いざ引きこもりへ
数日後、王都のチェリッシュ公爵邸には数人の男女が集まっていた。全員同い年。クリフに頼んで同級生で腕の立つ者を集めてもらったのだ。
「では順番に紹介していきます」
「お願いします」
執務室で仕事をしていたシャーロットにクリフは言う。
「セレスト・アストラ。エルフの里から来た里長のご長女です」
「セレスト・アストラです。弓術を得意としており、魔法も風と火に適性があります」
長い金髪をポニーテールにしているセレストはエルフの里の里長の長女だそうだ。エルフの里は規模こそチェリッシュ領と同じくらいだが、その兵力は王国と良い勝負。しかし、その見目の麗しさから人攫いに遭いやすく、王国の庇護下にいるのだ。
「モーツァルトは体術で次席を取りました。孤児で教会の出身ですが、王妃の目に止まり特待枠で学園に入学しています」
「モーツァルトっす!よろしくお願いします!」
平民でも大会で良い成績を残すとたまに特待推薦で学園に入学出来る子もいる。しかしモーツァルトは教会で育っている。そう言う意味ではハンデの大きい生まれではあるが、そこで王妃の目に止まるという事は運も持っているという事だ。運も実力の内。それにしても語尾が『〜っす』のゴツい体術専門のモーツァルトはやはり違和感がある。
「そしてマイク・ド・カーディナルとヴィンス・ド・モニーク。シャーロット様がおっしゃっていたカーディナル商会とモニーク武具店の息子さんです。マイクは魔法を、ヴィンスは槍術の心得があります」
「カーディナル商会、会頭の息子のマイク・ド・カーディナルや。よろしゅうな」
「ヴィンス・ド・モニークだ。生まれた時から親父の鍛冶仕事を見てきたから、その辺は得意だ。武器が欲しければ作るか仕入れるかする」
「貴方達がクリフの同級生で助かったわ。チェリッシュ領にモニーク商会とカーディナル武具店を招致したかったのよ」
2人は平民貴族の出身で、ここでの実績如何では平民貴族を維持出来る。断るなんてもったいない事はしないだろうが、それでも闇魔法を使えるというだけで断る理由には十分だから心配だったが、引き受けてくれて良かった。
「さて。数日前、私は公爵を継承しました。これで心置きなく領地の運営ができる訳だけど、それにあたっては資金を集めたり人員を集めたりと、私1人では手も足りないし伝も足りない。皆さんの力が必要になってくるわ」
「まずは何が必要なのですか?」
「教会、冒険者ギルド、カーディナル商会、モニーク武具店にはここ数日の間で正式に招致の打診をしたわ。チェリッシュ領は強い魔獣が多いから『冒険者の街』として開発していくつもり。施設の建築はうちで請け負うわ。差し当たってはカーディナル商会には資材を調達してもらっているわ」
「人員はどうするのですか?」
「ドワーフの建築商会に依頼してあるわ。そこにゴーレムとスラムの人達を動員して急ピッチで進めていくつもりよ」
「なるほど。王都のスラムから人手を雇うのですか」
「また、建築ラッシュが終わった後もチェリッシュ領には鉱山もあるし、鉱夫として働き口は確保してあるわ。ま、ドワーフ達にはお眼鏡にかなう人がいたら遠慮なく雇って良いと言ってあるし。その辺は本人達に任せるわ」
スラムの人達は決して怠惰な人達ではない。働く意欲はある者も多い。ならばそこに仕事の斡旋をしたら当然人員は確保出来る。あとはそれぞれの向き不向きややる気次第でアフターケアするだけだ。
「うちの領地にいる人達だけは絶対にスラムになんてしないわ」
「素晴らしい心意気です」
「とりあえず、今日の午後から領地に向けて出発します。馬車はこちらで用意しているわ。領地での宿泊は領主館の脇に宿舎を建てたから、そこに住み込んでちょうだい」
「分かりました。急いで荷物の準備を……」
「お家には伝えてあるわ。使用人さん達が準備にかかってると思うわよ?セレストさんは学園の寮だから自分でやらないとだけど」
「荷物はそんなに多くないですし、すぐに終わります。お心遣い感謝いたします」
「では、午後にまた来てちょうだい。セバスチャン、お願いね」
「かしこまりました」
ようやくチェリッシュ領の開拓に着手する時が来た。シャーロットはワクワクしている。やっと引き篭れる!
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