属性付き魔石と寄親寄子
帝国崩壊から半年が経った。帝国は正式になくなり、王国領となった。王都は旧帝都に移動し、王都だった場所は第2都市として発展させていく事になった。それによって帝国と王国に挟まれる形となっていたエルフの里が王国の中に入り新王都の横という好立地になったのは良い副産物だった。
チェリッシュ領は旧帝国領の領地2つを賜る予定だったが、5つの領地を頂く事になってしまった。これは反乱軍の中に入らなかった貴族の中で王国に反乱を起こしそうな貴族から奪った領地だけではない。元から王国の貴族だった者が帝国貴族と内通して王国内で反乱を起こそうとしていた貴族の領地もチェリッシュ領として組み込まれてしまったのだ。
流石に手に余るという事で、シャーロットは陛下に寄親寄子制度の導入を提案した。これは派閥に近いもので、寄親となる派閥のトップが寄子の貴族の面倒を見るというもの。反乱軍に入った旧帝国貴族を寄子にする事で、膨大に増えた領地の運営をしやすくするのだ。旧帝国領は王国貴族で分けられ、飛び地となってしまった貴族も多い。そこで寄子になった旧帝国貴族に運営を任せて、代官を通して報告を上げさせてそれを王国に報告するというシステムだ。もちろん定期的に遠く離れた領地への視察は必要だが、それはシャーロットの転移型ゴーレムを貸し出す事で解決した。
転移型ゴーレムの仕組みは闇魔法を使い、ゴーレム同士を繋げるというもの。シャーロットの使っているゴーレムは本人の闇魔法で使っているが、他の貴族はそうはいかない。そこでシャーロットが領地で偶然発見した鉱石の出番である。それは前世でもパワーストーンとして有名だった黒水晶モリオンだ。チェリッシュ領には火山がある。そこの地下深くをストレス発散に採掘していたら見つけたのだ。確かにシャーロット自身も『あったら良いなー』位は思っていた。『ついでに温泉でも出ないかなー』とも思っていた。そして温泉を掘り当てて喜んでいたら、近くでモリオンも見つけてしまったのだ。透明な水晶も見つかり、色々と疲れたのは言うまでもない。
そして鉱石を調べると、この世界においてパワーストーンは『属性を持つ魔石』という位置づけらしく、モリオン は闇魔法の威力を上げる事が出来るという事が分かった。パワーストーン が魔力を持つと属性付き魔石と言う位置付けになるとは思わなかったなぁ……。しかも魔石に闇魔法を付与して転移用ゴーレムを作ると魔石がいくつあっても足りないという問題も解決した。普通の魔石に属性魔法を付与すると、魔力を属性に変換する過程で余計な魔力を消耗するのだ。これは闇・光・氷の魔法だけに起きる現象で、木・火・土・金・水・風は上級の魔法を付与しても消耗はそこまででもない。だからゴーレムに組み込むと魔石の消耗が激しいのだ。しかしモリオン は既に闇魔法属性が付いているので、それを組み込めばモリオン1つで転移用ゴーレムを100回は使えるという事は実験済みである。
そんな好条件が整ったという事もあり、陛下は寄親寄子制度を導入。どの旧帝国貴族が寄子になるかは爵位で決められた。公爵だったドライヴァー家は当然チェリッシュ公爵の寄子となった。チェリッシュ領が膨大に増えた理由はここにもある。たまたまドライヴァー公爵領が近かったので、チェリッシュ領の一部の運営を任せる事になった。その他にアクロイド侯爵家、ブリストル伯爵家、カーペンター伯爵家、フィッツロイ子爵家、ホプキンズ男爵家、リットン男爵家が寄子となった。元帝国貴族だから民も他国の人間よりは安心出来るだろう。
「運営はチェリッシュ領の運営に合わせて頂きます」
「それで問題ありません。このシステムは画期的ですよ」
ドライヴァー公爵は感動して言う。この日、シャーロットはチェリッシュ領主館で寄子となった貴族達と会議を行っていた。
「領民の人数も把握できますし、税金を納められずに路頭に迷う民も減ります」
「旧帝時代に路頭に迷う状態だった民は教会で保護し、就労支援を行います。読み書き算術を教えておけば大概の仕事は出来ますから。あとは本人のやる気次第ですが」
「やる気のある者は上がってこれる。素晴らしい事ですよ。帝国ではやる気があっても平民と言うだけで理不尽な扱いを受けていましたからね」
ドライヴァー公爵の言葉に皆一様に首を縦に振る。選民思想が根強い中、ドライヴァー公爵と反乱を起こした軍の中枢にいた彼らは、平民という身分に苦しむ国民に心を寄せていた様だ。民の信頼も厚く、彼らなら領地を任せても問題ないだろう。
「早急に対策が必要なのは城壁ですね。各街に城壁がないんですよね……」
「はい。城壁を作るという事は帝国に歯向かう気があるという事だと言われていましたから」
フィッツロイ子爵は言う。新たにチェリッシュ領になった領地を視察した時は驚いた。何しろ魔獣対策は対策と言って良いのかわからない程の木の柵のみだったのだから。当然魔獣は入ってき放題だったし、視察の最中にも魔獣が来るわ来るわで、これでは視察にならないからと結界で街ごと囲った。そしてチェリッシュ軍を総動員して各街に派遣し、シャーロットが行くまでは防衛していてくれた。チェリッシュ軍もシャーロットの日々の訓練で腕を上げているため、ワイバーンも単騎でなければ討伐出来るまでになっていた。
「魔獣からの防衛はどうしていたのですか?」
「建物に籠り、籠城戦です。窓から弓矢や魔法で攻撃したり、剣士達が前線に出て戦ったり.......当然死者は多く出ていました」
「それでも皇帝は城壁を作るのを許さなかった.......」
「『民は産めば増える』『愚民が死んだから何だと言うのだ』というのが口癖でしたからね」
「王国でそれは到底許されません。すぐに城壁建設に入ります。建物も建て直しましょう。再開発です」
シャーロットは会議机に大きな新チェリッシュ領を描いた地図を出す。そこには既に再開発の草案が描かれていた。
「この辺は元々魔獣も多く強いです。城壁は堅牢でなければいけません。街を繋ぐ街道はしっかり舗装し、馬車が安定して通れる道にします。場所によっては距離もありますから、街道の途中に宿や食事処を作ります。あまり街が一つ一つ大きくても管理運営が大変です。街一つはコンパクトに。寄子の人数である7つの街に分けるつもりです」
「なるほど。その方が運営はしやすいですね。管理者の目も届きやすい」
「そして街一つを小さくする事で管理費用を抑えられます。そうする事で税金を出来る限り安くします。とは言っても他の領地よりは高いですが、その分保証は充実してますから」
「ギルドや教会で身分証の発行。医療費は大人が3割、子供が1割負担。成人前の子供の学費は免除。養う家族がいれば納める税金は割安になる。しかも子供は成人するまで納税義務なし。大人の税金が多少高くても納得出来ますよ」
前世では当たり前のシステムだが、この世界では画期的なシステムなのだ。ちなみに、高齢の人で介護が必要になった人に関しては税金は控除される。働けない人まで同じ税金では負担が大きすぎるからだ。そして定められた年齢以上の領民で働けない人には領主から一定額の給金が支払われる『年金』も導入。収入がある人はともかく、収入のない人を若い人たちで支えるのは困難を極める。そこで税金を使い『年金』という形で、贅沢さえしなければ一定レベルの生活出来るだけのお金を支給するのだ。
チェリッシュ領は腕の良い冒険者が多いので収入もそこそこ多い。他の領地より税金が高くても、控除されたり安くなったりすれば生活費が多くなり買い物も増える。経済の循環も大きくなり領地の収益は上がる。店からの税金は売り上げの2割と決めてある。広場での出店に関しては場所代は取っていない。その代わり広場に常駐している衛兵にカードを提示し申請した上での出店を義務付ける。つまり売れなければ納税しなくて良いという事でもある。これも画期的なシステムらしい。まあ、実店舗を持っている人は売上がなくても場所代を払わないといけないが、この領地で全く売れないという店はそうそうない。
帝国が陥落し王国領になった。闇魔法使いとして恐れられていたチェリッシュ公爵は反乱軍をまとめる手助けをしてくれた。そして反乱軍を率いた貴族達を寄子として受け入れ、領地運営を任せてくださる計らいまでしてくださった。まだ幼い公爵だが、その手腕は大人顔負け。時折見せる感情を持たない瞳も、その生い立ちを考えれば当然の事と言えよう。
これから先、何があろうとシャーロット公爵に忠誠を誓い、この身を盾にして彼女を守り続けて行こうと誓ったドライヴァー公爵達だった。
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