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夜会

1ヶ月後、シャーロットは夜会のために王城に向かった。今日は正式に公爵位を賜る事になる。相応のドレスを用意し、セバスチャンの他にノア達も出席させる。また、今夜はクリフとの婚約も発表される。そして当然人が多くいる場な訳で、シャーロットは気が重かった。


「お嬢様。今夜ばかりは仕方がありませんよ」

「そうよね……これさえ乗り切れば、あとは領地に引き籠もっていられる……」

「本当に根っからの引き篭もりですね……」

「まあ10年領主館から出ていないのだから当然でしょうが……」

「今後の交渉事は代官に任せるしかないでしょうね」


ノア達も苦笑いだ。そう、今夜が山場だ。今夜を乗り切れば後は『領地開拓で忙しい』とでも言って領地に引き篭もれるのだ。未来のための先行投資だ……


「チェリッシュ公爵家よりシャーロット・フォン・チェリッシュ、家令セバスチャン、護衛ノア・フォン・バカラ、ノエル・フォン・バカラ、ノーマン・フォン・バカラの入場です」


セバスチャンのエスコートで大広間に入場する。バークマン侯爵とクリフも見える。貴族達はコソコソと何かを話している。闇魔法使いに対して陰口なんて通用しないのに。


「それではこれより国王エルドレッド・フォン・オンディーナ、王妃アリシア・フォン・オンディーナ、王太子アルバート・フォン・オンディーナ、第2王子コンラッド・フォン・オンディーナ、第3王子ウォルター・フォン・オンディーナの入場です」


玉座のすぐ足元に最敬礼をして全員が入って来るのを待つ。前回のお披露目会の時は3人だけだったが、今回は成人した王族が全員出席するため入場にも少し時間が掛かる。


「楽にせよ」


頭を上げて立ち上がると、玉座には国王一家が勢揃いしていた。第3王子はお披露目会の時にお会いしたから分かるが、王太子と第2王子は初めてお会いした。王太子は顔立ちと言い貫禄と言い、陛下とよく似ている。第2王子は王妃に似た線の細い顔立ちで、目は陛下の真っ直ぐな目をしている。


「まず、処罰の報告から始めます」


チェスターのアナウンスで会場は騒つく。


「まず、公爵であったザカライア・フォン・チェリッシュは王国の領土開拓を怠った他、長女シャーロット嬢に対する虐待行為、国からの貴族費の着服など。数々の不正を行った事で処分する事になりました。すでに本人は死亡しておりますがシャーロット嬢も受け取りを拒否したため、上級貴族の墓地から追放し身寄りのない者の合葬墓に埋葬する事となりました」


そう、父上は数々の犯罪が露呈し貴族としての身分を剥奪された。生きていたら処刑の上で罪人専用の合葬墓に入れられるのだから、身寄りのない者専用の合葬墓だっただけ温情なのだろう。


「それでは褒賞に移ります。陛下、お願いします」

「うむ。シャーロット・フォン・チェリッシュ、前へ」


その言葉でシャーロットは陛下の前に歩み出て最敬礼する。


「面を上げよ。汝、シャーロット・フォン・チェリッシュに公爵位を授ける。王国始まって以来初の女公爵だが、其方なら期待をしても良いじゃろう」


貴族達はどよめく。それを片手一つで制し、その結論に至った理由を説明する。

荒廃したチェリッシュ領の領主館に生まれてからずっと暮らし、領地に巣を作っていたワイバーンを数十体討伐し、卵から孵ったばかりのワイバーンをテイムした事。チェリッシュ領にあるSランクのダンジョンを闇魔法で生み出したシャドーゴーレムを操り撃破し、奥にある鉱脈から希少な鉱石を採掘していた事。それを用いてゴーレムを作成してダンジョンを周回したり領地の警備などを任せていた事。陛下がチェリッシュ領に行った時も、陛下達が領地に入ったと鳥型の偵察ゴーレムを使い把握し、騎士型のゴーレムを護衛として派遣した事など。

その内容はどれも信じられない事ばかりだが、陛下が、お抱え冒険者が、そしてバークマン侯爵も反論せず納得している事から、それは真実なのだと容易に想像がついた。そして貴族達は感心する様にシャーロットを見る。


「領地に到着し、初めてシャーロット嬢と会った時は驚いた。使用人は早い段階で夜逃げし家庭教師も付けられていなかったにも関わらず基礎教養や貴族としてのマナーも独学で身に付け、全属性魔法を書庫の本で学び全て行使出来るまでになっていた。

しかし周囲に使用人もいなかった時間はあまりにも長く、その弊害は決して少ないとは言えなかった。発語は辿々しく、屋敷とその敷地から外に出る事を渋り恐怖さえ感じる程だった。それを何とか余とバークマン侯爵、 “ 閃光 ” の皆で王都まで連れ出し、冒険者ギルドに登録。どうにか家令や護衛と共になら公の場にも出られる様になった。それはシャーロット嬢が誰よりも心優しく穏やかな性格である事が大きかった」


普段ならこの辺の説明はチェスターが行うのだが、陛下が自ら話している事からもこの事態の重さと陛下のシャーロットへの想いの強さを感じるものだった。貴族達からの同情や憐れみの眼差しは鬱陶しいが、多少誇張はあるものの決して事実とかけ離れているわけではない。これだけの事を並のご令嬢が経験したら性格が歪んでも仕方がない。ただそれが『優しさ』と『穏やかさ』が故なのかは微妙な所だ。

シャーロットは決して『優しい』わけではないし『穏やか』とも言えないと思っている。むしろ他人に期待していないだけで『優しさ』故に怒らない訳ではなく、『期待していない』『信じていない』から何が起きても想定内なだけなのだ。それ故に『穏やか』に見えるだけなのだろう。本当に優しければ父の遺体を引き受けて領地にひっそりと埋めていただろう。父を『あの男』と呼ぶ事もなかっただろう。いくら前世の記憶があるとは言え、転生後の父上も間違いなく自分の父親なのだ。それを容赦なく切り捨てる事が出来たのは『父親として認めない』という意思表示でもあり、そこに『優しさ』はないのだ。私はむしろ冷淡な人間だと思う。前世でも『お前は薄情だ』とよく両親に言われていた。会社でも『氷の局』と呼ばれる程だ。誰とも馴れ合わず、あくまで仕事の関係を貫き、何かあれば容赦なく切り捨てる。OLとしては会社にも同僚にも信頼されていたが、では女性として人間としてはどうだろうか。信じなければ傷つく事もない。実績や仕事ぶりを評価してくれていた上司も、興味本位で近づいて来る口先だけの愛を語る男も、世話をしていた自分を信用してくれていた後輩も。最初から期待していなかった。信じていなかった。いつからそんなに人間不信になったのだろう。いつの間にか信じる事をしなくなっていった。


「そして、そんな彼女をこれから先も公私共に支える者として、余エルドレッド・フォン・オンディーナはシャーロット・フォン・チェリッシュとクリフ・フォン・バークマンの婚約を認めるものとする」


国王公認の婚約と言うのは王族か上級貴族に王女が嫁入りする時の特権だ。それを上級貴族同士の婚約とは言え公認するという事は異例だ。しかもシャーロットを先に呼んだという事は、つまりクリフは公爵家に婿入りするという事だ。

クリフは陛下に敬礼をしてシャーロットの側に歩み寄り手を差し出す。シャーロットは自分の手を委ね立ち上がり、一緒に敬礼をする。貴族達から拍手が沸き起こる。子息達のクリフに対する嫉妬の視線や子女のシャーロットに対する嫉妬の視線で射殺されそうだったが、まあ想定内である。クリフは子女に人気も高く、学園でもかなりモテモテなのだそうだ。そりゃ嫉妬もされる。まあ、国王公認の婚約に文句を言う猛者はいないのだろうが。

そうして始まったのは今後チェリッシュ公爵が必要になるであろう私兵志願だ。家督を継げない子息は成人すると平民になってしまう。次男なら家督を継ぐ兄の手伝いをするために家に残る事はあるが、それより下になるとそうはいかない。そうなる前に何処かの貴族の私兵になるか王国騎士を目指すか、冒険者として一旗揚げるかしか道はない。チェリッシュ公爵家には私兵がいない状態だ。団長も必要だし、そうなると実力以上に人格が大事だ。公爵家の騎士団長の性根が腐っていたら困る。


「シャーロット公爵。ここはベスビアス伯爵の次男、ジェイク・フォン・ベスビアスを入れては如何かと」


バークマン侯爵がアドバイスをくれる。


「ベスビアス伯爵。王国騎士団長でしたね」

「はい。そこの長男はすでに騎士団に入っていますが、次男のジェイクは今年成人したばかり。クリフとも幼なじみで気心もしれています。こういう時は素性のはっきりしている者を家臣として置くのがよろしいかと」

「ジェイクの人格の良さは私が保証します。幼い時から剣術を共に磨いてきていますが、学園の騎士科にも次席で入学しています。実力も申し分ないかと」

「なるほど。では早速打診しましょう」

「俺は構わねぇぞ」


振り返ると、金髪の男の子がいた。脇には父親であろう男性もいる。


「おう、クリフ。ノア達も久しぶりだな」

「ジェイク。もう少し、その態度を何とかしませんか?公爵の前ですよ?」


ノア達は黙って頭を下げ、クリフは困った顔になる。クリフでさえ敬語なのにジェイクは最初からタメ口。まあ、シャーロットにして見たら気楽でいいのだが。


「はん!どうせ取り繕ってもすぐにボロが出ちまうし、長い付き合いいなるんだから最初っから本性出しちまった方がいいだろ?」

「はぁ……。建前というものがあるでしょう?公の場ですよ?」

「相手は闇魔法使いだぜ?どんなにおべっか使ったって無意味だっての」

「ああ、心の内を読んでしまうという話ですか?」

「お嬢の様子を見てると、あながち嘘ではなさそうだからな」


へぇ。流石の観察眼だ。騎士団長に教え込まれたのかな?クリフも侯爵の育て方が良いのか女性に対する対応が良い。


「ジェイクがすいません……。根はいい奴なんです」

「ふふふ。仲が良いのですね」


そういうと2人とも苦笑いをしている。ジェイクの横にいる男性は咳払いをして敬礼をする。


「王国騎士団、騎士団長を任されていますハロルド・フォン・ベスビアスです。伯爵位を賜っております」

「シャーロット・フォン・チェリッシュです」

「うちの息子が公爵のお役に立てるならぜひよろしくお願いしたい」

「騎士団長の御子息なら間違いありません。ジェイク、よろしくお願いしますね?」

「おう、任される。と言っても、まだ学生だから5年は王都なんだけどな」

「いや、シャーロットの家臣になるなら自由出席で構わないぞ。クリフもその予定だしな」

「そうなのですか?」


バークマン侯爵の言葉にクリフも驚いている。


「学園で学ぶよりチェリッシュ領で訓練した方がためになるからな」

「あの魔獣だらけではな。そうなるだろうな」

「マジで!?噂のチェリッシュ領の魔物討伐して良いのか!?」

「そんな簡単じゃないぞ?Sランクの魔獣がウジャウジャいるんだからな」

「それを倒せる様にならねーと!チェリッシュ公爵の家臣って名乗れねーだろ?」

「まあそうだな」

「少なくともシャーロット様は討伐出来ている。つまり、討伐不可能ではない訳だ!強くなれば良いって話だろ?」

「ジェイク。君のそういう所だけは尊敬しますよ」

「『だけ』ってなんだよ!」


確かに強くなるためには向上心が必要だ。それがあるのは素晴らしい事だ。ある意味才能だろう。

その他にもバークマン侯爵とベスビアス伯爵のアドバイスを受けながら、数人の貴族の子弟をチェリッシュ家の私兵として雇う事に決めた。下心は闇魔法で分かるから適当に選べば良いのだが、ここはチェリッシュ公爵の派閥の団結力を優先した。露払いもしてもらえたため大変助かったのも事実なので。


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします

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