり。その辺も想定内だった。しかし……
「バークマン領に武具の輸出を頻繁にしなきゃいけねぇのは予想外だろ!」
「しょうがないでしょ。帝国が陥落して王国に吸収されるなんて誰も想定してなかったわよ」
「公爵のお抱えになったら驚く事ばっかりで楽しいっす!」
今いるのはチェリッシュ領とバークマン領の間を走る街道沿いにある宿屋。食堂でメシを食いながら同級生で一緒にお抱えになったセレスト・アストラとモーツァルトと話している。そう、旅商人の様に毎日領地間を行ったり来たりしているのだ。流石にこの忙しさは想定外だろ!?そりゃあ公爵だって帝国がなくなって王国領になるなんて想定外だっただろう。領地が想定以上に増えたのだって頭を抱えてたし、開発だってどんだけ金掛かるんだって話だ。分かるよ!分かるけどさ!
「チェリッシュ領の方はカーディナル商会で持ってくれてるだけ良いと思うっすよ?あれまでモニークで持ってたら人が足りないっす」
「確かにねぇ。チェリッシュ領は冒険者ギルドから護衛を派遣してもらうからモニークについて来てるけど、この半年くらいは領地にいる時間が少ないものね。こっちだけでこれだもの。領地内の分もやってたら私達、バークマン侯爵にお茶をいただく余裕もなくなってたかも」
確かにそうだ。1ヶ月に何度もバークマン領に行っているからか、バークマン侯爵が労いのお茶会を開いてくださる。シャーロット公爵がバークマン侯爵にお願いしたらしいが、侯爵も息子の同級生という事もあってか自分の子供の様にしてくれる。バークマン領もチェリッシュ領と同じ様に開発ラッシュで忙しいだろう。それでも一緒にお茶をして話をしてくださる。親元を離れている身としては何となく親と話している様にも感じてありがたい。セレストなんかは留学中だ。人種も違う、文化も違う、そんな環境で気遣ってくれる侯爵に感謝している。俺だってこのお茶会がなかったら精神的にもキツかっただろう。
「まあ、この街道沿いの宿屋だって大概だしなぁ」
「そうね。野宿の必要がないのはありがたいわ」
「そういう意味では恵まれてるっす」
そんな話をしているとガタイの良い冒険者達がズカズカと入ってくる。
「おい!ガキ共邪魔だ!」
「ガキはさっさと寝ろよ!」
俺達に向かって喧嘩腰に言う。久しぶりだな、こういうの。俺達も顔が知られてきてるから、最初こそあったものの最近はご無沙汰だった。
「はぁ。煩いから部屋に戻りましょう」
「だな」
「うぃーっす」
3人で食堂を出ようとすると、想定内というかセレストが声をかけられた。
「よぉ、姉ちゃん。俺達の相手して行けよ」
「嫌よ。明日も早いし忙しいし、何より『ガキは早く寝ろ』と言ったのはあなた達でしょ?10歳に発情しないでくれない?」
セレストは見た目こそ成人している様に見えるが、まだ10歳で成人どころか子供だ。そんな子に『相手』をさせたら犯罪だ。
「嘘つくなよ!」
「こんな発育の良い10歳がいるわけねぇだろ!」
「本当よ、ほら」
カードをだすと、身分が表示される。確かに10歳である事に驚く冒険者達。
「こんなガキに発情するとはね。趣味は良いけど、手を出したら犯罪だから止めておきなさい」
あらら、冒険者達の顔が真っ赤だ。そんな彼らを置き去りにして俺達は部屋に戻った。セレストだけは個室、俺とモーツァルトは共用だ。あの冒険者を考えると普通は心配になるが、それは『普通は』だ。深夜に何やら廊下で騒いでいる声が聞こえたが、眠気には勝てずにそのままぐっすりと眠った。
次の日の朝、起きてきた俺達にセレストはおかんむりだ。
「どうして助けに来ないのよ!」
「いや。どうしても何も、魔導具あるじゃねぇか」
「僕達、必要ないっすよね?」
「それでも普通は様子見に出てくるでしょ!?」
「いやいや。お前が襲われるとかねーよ」
「相手が人間なら心配ないっす。魔獣ならともかく」
俺達は専用の魔導具を持っている。部屋への侵入者を防ぐための魔導具で、『セレストは狙われ易いだろうから』と言ってシャーロット公爵が持たせたものだ。これがあるのに心配なんてしない。
「アンタ達ねぇ!!」
セレストが拳を振り回して俺達を襲ってくる。
「止めろ!これで心配しろって方が無理だろ!」
「セレストさん!拳は止めてくださいっす!せめて平手でお願いするっす!」
朝っぱらから大騒ぎして朝食を済ませて宿を出た。
ちなみに俺は鳩尾に一発、モーツァルトは後頭部に平手をそれぞれ喰らった。居合わせた冒険者達から笑われた。
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