売られた喧嘩は高額買い取り
帝国との交渉は約1週間に渡った。皇帝は代表を立てず、何と自ら交渉にでて来た。流石に予想外で、急遽国王が出ていく事になった。というのも、皇帝が自ら交渉の場に出てくるという事はあり得る事ではなく、その相手を侯爵が行うという事は失礼に当たる。皇帝もそれをわかっていてわざとやったのだろう。しかし王国も黙ってやられるわけではない。事態を知ったシャーロットが転移用ゴーレムで交渉の場に陛下を送り届けたのだ。諸刃の刃となってしまった皇帝は完全にペースを乱される形となった。
王国は『理由なき戦争』『宣戦布告なしの進撃』『帝国騎士の無傷の捕縛』を武器に、帝国領と騎士団長及び帝国騎士半分の譲渡を提案する。一方の皇帝は『王国領はそもそも帝国の領土だ』『帝国領に進軍して何が悪い』と言う。領地は欠片も譲らず帝国騎士を無条件で返せと来た。交渉は平行線を辿り、このままでは兵士のいない帝国に王国軍が進軍する事になると国王が最後通告を出すと、皇帝は領地はやらんが騎士団長と騎士はくれてやると言った。これといって王国側に被害がなかったのもあり、これで手を打つ事にした。変に長引いても疲れるだけだ。
結果として騎士団長と騎士を半分、帝国魔法師団の魔法使い半分を頂戴した。それは今後の事を考え、戦力を削っておこうという作戦だった。立案はシャーロット。そうすれば騎士団長だけより目立たないと思ったのだ。表向きは捕虜だけど、捕縛した騎士の中で使えそうな騎士をシャーロットが人選し陛下とバークマン侯爵に進言したのだ。皇帝は領地を取られないと言う目先の事を優先し、騎士などまた増やせば良いと思っているのだろう。
しかし、シャーロットの人選から漏れた騎士は実力や人格が宜しくない人間ばかりだ。優秀な人材は全て頂いて、帳尻合わせで頂戴した騎士は根性から叩き直し、それでも駄目な騎士は捕虜として鉱山に送ろうという事になっている。そう、頂戴する騎士の中に帳尻合わせに何とか人選した程度の騎士が入っているという事は、帝国に戻される騎士は本当に使えない騎士しかいないのだ。これで帝国は暫くは大丈夫だろう。
騎士団長はシャーロットの要望通り、チェリッシュ領でシャーロットの捕虜兼護衛騎士として頂戴出来る事になった。皇帝は王国にスパイを送り込めたと思っている様だ。しかしそうはいかない。今回捕虜として頂いた騎士達には魔導具の首輪を付けさせる。これには闇魔法で【服従】という付与がされていて、裏切ろうとすると自動で首を締められるのだ。当然スパイ工作をしようとしたら文字通り首を絞める事になる。ちなみに、帝国騎士の中には心から帝国に服従している騎士ばかりではない。王国に捕虜として引き取られた事を内心喜んでいる人間も結構いる。そんな彼らには最初こそは魔導具を装備させるが、シャーロットの見極めで外す者も出てくる予定だ。騎士団長もその一人。しかも彼に至っては名目上は『護衛騎士』なので常にシャーロットに帯同している。つまりシャドーゴーレムが直接見張っている。そのため魔導具は付けていない。
彼の名前はレックス・フォン・ドライヴァー。実家は公爵家だそうだ。実家は姉婿の義兄が継ぐ予定で、自分は剣の腕があったと言う事と、帝国貴族は複数人の子供を作りそのうちの1人を帝国騎士として差し出すという決まりがあるそうだ。帝国の軍事を維持するため、というのは建前。本音は人質だ。帝国を裏切る事がない様に、国に人質を差し出すのだ。ドライヴァー家ではレックスが唯一の男の子だが、それでは帝国騎士になる者がいなくなってしまう。そこで長女に婿養子を貰い、レックスを帝国騎士にしたのだとか。
「という事は、ドライヴァー家は帝国に従う必要はなくなったって事かしら?人質がいなくなっちゃったし」
「姉の子供はまだ幼すぎて帝国騎士にはなれませんからね。しばらくはそうなりますね」
「……それって反乱のチャンスじゃないの?王国の捕虜になった騎士の実家は人質がいなくなったんだから」
「やるかどうかはともかくとして、出来ますね」
「ふぅん……」
シャーロットは笑っていた。それはもう獰猛な笑顔を浮かべていた。
「あー、チェリッシュ公爵。何を考えておるかは分からんが、今は貴族会議の最中だと覚えておるかの?」
「あら、失念しておりましたわ」
わざとらしく丁寧に言う。陛下は苦笑する。バークマン侯爵や警備にいるエイベル達も慣れたのか平気な顔をしているが、他の貴族は冷や汗をかいている。今度は何をやらかす気だ、この公爵。
「陛下。今、帝国領が全部王国領になったら困りますか?」
「……いや、困る事はないな。むしろそうなれば、王国はこの大陸で最も大きな国となる。王国としてはとてもありがたい話ではある。あるのだが、そんな事はできるのか?」
「今なら、可能ですね。許可をいただけるなら、私オンディーナ王国第一位公爵シャーロット・フォン・チェリッシュ。我らが賢王エルドレッド・フォン・オンディーナ国王に帝国領を捧げます」
「……帝国から吹っかけられる喧嘩にうんざりしていた所だ。できるならやってくれ。手打ちしたとはいえ、いつまでも喧嘩を売られっぱなしでは王国としても情けないからのぉ」
「承知いたしました」
シャーロットはそう言って偵察ゴーレムを出した。その数1000体。ゴーレムはエイベルが開け放った窓から飛び立った。
「レックス。捕虜にした帝国騎士の実家を全て教えて。その実家の領地や屋敷のある場所。分かる限りで良いから」
「わかりました」
会議テーブルの上に広げられた地図の上で駒を置きながら、レックスは捕虜となった騎士の実家領地の領主館、また領地を持たない貴族は帝都にある屋敷の場所などを詳細に語った。
「主軸は貴方の実家、ドライヴァー家ね。お父様はどういう思想の持ち主かしら」
「そうですね。建前は皇帝に忠誠を誓う上級貴族です」
「本音は?」
「暗愚の皇帝にうんざりしていたが、俺という人質を取られてしまって身動きの取れない公爵です」
「……運よく、帝都の屋敷にいるみたいね。さて」
シャーロットは椅子に深く座り、目を閉じると魔力を練り始めた。膨大な魔力。暴走すれば今いる城なんて欠片も残さずに吹き飛ぶ量だ。その魔力は全て闇魔法になり足元の影に流し込まれていく。
「……ふぅ。この魔法は疲れるわね。魔力増やしておいて良かったわ」
「闇魔法なのは分かったが、それ以外は分からんな」
「影にいたシャドードールが一斉にいなくなったのは分かりましたが、それ以外は分かりませんでしたな」
「それが理解出来れば十分ですよ。バークマン侯爵、光魔法の練度が上がりましたね」
「公爵嬢の魔導具のお陰ですな」
バークマン侯爵の言った通り、シャーロットは数十体のシャドードールを使った魔法を行使した。
「さて。帝国貴族達はどう動きますかね?」
ふふふっと可愛らしい、まるで悪戯をした子供の様に笑うシャーロット。陛下はもう諦めたのか、我が子の成長を喜ぶ様な好々爺の様な表情を浮かべた。この国王と公爵、絶対敵に回してはいけない。
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