表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/45

帝国騎士団長 視点

「.......尋問の許可は降りたわ」


足元から黒い触手が出てきて渡された手紙を読む少女は言う。シャーロット・フォン・チェリッシュ。最近公爵になったばかりの齢10の少女だ。皇帝いわく『最近公爵になりたてで領地の開拓に大忙しらしいからな。今攻めるとしたらチェリッシュ領が簡単だろう』だそうだ。その根拠は『まだ子供』で『女だ』というだけ。その条件で公爵になった理由を考えないところが『暗愚の君』と言われる所以なのだろう。

チェリッシュ領に進軍しながら嫌な予感は拭いされなかった。長年騎士団長を務める己の第六感が『引き返せ』と警告している。騎士達は俺がどうしてそこまで神経を尖らせているのか理解できないらしい。騎士達からしても『親の爵位を受け継いだだけのガキ』としか思っていなかった様だ。

ところが蓋を開けてみればどうだろうか。俺達は一太刀も振るう事が出来ずに拘束されてしまった。しかも全員無傷だ。地下牢に入れられた俺達の目の前にはまだ幼い少女が立っている。この子がチェリッシュ公爵……。


「おい!ここから出せ!」

「栄えある帝国騎士にこのような振る舞いをしていいと思っているのか!」

「アンタら五月蝿い」


少女は面倒くさそうに言って指をクイッと曲げる。すると地面から俺達を一瞬で拘束した触手が伸びてきて騒いでいた騎士達の口を塞いだ。モゴモゴと言いながら暴れていたが、全身を押えられてまともに身動きが取れない。俺以外の騎士達はあっという間に影の中に引き摺り込まれた。


「殺すんじゃないわよ。大事な人質なんだから。……さて」


少女は俺を見る。


「貴方が騎士団長よね。まあ、同情するわ。バークマン侯爵の領地よりこっちの方が確実だと思ったのでしょうけど、あっちの方が結果的に攻め落としやすかったでしょうね」


子供領主じゃ舐められて当然よね、と他人事のように言う彼女はあまりにも大人びている。とても10歳とは思えない。俺の下の影がザワついている。すると彼女はクスッと笑った。


「皇帝もバカね。こんな優秀な騎士団長の進言を無視して進軍させたんだから」


なぜ知っている?確かに皇帝には慎重に進軍すべきと進言していた。スパイでもいたのか?


「スパイではないわよ。そんなもの送り込む理由もないもの」


心を読まれた!?


「私は闇魔法を使えるからね。良くも悪くも、相手が考えている事が分かるのよ」


そういえばそんな話を聞いたことがあるな。これは隠し事をしても意味がなさそうだ。


「とりあえず、騎士団長だけでも引き取れないかなー……こんな優秀な騎士を暗愚の皇帝に渡しておくのはもったいないし」


『帝国との交渉でどうにか出来ないかな出来ないかな』とブツブツ言いながら考え込んでいる。すると後ろから金色の甲冑を身に付けた騎士に付き添われて貴族の男が来た。


「公爵嬢」

「バークマン侯爵。お早いお着きですね」

「転移ゴーレムを使わせてもらった」

「なるほど、早いわけですね」

「で、帝国騎士団は?」

「尋問中です。ここにいるのは騎士団長だけですね。帝国との交渉は誰が?」

「私に一任された。宣戦布告がなかった事といい、帝国騎士を総動員している事といい、良い交渉材料が出来たな」

「であれば、一つ交渉条件に入れて欲しいものがあるんです」

「ほぉ?」

「この騎士団長が欲しいです」

「.......そこで年相応のお強請りをされてもなぁ」


キラキラとした笑顔でバークマン侯爵にお強請りする彼女は確かに子供のそれだ。内容は全く子供らしくないが。


「帝国が応じるかどうか.......」

「どうせ使い捨てにしか思っていませんよ、皇帝は」

「まあ、な」


それはその通りなのだが、流石の皇帝もそんな簡単に応じるとは思えない。交渉を任されている侯爵は頭が痛いだろう。


「駄目ですか.......?」

「分かった分かった!やるだけやってみる!」

「ありがとうございます!」


うるうるとした目で言われた侯爵は困った顔で了承した。彼女の満面の笑みで苦笑いに変わる。この公爵、自分の武器が分かっているのかもしれない。


「本当は帝国領を少し頂こうと思ったのだがな」

「私の方の領地が今増えるのは困りますから」

「だったら優秀な騎士を捕虜としてでも欲しいって訳か。なるほどな」

「バークマン領の側を領地一つ分と騎士団長で手を打つとよいのでは?」

「あそこも結構なぁ……」

「大河を挟んでいるんでしたっけ?」

「大きすぎてなぁ」


帝国領の真ん中には大河がある。帝国内の物流の要とも言えるが、王国としては中途半端にあっても意味はないだろうし、雨期には氾濫もするため迷惑だろう。


「領地として組み込むなら物流の拠点に出来そうですけど」

「メリットが少ない」

「山脈のないこちら側では陸の方が良いですからね……」

「まあ、土地は良さそうだからな。何か利用方法を考えるさ」


親子の様な会話が終わり、バークマン侯爵は出ていった。


「.......あとは交渉次第ね。それにしても、全軍出撃だったのね。通りで多いわけよ。地下牢が足りないとか何なのと思ったけど。まあ良いわ。貴方は尋問の必要はないし、そこで大人しくしてて頂戴」


彼女はため息を吐いて地上に出ていった。本当に俺はここの領主の捕虜になるのだろうか。正直言って、暗愚の皇帝に仕え続けるよりは彼女の騎士になる方が良いかもしれない。

騎士達が地下牢に戻って来たのは、随分と時間が経ってからだった。一部は何もされなかった騎士もいた様だが、何かをされたのであろう騎士は一様に身体を震わせて何かに怯える様な様子を見せている。少しでも影が動くと恐れ慄き、恐怖で失禁する者も出てくる始末。何人かは心ここに在らずの状態になっている。何をされたのかを聞いても、その内容は要領を得ずまともな情報が出てこない。『悪魔』『魔物』と言った言葉がよく出てくるが、本当に何をされたのか。何もされていなかった騎士達は『ただ執事と世間話をして、お茶を頂いただけだった』と。何を喋らされたのかも分からないが、あの公爵が『殺すんじゃないわよ』という言葉もある。余程恐ろしい拷問をされたのだろう。

この夜から、誰1人として安眠出来る者はいなかった。


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ